蜜柑小説

□ゆううつ誘拐犯
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公園で目が合ったとき、本当は気づいていたんだろう。

逃げようと思えば逃げれた。


でも、


近づいたんだ。自ら。



知りたくて。

その青く無垢な瞳が、俺をどう映してくれるのか。


透明なまま、君の瞳に留まることができるのか。




「こんにちは、お嬢さん。」




【沖神 ぱられる
   ゆううつ誘拐犯】




……連れてきてしまった。




「あーっ。このね?マクラ、神楽のとお揃いヨーっ!」


「…あぁ。枕。…そーなんだ。」




公園で見つけた、オレンジ色の髪の、青い瞳の小さな少女を誘拐した。

初めての犯罪のわりに、それほど胸はうるさくなく、むしろ穏やかだ。


楽しそうに俺の部屋を歩き回る、神楽という名前らしい少女を目で追う。



《おにいちゃん、どっかイタイとこあるアルか?》



心境的にブルーだったからか、いや、だからといって普通誘拐なんてしないだろ。


……それでも。


多分、……だいぶ堪えたんだと思う。


それくらいの衝撃だった。

あの子が与えてくれたものは。




「ふかふかー♪」




少女はソファに座って、背もたれにボスボス背中を当てて楽しそうに笑ってる。

怖くないのか、この子は。


誘拐犯の俺が言うことじゃないけど、こんな油断だらけだったら絶対危ないと思う。

よかった、と思ってしまった。

俺が、誘拐犯で。


とか……。



「おにいちゃん!」


「わっ、」


「あははっ!おにいちゃんビックリしてるネ♪神楽の声もっと大きくでるから、もっとビックリしちゃうアル!」


「あー……、うん。ビックリしちゃうね。」




何言ってるのかよく分かんないけど、とりあえず頷く。

少女がずっとこっちを見て笑ってるので、なんか俺はいたたまれなくなって、少女の隣に座った。

重みで、ソファは揺れる。


一人じゃない、このソファの深みが、少し嬉しい。




「…って、何してんの。」




なんとなく安心感に浸っていると、少女がぎゅっと抱きついてきていた。

オレンジの頭が、すぐ近くにある。




「…きいてる?」




少女は抱きつきながら、コクンと大きく頷いた。

……聞いてないな。


ふぅ、と小さく溜め息をつき、俺もぎゅっと彼女を抱き締めた。


小さい体。

でも、体温は、俺よりずっとあったかくて。




「えへへ…。おにいちゃん…。」


「…………。」




小さいこの少女に、母親を感じてしまった俺。

どこが参ってるのか、知る術など無いのだろうけど。

どう癒すのかは、この少女が持っている気がして、俺はまたぎゅっと力を込めて彼女を抱き締めた。
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