千の夜の夢
□出会い
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小さい頃から夢だったトリマーの仕事。
兄妹のように育ったアフガンハウンドのライナスが死んでしまって10年。
がむしゃらに働いた私は、サロンマネージャーとしてトリミングショップをいくつか統括する立場になっていた。
25歳、専門学校を出てから恋人は仕事。
一人暮らしで転勤もあるからペットは飼っていない。
ペット業界にいて何も飼ってないのは、かなり珍しがられるけど…やっぱり私にはライナス以上のパートナーは現れなくて…。
だから…。
「やること…ない…」
いきなり会社から『法にひっかかる』と連休を取らされた私は、朝からもう何度めか知らない台詞をつぶやいた。
こんな週の中5日がいきなり休みになったところで、日中に捕まる友達はいないし、掃除も洗濯も終わってしまった。
一日どうしようかと、何気なく点けたテレビから流れてきたスポットCM。
今人気のアイドルグループが、テレビゲームで盛り上がっている。
「なんか…この人達ほんとに楽しそー…いいな…」
テレビで見ない日はないほど人気の彼らは、いつ見ても楽しそうだ。
見ているとこっちまで楽しくなってくる。
人気があるのも頷ける。
「面白そうかも…」
ゲームの類いは一つも持ってないし、うまくやれる自信もないけれど、Wiiなら簡単そうだし、私でもやれる気がしてきた。
「よしっ!買いに行こ!」
私は車のキーと財布だけを手に部屋を後にした。
この自分らしからぬ思いつきが、甘くせつない夢のはじまりになるのだとも知らずに。