Series
□きみに出会うためのまほう
1ページ/1ページ
それは、エンジンの調整をしていたまだ日の昇らない朝方のことだった。ガレージの入り口からぺたぺたと足音がして、何者かとそちらに視線を向けると一人の少女が階段を降りてきているのが見えた。ここをどこかと間違えたのか。
「どうしたんだ、ここは君がくるような場所じゃない」
キョロキョロと興味津々にガレージ内を見回す少女にそう注意するも、聞いていないのか殊更ゆっくりと一段一段降りていく。今更だが少女をよく見るとこの辺では珍しい銀色の髪をしていた。するといきなり少女がこちらを向いて、口元を緩める。
「いい所だね、あなたがとても大切にしているのがよく分かる」
淡い微笑みが印象的な少女だ。少女は腰のあたりまで伸ばした銀髪を揺らして、簡易ソファに腰かける。あまりにも静かな動作に驚かざるを得なかったが、エンジンの調整がまだだったことを思い出し、急いで終わらせることに専念する。その間も少女の視線を背後に感じ、あまり集中はできなかったが。
ようやく終わった頃にはすっかり日が高くなってしまっていた。
少女の存在をすっかり忘れていて、内心焦りながら後ろを振り向いてみるとそこにはまるで初めから何もなかったかのように、少女の姿は消えていた。
「…白昼夢でも見ていた、のか…?」
けれど、テーブルの上に置かれていたスターダスト・ドラゴンのカードを見ると夢ではないことを知る。スターダストはきちんとデッキケースに入れていた筈なのだから。
「…不思議な、奴だった」
少女が来た時、そこだけ空気が違っていたように思えた。次元が違うというか…。
「また、会えるか…?」
もういない少女に問いかける。いないのだから返事など来るわけがないだろう、と自嘲気味に笑う。
だけど、また会えるような気は、していた。
きみに出会うためのまほう
title:幸福