夏戦

□03
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気付くのに遅れたことがある。
弟はわたしに比べてかなりの甘えただった。

だがそれは、うるさくわがままを言うタイプではなく、さみしくなると俯いてぽろぽろ涙を流すような。

こっちが放っておくことのできない甘え方をする子だった。

それを許していたわたしが悪いのか、それとも元からそうなのか。

5歳になって保育園にも慣れてきていると思ったけど、佳主馬は友達が少なかった。
わたしが遊んであげていたからか、佳主馬自身が人見知りなのか、理由は分からない。


わたしに「いっしょがいい」そう言えるなら周りの子にもそう言えばいいのだ。
一緒に遊ぼう。
それでいいじゃないか。

わたしが言うと、佳主馬は首を横に振った。



「たのしくないから…」

「どうして?」

「………おにごっこ、きらい」

「うーん、(わたしもだ。)」

「らいだーごっこも、おもしろくない…」

「うぅーん、(わたしもだった。)」

「………おねぇちゃんがいない」

「……それは、仕方ない」

「おねぇちゃんといっしょがいい…」

「…………。」

「…………。」

「佳主馬、泣かないで。」

「うん…」

「……、小学生になったら、気の合う友達ができるよ。」

「おねぇちゃんは?」

「え?」

「いっしょ?」

「…………。佳主馬が小学生になったら、わたしは中学生になる。」

「いっしょじゃないの…?」

「残念ながら。」

「…………。」



泣かないで、もう一度言おうかと思ったけど、もう涙が流れているから仕方ない。

わたしが佳主馬を守り過ぎた?
いや、そんなことはないと思う。
目を擦る小さな手をとって、背中を撫でた。

5歳と言えば佳主馬が生まれた年。

わたしはまだ10歳で、しかも周りから見て大きいなんて言えない身長だ。
そう、そんなわたしから見ても。
5歳というのは、こんなに小さかったんだ。



それから2年。
わたしは小学校を卒業、佳主馬は保育園を卒園。

体の大きさに合わない、黒くキズひとつないランドセルを背負う佳主馬を見て。

いまに始まったことではないが。
何かあった時にすぐ助けにいけないのは少しつらいものがあるなぁ、と親のような気持ちになった。



「ランドセル似合ってるよ」

「ありがとう…」

「………どうしたの?」

「……………くろい。」

「え?」

「おねぇちゃんのは、あかかった。ぼくのはくろい。」

「うーん、………佳主馬は、黒が似合うよ。」

「………。」

「似合ってれば同じじゃなくても、ね。小学校、頑張れ。」

「……ちゅうがく、がんばって」

「ありがとう。」



1年生の象徴、黄色の帽子を佳主馬の頭に乗せた。

佳主馬はわたしの中学の制服をもの珍しそうに、でもちらちらと盗み見るように見た。
普通に見たらいいのに、なんで悪いことしてるみたいな動きをするんだ。

いっしょがいい、が強くなって、女子の制服を着たいなんて言わないことを願う。

早々に買ったばかりのランドセルを下ろして、佳主馬はわたしの小指を握った。

わたしも制服を脱いでこよう、確認の為に着ただけだ。



「ど、どこいくの?」

「え、部屋だよ。服を着替える」

「おわったらあそぼう?」

「いいよ」

「まってるね」

「うん。いい子いい子」



別に佳主馬がいると着替えられないなんてこともないから、このままついてきても問題ないんだけど。
佳主馬が気を使ってくれてるんだから、ありがたく受け取ろう。

保育園に入ってそういうことは無かったけど、小学生になればないとは限らない。

変な言葉や汚い言葉、覚えないで欲しいなぁ。

頭を撫でられてうれしそうに目を細める佳主馬を見ながら、もしわたしのことババアとかって呼ぶようになったらどうしようって不安になった。








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