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□いつも輪郭だけを辿るみたいに
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今朝は何故だか気分が優れず、Dホイールを堤防へ走らせた。潮風が頬を掠めて、少し、気分が落ち着く。深く息を吐いてみた。
「今日も、いい天気だね」
ふと聞こえてきた澄んだ声が、耳に入り込んでくる。そちらの方へ顔を向けてみると先日の少女が長い銀髪を靡かせてやはり微笑んでいた。堤防に上がって陽射しを全身に浴びる姿に、思わず視線を奪われた。
「君は、唐突だな」
何が、とは言わなかった。言わなくとも分かっているみたいだったから。少女はクスクスと口元に手をやって静かに笑う。
「それが私だからね」
風で乱れた髪を梳いて、ふわりとした動作で堤防から降り立つ。ぐんと近付いた距離にたじろいだ。少女はそんな俺を見上げて笑う。こんなに近くで笑った顔を見たことがなかったせいか、僅かな変化さえ分かってしまった。
「…………」
寂しい。まず感じたのはそれだった。笑顔が淡く見えたのはこれのせいだったのか。自分の勝手な解釈だが。
「感じて、くれた?私の感情」
す、と自然な動作で俺のマーカーを人差し指でなぞる。ぴり、と電流が走ったみたいに頬が痺れたがそれは一瞬のことだった。一際強い風が吹いて、目をきつく閉じる。
「また会いに来てほしいな。もっとあなたと…話がしたい」
消え入りそうなか細い声に瞼を開ければ、少女はもうどこにもいなかった。いまだに熱を持つ頬にそっと触れると、それだけで胸が締め付けられる感覚に襲われる。
「ああ…約束する」
ぎゅう、と胸の前で拳を作って空を仰ぐ。
ありがとうと、少女の声が聞こえた気がした。
いつも輪郭だけを辿るみたいに
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