夏戦
□04
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中学1年生、いまは4月中旬。
きょう、体験入部期間が終わり部活動が本格的になる。
絵を描くことがすき。
それが変わらなかったわたしは美術部に入部した。
週3日の活動で、終了時刻は運動部より早めの5時、か5時半。
美術室に行き、各々やりたいように作業を始める。
部活動体験期間で仲よくなれた友人と話をしたり、わたしはこの放課後の部活動の時間が結構すきになっていた。
赤い夕暮れの空のしたをのんびり歩きながら帰った。
「ただい………ったいよ…」
「おねぇちゃん!」
「………ただいま。」
弟がもっと幼い頃に見せていた才能の片鱗は、わたしが気付かぬ間に開花された。
いまでは立派なシスターコンプレックスを患っている。
わたし自身が言うことではないとは思うけど、本当に、確実に。
本人が困っている様子は無いものの、わたしは家に帰る度に下腹とも鳩尾ともつかぬ場所に佳主馬の頭突きを喰らわされて、とてもとても困っているよ。
それ同じ学年の子にしたら泣かれるからね。
わたしと佳主馬の身長差はだいたい50センチ、くらい。
わたしの身長はまだ止まっていないし、佳主馬はいまのところ伸び悩んでいるみたいだし、身長差はこれからも広がるだろうな。
だったら、来年までなら佳主馬のタックルを受け止めてあげられる。
……こんな風にしか考えられない辺り、わたしも大概ブラコンに属するかもしれない。
「佳主馬」
「なに?」
「手に持っている、それは?」
「しゅくだい」
「………」
「いっしょにしよ」
「……うん。」
中学生になって気が付いたこと、中学生には宿題がほとんど無い。
予習復習、は、しなくてもいいから週末課題か。
小学生の時の先生が言っていた、中学は大変なんだ!というのはウソにしか感じないくらいに。
毎日のように宿題しよ!と何故かのりのりで部屋を訪れるので、わたしも成り行きで毎日のように予習復習を行っている。
「佳主馬のおかげで成績よくなりそうだよ」
「……いいこと?」
「うん。ありがとうね」
「どういたしまして」
毎日部屋を訪れては、にこにこと笑顔で話掛けてくる佳主馬にわたしもつられて笑顔になる。
佳主馬が笑顔でいられる努力なら、しても悪くはないかなぁ。
「あしたはやい?」
「ん?」
「かえってくるの、はやい?」
「ああ、きょうよりは早いと思うよ。」
「やったー」
「宿題たのしい?」
「…あんまり。」
「あ、そうなの」
「でも、何かないと、一緒にできないから……仕方なく…」
「おお……(そんな風に思ってたのね。)」
「……ほんとうは、おねぇちゃんとおなじがっこう、いきたい。おなじきょうしつでべんきょうもしたいんだけど…」
「(…あれ?)」
「……どうしょうもないから」
カリカリカリカリ。
佳主馬がひらがなを書き写す音だけが聴こえる。
驚いた訳ではなかったけど、言葉が出なかった。
佳主馬がすごく真面目な顔して変なことを言った気がしたのだ。
なんだかいつもの佳主馬じゃないみたい。
「……………か、佳主馬、」
「もっというとね、まいにち。」
「え、」
「あさとよるだけじゃなくて、ずっと、いっしょだったらいいのにって、おもうんだ。」
「…………えっと……。」
「おねぇちゃんは?」
「………………。」
小さな頬っぺたを赤らめて、ノートに目線を落としたままゆっくり言った。
急にたった7歳の佳主馬がこわくなって、目を合わせるのがいやだった、ノートの隅っこを見ながら当たり障りのない言葉を必死に探した。
「……うん、そうだね」
「ねー」
にこにこ笑う佳主馬はいつもの通りの佳主馬だった。
わたしは一体何に慌てていたんだか。
一呼吸置いて、佳主馬の目を見ると大きな光が入っていた。
どんな望みがあるのか分からないけど、怖がる必要なんか無いはずだ。
佳主馬は佳主馬だし。