Junk

□榛秋
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「眼鏡、貸せ」

「何で?」

「いーから、早く」

ニコニコ楽しそうな榛名が、手を差し出してくる。
こうなると人の言うこと(特に俺の言うこと)は聞かないので、眼鏡を外して榛名に渡した。
壊さないでね、って一言添えるのも忘れずに。

眼鏡を外すと、途端にボヤける視界。
映るのは前の席に座る榛名と、いつもの教室。


「ねぇ、もういい?返してよ」


俺の眼鏡を奪った榛名は、俺の言葉を無視して、眼鏡を弄っている。
かと思えば、おもむろに眼鏡を自分の顔に掛けた。


「あっ、バカっ!」
「ぅわ…」

榛名は視力が良いのだから、眼鏡なんか掛けたら、変になるに決まってる。


「お前、よくこんなのいつも掛けてんな。何も見えねぇ。つか、クラッとした」


眉間に皺を寄せながら、榛名が眼鏡をこちらへ突き返してきた。


「当たり前じゃん。目、悪くするよ」


返ってきた眼鏡を掲げて見れば、くっきり指紋が付いていた。
あー、やっぱり。
鞄から眼鏡拭きを取り出す。

「お前、眼鏡外してる時って、何も見えてないの?」

「んー何も見えないわけじゃないけど、視界がボンヤリしてるよ」

視力が良い榛名に、説明するのは難しい。



「じゃあ、セックスの時は?あんま見えてねぇの?」


拭いていた眼鏡を落としそうになって、慌ててキャッチした。よかった、俺、キャッチャーでよかった。


「…ここ教室なんだけど」


放課後で誰もいないとはいっても、教室で話す話題じゃない。
そういう意味を込めた言葉は、呆気なくスルーされた。


「今度、眼鏡掛けてヤるか。んで、俺がどんな顔して、お前のこと抱いてるか見てろよ。俺がお前のこと、どんだけ好きかわかるから」


とんでもない台詞を淡々と言う榛名を殴りたいと思った。
けれども、顔に集まるのは怒りではない熱。


「馬鹿榛名」



言えばまだ眼鏡を掛けていない視界の中で、榛名が愉快そうに笑った。
俺が恥ずかしがってるのをわかっていて、面白がってる。
睨み付けてやると、愉快そうな表情を崩さず、顔を寄せてくる。
教室では、こういうことしたくないんだけどなーと思いつつ、近付いてくる榛名の顔を見る。
くっきりと見える位置まで榛名の顔が来て、俺はゆっくり目を閉じた。


触れた感触は慣れた榛名のもので、するりと入ってくる濡れた舌も、頬に添えられた手も、優しく甘い。



見えなくても、わかるよ。




甘すぎて何か、恥ずかしくなりました。(黒ミ)

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