蜜柑小説
□ピンクのつき
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グラスに注がれたピンクのサワーをぼんやりと眺める。
テーブルの上に水平に置かれているはずのグラスだが、そのピンクは揺れていた。
耳も目も、触るものも、全てに靄がかかっているみたいで、変だ。
意識はかろうじてある。
「───……ドっ!サドっ!しっかりするヨロシっ!」
感覚がぼけているのか、ぼすんと心地よい衝撃が体に走る。
そこには怒ったチャイナがいた。
俺の名前を呼んだり、ボスボス叩いたり、少しうるさい。
頭の奥が熱く、俺は痛む頭を抑えながらムクリと体を起こした。
斜め前のテーブルの上を見ると、グラスはいつのまにか倒れていた。
ピンクはこぼれ、透明になってテーブルを浸食している。
「チャイナー……。」
「もうっ…。銀ちゃんもトッシーも皆酔っ払っちゃったアル。お前だけは酔わないと思ってたのに、だらしないにも程があるネっ!」
「うー………。ピンク……こぼした……。」
「もう拭いたヨ。」
そうなの?と、テーブルを見るとテーブルに浸っていた液体は既に消えていた。
チャイナの右手にはピンク色のおしぼり。
嫁に来てほしいと思った。
「部屋で寝る?それともここで寝るアルか?」
「チャイナと寝る。」
「…めんどくせー……。ここでいいアルな?お前担いで持ってくより、布団持ってくる方が早…」
ペタンと座るチャイナに近づき、おしぼりの握られた手を両手で解く。
おしぼりはチャイナの手から離れ、床にだらりと落っこちた。
「何しとるネ…?」
「…チャイナの手は俺のでさぁ。」
チャイナの右手をぎゅっと握って、指を絡める。
白くて細い指。
手のひらも、小さい。
「……さ、触りすぎアルっ…!」
指をふにふにしたり、ぎゅっと握ったりしてると、チャイナの怒ったような声が響いた。
そして間もなくして、チャイナは変な声を出した。
原因は、多分俺。
いつのまにか、チャイナは俺の腕の中にすっぽりと埋まっていた。
「……っ…嫌アルっ…!」
「嘘つくんじゃねえよ。ほら、顔熱すぎでさぁ。」
「お…、お前さっきまでヘロヘロだった癖して卑怯ネ…っ!!」
「……。」
卑怯なのかな、と頭のなかで考えてみるけれどなかなか思考が追いつかない。
「……怒んないから、一回離すアル。布団持って来なくちゃ…」
「いい…。歩けるから、部屋で寝る。」
そう言って俺はチャイナの手を握り、なかばチャイナを支えにして立ち上がった。
そしてそのまま、チャイナを引っ張り歩いてく。
「ちょっ…何のつもりネっ!?」
「一緒に寝るんでさ。」