CLAP THANKS!!!
今回のお礼はカミヨミ/鉄男&日明蘭SSです

「……ああ、こりゃ、いかん」

鉄男が小さく呻いて、恐る恐るその大きな足を上げると。
靴の下に下敷く様にして草葉の影から一輪の鈴蘭がその姿を覗かせた。
押しつぶされた鈴蘭は茎こそ折れていないものの、
ちょっとぐったりとして元気が無い風に見える。

木の幹に足を取られ、バランスを崩した瞬間に視界の端に捉えた
小さな花を。
咄嗟によけれなかった事が悔やまれて。

「申し訳無い事をしたのぉ…」

くたりと上体を斜めにしてしまった鈴蘭にそっと手を伸ばす。
咲いたばかりだったのか、丸っとした花は淡く輝く白さを湛えている。
折角、綺麗に花を付けたのに。
このままにしておいても、弱ってしまった花は明日にはもう
枯れてしまうかもしれない。

どうしたものかと、その場にしゃがみこんでいれば頭上から
聴き慣れた声が耳に届く。

「鉄男?どうしたのだ、そんな所にしゃがみこんで…」

怪訝そうに近づいて来たのは自分の所属する零武隊の隊長である
日明蘭大佐だった。
真白い軍服に、珍しく下ろしている黒く長い髪がよく映えている。

「…それは、鈴蘭か?」

鉄男の大きな手に収まっている小さく可憐な花を見つけた蘭の目元が
ほんの少し、優しさを称える。
ああ、鬼の上官なんぞと一部で呼ばれておっても、花を愛でたりする
時は目尻が優しくなるんだのぅ、なんて至極無礼な事を一瞬思って
しまった鉄男は、ハッとして小さく首を振った。

「その…、足元に咲いておったのに気付かずに踏んでしもうて…」

申し訳無さそうに言葉を発すれば、蘭が鈴蘭にスッと手を伸ばし
弱った花の具合を確かめ始めた。

「…茎は折れていないようだな、花も…傷んではいない様だ。
踏まれて、状態が傾いてしまっただけだとは思うが…」

「じゃが…このままにしとくのも…」

草葉の影にひっそりと咲いていた小さな鈴蘭。
もしかしたら、自分と同じようにまた踏んでしまう輩が居ないとも
限らない。
そうしたら、今度こそこの花は折れてダメになってしまう。
目に見えてしゅんとしていた鉄男に、蘭が小さく一つ息を付く。

「では、それは私が預かろう。我が家の庭に植え替えれば、
誰ぞに踏まれる事もあるまい」

蘭に言われた通り、素直に自分で持ち帰れないのは同じ宿舎に
いる連中が絶対に面白可笑しくはやし立てに来るのが
分かっていたからでもある。
自分はあまり気にはしないが、それでもそれを配慮して
申し出てくれたであろう彼女の言葉に鉄男が思わず目を瞬かせる。

「それに……この花を見ていると…彼女を思い出してな」

寂しそうにふわりと笑った蘭に、思い出したのは命を落とした菊理姫の存在。
言われてみれば、小さくて可憐な鈴蘭はどことなく菊理姫を彷彿とさせた。
それに、いつだったか帝都に向かう馬車の中であの儚げな少女が
「鈴蘭って可愛らしいですわよね、私、とても好きな花なんですわ」と
群生していた鈴蘭を見て嬉しそうに語っていた。

あの時、蘭は興味なさげに聞いていたとばかり思っていたのに…。

「ああ、それともお前が宿舎に持って帰って自室にでも飾るか?
激や毒丸が冷やかしに来るのが目に見えるが?」

冗談交じりに笑った蘭が、「鉢を持ってくる」とその場を離れれば
残された鉄男は、未だ斜めに傾いたままの鈴蘭に小さく声をかける。

「良かったの、お主。こんな寂しい所でひっそり咲くより
誰かに愛でてもらえる場所の方が良かろう?」

小さな鈴型の花を指先で撫でれば、付いたままだったのか
一雫の朝露が返事を返すかの様に、鉄男の指をゆっくりと伝う。

「そう言えば……鈴蘭の花言葉は確か……」


幸福の再来。


「だったかの……」

呟いて彼女の去っていった方を見る。
ちょっと口は悪くても、心根はとてもお優しい方だ。

夫を亡くし、次いで娘の様に思っていた菊理姫も失って。
それでも涙も見せずに気丈に振舞っている蘭を思えば
ツキリと胸の奥が痛んだ。



あくまで花言葉、その効力が微塵の程も望めなくても。
どうか願わくば彼女に花言葉の通り、幸福の再来をと。



小さな小さな鈴蘭に願わずにはいられなかった。













end.

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