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□rain
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土砂降りの雨が降る、とても寒い夜だった。


帝国各地で勃発する戦の影響でこの街は既に廃れ果て、麻薬があちこちに出回り、ならず者や盗賊が多く、更には街に住んでいた住人の骸が転がっている、と旅人達の間で噂されていた。


人気の無い街道を歩く影は、どこか雨宿りができる場所を探していた。
フードで全身を覆うその姿からは、蒼い炎の色をした双眼しか見えなかったが、華奢な体格と身長から少女であると判断できる。


雨は笠を増して段々と強く地面を叩く。
水を吸い込むフードが重くなっていき、全身がずぶ濡れていった。少女はそれを気にする事なく歩みを進めていく。


しばらく街道を進んだ後、途中で裏路地へと足を踏み入れた。街道より更に狭く暗かったが、屋根のついた廃屋を見つけたのでどうでも良かった。



錆のついたドアを開いて中に入ると、そこはカビ臭くて埃っぽかった。
荒れた部屋や年季の入った小物辺りから、随分昔に空き家となった事が伺われる。
辺りを見渡して誰も居ない事を確認すると、漸く少女はそっと嘆息して廃屋に足を踏み入れた。




水で重くなったフードを脱ぎ捨て、少女はうなじまでの髪を掻き上げた。
水滴がポタポタと落ちて床に染みていく。

地面に腰を下ろし、腰に提げた剣を取り出した。
鞘から取り出して露になった白い刃はしっかりと磨がれている。





「今日も、生きてる…」




空気中に融けたその声は儚い。




刃を鞘に納め、少女は床に臥せようとした。



その時。








「−−−−−−!」


「……!」




外から何やら騒動が起きている。
人より耳の良い少女はいち早く其を察して目を細めた。


治安が悪い街ならこういうことが起きるのは当たり前だった。
少女はその度に身を隠し、無視してきた。

関わらない。

そう決めて再び目を閉じようとしたが、少女はガバリと身を起こして脱ぎ捨てられたフードを雑に着込み、剣を手に外へと繰り出した。



関わらない、と少女は決めた。
しかし耳が拾った声を聞いた瞬間、無意識に剣を掴んでいた。




少女を動かした声。




それは怯えた子供の声だった。
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