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□雨の日の相合い傘
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どうしよう。朝の天気予報では今日は晴れだったはずなんだ。なのに何だこの有様は。完璧に土砂降りじゃないか。玄関には自分と同じように傘を忘れた同級生やらが文句を垂れている。本当にどうしよう。びしょ濡れになるのを覚悟に走って帰るか、このまま雨が止むまで雨宿りするか。どっちにしろ、自分にとってマイナスにしかならないが。うんうん唸っていると、視界の端に菫色。ざわ、とどよめきが起きたのを無視してその人に声をかけた。



「なあ、神代くん…だよね」

「……そうだったらどうなんだよ」

「いや、一緒に帰らないかと」

「はあ?」



さも訳の分からない事を言う奴だとばかりに片眉を上げた。まあ、そりゃそうだろうな。初対面の人間に話しかけられて警戒しないほうがおかしいと思う。ズボンのポケットに片手を突っ込んだまま、神代くんはその髪と同色の傘を持ち直す。自分は傘を指差して、僅かに微笑んでから言葉を続けた。



「その傘の中に入ってもいいかな。家に忘れてきちゃって。あ、私、レイナっていうの」



後ろから友人のやめときなよ、とかそいつ本物の不良だぜ、とか非難の声が聞こえてきたけど内心謝りながら無視をした。神代くんは深い溜め息を吐くと、一人分のスペースを空けてくれた。



「…入んならさっさと入れ」

「ありがとう」



遠慮なくそのスペースに入り込んで、友人に手を振ってから学校を出た。何でこんなに優しいのに皆には避けられているのだろう。まあ、確かに不良って聞くといいイメージは湧かないけれども。しばらく歩いて、自分より若干背の高い(これでも自分はクラスでも割と高いほうに入るのに)神代くんをちらっと見てみると神代くんの右肩が濡れている事に気が付いた。やっぱり、不器用だけど優しいんだな。



「神代くん」

「何だよ」

「君は優しいな」

「…俺が?」

「うん」



だって肩、濡れてる。水を吸って重たそうにしている制服を一瞥して、笑った。神代くんはふい、と顔を逸らしたが歩幅は私に合わせたまま。素直じゃないなあ、内心苦笑しながらふと周りを見渡してみた。家の近くの通りだ。



「もう家の近くまで来たから、後は走って帰るね。本当にありがとう、神代くん」



さてと、濡れるかもしれないが学校から走るのよりはましだ。これも神代くんのおかげだな。しかし走る気満々の私の手首を掴まれたせいで危うく転ぶところだった。



「わ、とと」

「………凌牙」

「ん?」

「これからは、凌牙でいい」



これからは、という事はまた会いに行ってもいいって事かな。俯いていて、どんな表情をしていたかは分からなかったけれどどちらにしろこんなにしおらしい彼は噂ですら聞いたことがない。友人の話によれば彼はいつだって自信に溢れてデュエルにアンティルールを持ち込むくらいだと、そう聞いていたから。神代く…凌牙の手を包み込むようにして自分の手を重ねたら、ぴくりと反応する指先が可愛くてついぎゅっと強めに握ってしまった。



「…ありがとう。今度、デュエルしてくれたら嬉しいな」



ぱっと手を離して肩にかけたスクールバックを雨に濡れないように抱えなおしてから群青色の傘の下を抜け出した。勿論、また明日の意を込めて手を振るのを忘れずに。























雨の日の相合い傘














おまけ





「…………」

「…………」

「お、おはよう、凌牙」

「…ああ」

「まさか家が隣だとは思わなかったよ」

「俺もだ」

「じゃあついでに一緒に学校行こう」

「……ああ」

「(この子、実は素直な子なんじゃないかな…)」






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