銀魂ショートストーリー

□君は精神安定剤
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夕方六時。




「あ…沖田さん……」


「チャイナ…、どこ。」




静まるよろず屋に、沖田の声が響く。

新八は眼鏡を外して、何度も涙を拭きながら、沖田を中へ通した。



よろず屋の中は異様な雰囲気が漂っていた。

新八の鼻を啜る音と、足音しか音らしき音は無く。

銀時は座りもせず、ただ腕を組ながらボーッと突っ立っていた。




「…旦那。」




ゆっくりと歩み寄り、沖田は声をかける。


銀時はゆっくりと沖田の方を見て、あぁ、とぼんやり呟いた。




「…悪かったな、急に呼んで。」


「チャイナは?」


「今寝たよ。さっきまでずっと塞ぎこんでて、顔も合わせてくれなかったけどな。」




沖田は銀時を見て、一瞬眉間に皺を寄せ、チラリと向こうの襖を見た。

ドタドタと早足で向かう。


そして、数秒立ち止まってから、ゆっくりとその襖を開いた。




「……チャイナ…。」





部屋の真ん中に敷かれた白い布団。


いつにも増して顔を白くさせた神楽が、まぶただけ赤く腫らせながら、静かに眠りについていた。



沖田は思わず溜めていた息をどっと吐き出す。



30分ほど前。

銀時から受け取った一本の電話。


それは神楽が数十人の男に暴行を加えられたとの報せだった。




「…………」




沖田は黙って神楽の頭の隣に座り、神楽にかかる白い布団を静かに剥ぐ。


そして神楽のパジャマの上着をめくった。




「………………」






そこには、電話で伝えられた通りの、無数のアザがあった。


青い痣。

赤い痣。


内出血して、腫れてる痣。




顔に傷が一つもついていないのが不思議なくらい、たくさんの痣。



沖田は腹に浮かぶその痣を、数十秒間ずっと見つめて、そしてゆっくりとまた布団をかけてやった。



白い肌は、透き通って、もはや青く。


そしてその白い肌に滲む、惨たらしい痣たちと赤く腫れたまぶたは、余計に痛々しく感じられた。



嘘だと、否定していて、今もずっと否定し続けているけど。


沖田は自分の目で見たそれが、変えることの出来ないものなのだと、どうしようもない事実なのだと、受け入れざるをえなかった。




「……………」




何に対しての、殺意なのか。


その男たち、もしくは不甲斐ない自分。


悔しさ、好きって気持ち、殺意、殺意。


全部グチャグチャに混ぜたものを、どうにかして抑えようと、沖田は神楽の手をギュッと握りしめた。




「………サ……ド…?」





神楽の目が覚め、沖田はゆっくりと神楽の方を見た。


腫れたまぶたのせいか、神楽の目はいつもみたいに大きく開かれない。


そしてその弱々しい声、仕草、全部に、沖田の胸は太い針に刺されたような痛みを感じた。


神楽は、沖田が握る手を見て力無く笑い、沖田を見上げた。




「なんで、お前がいるアルか…。」




クスクスと、静かに笑う神楽にも沖田は思わず顔を歪ませる。


普段と変わらないその憎たらしい口が、どうしようもなく沖田を悲しくさせた。


沖田は神楽のお腹辺りを見て、ギュッと握る手に力を込める。

すると、神楽の笑い声は消え、その腫れたまぶたが大きく開かれた。




「……見たの………?」





瞳をゆらゆらと動かして神楽は言う。


沖田は何のことだか理解出来ず、眉をひそめた。


そして次の瞬間、神楽の瞳からぶわっと涙が溢れた。





「なんで見たアルか…っ!!わざわざ…っ、どうして…っ!!!」
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