夏戦
□02
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弟の名前は佳主馬と言う。
佳主馬が生まれてからもお絵かきとテレビゲームがすきだったわたしは、正直、両親に迷惑は掛けてなかったつもりだ。
それまで両親どちらかと入っていたお風呂もひとりで入るようになり、自分の部屋ができて寝るのもひとりになった。
おやすみ、と言いに行ったとき、一人はさみしくないかと両親に言われた。
「おねぇちゃんなんでしょ、わたし」と言うとなんとも言えない顔をされた。
いま考えるとあれは申し訳なさそうな顔、と言える。
佳主馬はよく泣いた。
わたしが泣き止ませることはほとんど無かった。
からからと音の鳴るおもちゃを揺らしながら丸いおなかを撫でた。
なかなか泣き止まないのでわたしが泣きそうになった。
泣き止ませることができないことに気付いてからは、自分でなんとかしようとは考えず、すぐにお母さんを呼ぶようにした。
お母さんが佳主馬を抱っこすると、簡単に泣き止んだ。
佳主馬が笑顔になるとわたしはすごく安心した。
佳主馬が4歳で、わたしが9歳のとき。
わたしは4年生だった。
手の空かない両親の代わりに、学校帰りに保育園に寄って佳主馬を迎えに行って欲しいと頼まれた。
保育園に行き、佳主馬を呼ぶとすごく意外そうな、驚いたような、それでいてうれしそうな顔をされた。
駆け寄ってきて、佳主馬はわたしに「おねぇちゃん」と言った。
なんだか違和感を覚えた気がしたけど、きっと気のせいだ。
「お父さんとお母さん、ちょっと、いそがしいんだって。」
「うん」
「だから佳主馬はわたしと帰るよ。」
「うん」
歩きながら佳主馬はいろんな話をしてくれた。
ぶらんここげるようになった。
おねぇちゃんのえかいた。
せんせいにおねぇちゃんのはなしした。
楽しそうに話してくれたけど、先生にわたしの何の話をしたのか少し不安だった。
家でわたしと佳主馬はあまり関わっていなかった。
基本的に佳主馬はお母さんといて、わたしは自分の部屋にいることが多かったのだ。
だから佳主馬がこんなにうれしそうにわたしを見上げるのが不思議でならなかった。
佳主馬がつまづいて転びかけたので、これでは危ないと思った。
それから手を繋いで歩いた。
佳主馬の手を握ったのはそれが初めてのことだったと思う。
その日から佳主馬は「つぎのおねぇちゃんのおむかえいつ?」とお母さんに聞くようになり、わたしの部屋に来ては「あそんで」とよく声をかけに来るようになった。
わたしが4歳のころと言えばもっぱら、お絵かきとテレビゲーム夢中だった、と何度でも言おう。
だが佳主馬はお絵かき、テレビゲームに限らず、何かをするわたしの膝に座ることがブームだった。
それに飽きるとわたしのベッドに入り、眠る。
寝顔を見て、かわいいと感じた。
9歳のわたしは、テレビゲームとパソコン、そして佳主馬を見守ることに夢中、というか集中していた。