あひる

□06
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「あー、かっこよかった」

「ね」

「そうだ、マフィン、渡さないの?」

「渡せなかったら一緒に食べようよ」

「なにそれしょっぱい、やだ。」

「うぇー、ねんどじゃないんだよ?ちゃんとできたのに。」

「それ尚更じゃないの」



体育館の外で話しながら待っていると、わあっと聴こえた。
選手たちが出てきたんだなって分かった。

マフィンの入った袋を鞄から出して、じっと見る。
いままでの中だとベストでねんどから遠いよ。
荷物になるかと思って後にしとこうと思ったんだけど、先に渡せばよかったかも。
静が出て来たのが見えたけど、誰かとしゃべってるし。



「いるじゃん。何してんの?」

「うん、あの、なんか、」

「うじうじしてないで、早く行け。」

「う、ほら、話してるし」

「仲間に入れば?」

「んな無茶な」



ごちゃごちゃ言うな、背中をばしんと叩いて前に押し出された。
いやいや、ごちゃごちゃは言ってないって。

しゃべっているのは違う学校の選手だし、まじめな話してるんじゃないの、試合内容とかの。
どうしよう声、声を、掛けても、いいのだろうか。

5メートル程手前で文字通りうじうじしながら友人の方を見ると早速、携帯を触っていた。
観戦終了なうってか、ちくしょー、見守れこら。



「おい」

「うわあ!」

「…人の顔見てうわってのはひどくね?」

「す、すみません…、11番の…」



八熊、と言われて八熊さんと呼ぶとヤックでいいぜ、と言われた。
なんて気さくでいい人なのだろう、そしてこの前も思ったけど大きい、すごく。
試合お疲れさまです、と頭を下げると敬語じゃなくていいって。
なんだなんだ、見かけによらず優しい、大栄ってみんな静みたいに冷え冷えしてると思ってたけど違うな。

ヤックさんの左側に立つ人はあんまり大きくないけど、ふわふわした雰囲気で「横山です、俺も敬語じゃなくていいから」と微笑んだ。
この人もまた優しそう、王子っぽい。
わたしも自己紹介して頭を下げた。



「ていうか、いいのかな?勝手に仲よくなって。」

「白石いじれるとかレアじゃん」

「あー、それは確かに。」

「………。(優しくな、い、のか?)」



でも反応薄そうだね、と静を見ながら横山さんは苦笑いを浮かべた。



「あいつ、早く話終われよなぁ」

「彼女待たせてるって気付いてないんじゃない?」

「あ…………」

「え?」

「あれ?」



横山さんは首を傾げてわたしを見た、何が疑問なのか分からずわたしも首を傾げた。
ヤックさんが耳打ちして何か言うと驚いたような顔をして、すぐ申し訳なさそうに、勘違いしてたと謝った。



「彼女じゃないんだ」

「あ、じゃない、うん、すみません……」

「なんだっけ、構いたいんだっけ?」

「忘れてくださいよ……」

「試合の応援まで来て、なんか健気だね。」

「それ俺も思ってた。」

「……(健気とは。)」



手に持ってる袋を指差して、白石に渡すやつ?って聞かれたから、そうだと答えるとまた健気だと。
健気って、あ、意味を聞いてるんじゃなくて、褒め言葉で言ってるのか、ばかにしてるのか、ってこと。



「なに苦い顔してんだ?」

「うーん…健気、」

「すごいなって意味で言ったからね俺は。」

「その俺は違うみたいな言い方…」

「白石いつまでしゃべってんのかな」

「無視すんな」



会話は聞こえないけど、多分盛り上がってるんだろう。
水差すのも悪いし、友達も待たせたままだし。

友人を見るとしゃがみながらスマホを触っていた。
うそでしょ、もうちょい関心持ってよ。
名前を呼ぶと顔を上げた、袋をまだ持っているのを確認するとわたしが何か言う前に視線を伏せた。



「あの……これ、」

「だめ。あそこにいんのに俺らに頼むのか」

「断るの早すぎないかなぁ」

「そうだ、呼んで来ようか」

「えっ、話してるからいいよ」

「中断させればよくね」

「それだけは止めてクダサイ」



つーか何の話してんだ、とヤックさんは行ってしまった。
すごいなあの人、ちょっと顔見知り、くらいの間柄のわたしにもさらっと声掛けてくるし。
他校の選手とも話せるのか、友達多そう。








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