短編

□さよなら、またね。
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「名字!」


聞きなれた声が聞こえた。腕を振りほどいて一歩進もうとしたけれど、声の主の力には勝てなくて。私は振り向かないまま 俯いた。


「……何、豪炎寺。」

「何って…お前どこに行くつもりだ。」


それは当然だ。豪炎寺が聞くのも無理はない。だってこれから私たちは。

「今日は卒業式だろう、何で学校と反対に行こうとしているんだ。」

「…………………」


ぎゅっと唇を噛み締めて私は押し黙ったまま。
豪炎寺にはわからないよ、私の気持ちなんて。
答える気が無いと悟ったのか、背後から小さな溜め息が聞こえてきた。


「名字、こっちを向いてくれないか。」

「………やだ。」

「………名字。円堂や木野達も心配していたぞ。お前、円堂とすれ違ったのわからなかったのか?」


あ。


そういえば学校と逆に向かって歩き出した時、誰かに名前を呼ばれた気がする。


「……さっきの…」


思わず振り返ったら至近距離で豪炎寺と目が合った。眉尻が下がっていて、「円堂がすぐ電話をくれたんだ。名字が泣きそうな顔で逆方向に歩いていった、って。他のやつらも探してるぞ。」と言われたものだからじわじわ涙が溢れてきて我慢していたものが一気に溢れ出してしまった。



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