夏戦

□苦しくなくなくない
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「…理一さんて何でも秘密って言って教えてくれないからやだー」



先ほど親戚の女の子に言われた言葉がこれだ。

別に秘密にする意味も理由も特に無い。
だが、教えてくれと言われると秘密にしたくなるのは俺の心がまだ子どもな証拠になるだろう。
すきな子にはいじわるしたくなる、みたいなさ。
いいおっさんが何言ってるんだろうなぁ。

しかし、俺にやだって言った子は高校生なのだが。



「じんのうちりいち。じんのうちりいち。」

「ん、なんか用か?」

「いや、名前ぐぐってみようかなって。」

「こわい」

「だって、理一さん自分から何も教えてくれないじゃない」

「そんなことないぞ?何でも聞け」

「んー、…結婚とかっていつするの」

「未定。」

「彼女はいるの」

「内緒。」

「…………はぁ…」

「、彼女はいないよ」

「…っえ、ほんと!?」

「んー?というかそれぐぐっても出てこない情報だよな」

「…んー?」





自分は鈍くないつもりだ。

きっと勘違いでなく名前が俺にひどく好意的であると思う。
俺だって名前のことはすごくすきだ。
本当に



だが、だからこそだ。

高校生の女の子の将来を潰す勇気や度胸があるほど、俺はもう若くはない。
おじさん、いや、おっさんだ。

だが、大人、いや、おっさんの余裕はある。
伊達に40年を生きてきた訳じゃない。



「名前はいるのか?」

「ん?」

「彼氏。」

「んーいない、かなぁ。どうだろ」

「なんだ、健全じゃないな。」

「いやいや、そういう意味じゃなくて」



名前に恋人がいたらものすごくおもしろくない。
親心とか、そういうのとはまた違う。



「わたし理一さんみたいな彼氏が欲しいんだ」

「へぇ?」

「かっこよくて、頼れる。優しいおじさん」

「お、おいおい、おじさんは余計だろ」

「実際おじさんでしょ」

「まぁそうだけど」



名前と笑いながら過ごしていきたい。

やだって言われたり言ったり、すきだって言われたり言ったり。

そんなことより名前と笑って、楽しく過ごしたいんだ。

愛とかそういうの抜きにして、大きく傷つかないように、たったそれだけ注意して。
名前とずっと一緒にいたい。

そんな風に思って、それでも幸せになりたいと願うのはいけないことなのだろうか。







 

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