夏戦
□かわいくない
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「ケンジさんケンジさん」
「あ、名前ちゃん、どうしたの?」
「佳主馬に怒られちゃった」
「へ」
「ていうかケンカしちゃった」
「へ??」
「佳主馬ってかわいいよねー」って言ったら「全っ然かわいくないから」って怒ってどっか行っちゃった。
わたしなんか悪いことしたかなぁ
「ケンジさん、わたし悪くないよね」
「…いやぁ…どうだろ…??」
「それまではふつうに話してたの。なのにさ…」
「その、かわいいっていうのがやだったんじゃないかな…??」
「だって本当にかわいかったし……それに、いやだとしてもあんなに怒る?」
本当に怒っていた。
身長なんてわたしと全然変わらない(むしろわたしの方が大きい)のに、座ってたわたしの横に立ち上がった佳主馬はわたしを見下ろして睨んだ。
正直ちょっとこわかったよ。
「えーとね。」
「うん」
「男ってかわいいって言われたくないものなんだよ」
「え、健二さんも??」
「いや、僕は褒められればなんでも嬉しいけど…」
「ふーん…」
「あくまで僕は、だからね。というか………」
「うん?」
「なんでもないや。と、とにかくさ、ケンカはよくないから。早く仲直りできるといいね」
「うん、……そうだよね。謝ってくる」
わたしは佳主馬とケンカなんかしたくないんだ。
もうすぐ佳主馬は名古屋に。
わたしは東京に帰る。
なかなか会えないから
気まずく別れたくない。
…早く謝ってこよう。
って言ったけど、どこにいるのか分かんない。
やっぱ外だろうか。
適当にサンダルを足に引っ掛けて外をうろついていると、ばぁちゃんの畑にしゃがみ込んで雑草をぶちぶちとひっこ抜いてる佳主馬を見つけた。
相変わらずの猫背がやはりかわいい。
さらさらで真っ黒な髪も。
機嫌が悪いときに尖らせる口も。
細い足も、器用な手先も。
わたしには全部がかわいくて愛しいんだ。
「……かーずーまーくん。」
「…………名前……、なに」
「そんな怒んないでよ…謝りに来たんだから。」
「別に謝らなくていいよ。」
「だって佳主馬、怒ってるじゃん」
「怒ってないよ。名前が僕にかわいいなんて言わなきゃそれで僕はいい」
「……じゃあもう言わないよ。ごめんね」
「謝らなくていい。」
「うん。」
「………名前は、か、かわいい、ね。」
「……う、え!?」
「名前の言った意味とは絶対に別だと思うけど…、名前はかわいい。すごく。」
「な、な、何………急に褒めてどうしたの!?」
キャラじゃない。
佳主馬はわたしのこと褒めたりしない。
なんなんだ急に。
「な、なっ、なんていうか。あ、あ、あ、あれから、ちょ、ちょっとおち、落ち着いたっていいいいいうか、な、なんていうか……っ」
「だいぶあわててるよ!?」
「……だ、だからつまり、」
すきなんだよ。
「…………」
「名前のことがすきなんだ。」
すきだからかわいいって思う。
すきだからかわいいなんて思われたくない。
「えっ……と…………」
「わかった??」
「わ、わ、わかった…」
『わたしが佳主馬にかわいいって言ったのは佳主馬のことすきだからなんだよ!!!!!!!!』
って言いたかったけど、佳主馬がなんだか恥ずかしそうにしてて、わたしもなんだか恥ずかしくなって、言えなかった。
あつい
(…い、家、戻ろっか)
(…………ん)