夏戦

□05
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「………なんだと…」

「どうしたの?」

「あのね、お父さんもお母さんも、きょう、帰って来られないみたい……」

「えっ」

「………どうしようか」

「どうしよう、」



土曜の朝。
と言っても11時過ぎてるけど。

いろいろどうしたらいいのだろうかと困ってるわたしを見て佳主馬もよく分かってないまま「うーん」と唸る。

佳主馬とゲームをしながら遊んでいるとお母さんから、『母さんと父さんは帰るの明日になります。よろしくね』という内容のメールが届いた。

それって何をよろしくなの?
佳主馬を?それともうちを?
これ大役すぎる。

まぁいいか、あとで考えよう。
いまはまだ悩む時間じゃない、多分。

了解、と返信してベッドに携帯を投げた。



「おねぇちゃん、だいじょうぶ?」

「いつも通りにしてれば大丈夫だよ。たぶん。」

「そっか」

「うん。心配いらない。」



と、思う、から置いとく。


ところで佳主馬がすごいゲームセンスを持っている、特に格闘ゲーム。
一人っ子時代にゲームばかりしていたわたしより上手い。



「友達とゲームとかするの?」

「うん、ときどき」

「こういう、あー、戦うゲームも?」

「うん。」

「佳主馬うまいでしょ」

「えっ、うーん、あんまりまけない、かなぁ、」

「あ、だよね、佳主馬すごく上手だよ」



素直に褒めたが、長い間を置いて「そうかな」と返された。
少なくともわたしよりは遥かに上手だ。
それを伝えると慌てたように「そんなことない!」と否定してくる。
むずかしい年頃だ。

一時、佳主馬に友達ができないことを悩んでいたけど、ゲームをする友達ができたようでわたしはうれしい。



「……このあと何したい?」

「え、なんでもいいよ」

「どこか出かける?遠くは行けないけど。」

「たのしそう!」

「よし、じゃあ、」

「じゅんびする!」

「気合い入ってますね。」

「きがえする!」



起きたままの格好でゲームをしていたのでわたしも着替えなくてはならない。
コントローラを置いて腰を持ち上げた。
どこに行けばいいんだろう。






「無難に公園」

「おねぇちゃん、ブランコ」

「お、一緒に乗る?」

「うん」

「振っといてあれだけど、壊れないか心配、」

「だいじょうぶ!」

「自信たっぷりですね。」

「おねぇちゃんちっちゃいから!」

「え、ちっちゃくない、ちっちゃくないぞ」

「ちっちゃかるい!」

「なにそれ」



佳主馬が早くと急かすから、壊れても知らんぞ、と乗った。
案外大丈夫だった。
子どもが乗ったくらいじゃやっぱり壊れないんだな。
わたしがちっちゃいからでなく。

高めに漕いで揺らしたら佳主馬が嬉しそうにはしゃぐから、わたしもはしゃぎたくなった。
でも二人共だと宥める人もいないし、我慢する。

結構広めの公園で、遊具もたくさんあったし、土曜だからか人もたくさんいた。



12時近くになり、お腹も空いたし喉も渇いた。
佳主馬もお腹空いたと言っている。
財布を確認しながら声を掛けた。



「どうしようか」

「んー」

「どこかで食べる?ファミレスとか。」

「……うー、」

「何か買って家で食べる?」

「……そっちがいい」

「じゃあ、あのスーパー入ろ。」

「うん」



いまでも手を繋ぎながら外を歩いているけど、佳主馬は恥ずかしくないのかな。
急にいなくなる心配がないからわたしは安心できるのだけども。
いや、佳主馬に限っていなくなることはないか。

さて、アイス食べたい。



「おねぇちゃん、ごはんつくれる?」

「え?」

「おねぇちゃんのごはんたべたい。」

「………いいけど、おいしくないかもよ。」

「つくったことない?」

「ほとんどないかな(実習くらいしか…)」

「ぼくがはじめてたべる?」

「そうなるかなー、危険だよ」

「ううん、きけんじゃないから、つくって?」

「小首を傾げるでない。」

「?」



7歳にしては小さいし、多分周りの子よりもおっとりしている。
贔屓目?それもあるかもしれないけど、佳主馬は実際よその子よりかわいいのだ。



「何食べたい?」

「てづくり!」

「もっと狭くして…」

「かんたんでいい!」

「うーん、何がすき?」

「おねぇちゃん!」

「あ、食べ物でお願いします。」

「おにぎり!」

「予想外なところつきますね」

「へー」



かごを持って中に入った。

適当に買って帰り、佳主馬とおにぎりを作ることにする。
おにぎりも立派な手作りであることをわたしは佳主馬に学んでほしい。

そして将来できた彼女が作ったおにぎりに幻滅しない子になってほしいのだ。

言い訳じゃない。
だっておいしいし、実際手で作ってるし。



「よし、佳主馬、アイス買おう。」

「やった」

「(これでごまかされてくれ……)」



アイスが溶ける前に家に帰らないといけない。
ちょっと急ごうか、と言えば、「はしるの?」と返された。
じゃあ、転ばないように、と言ったらしばらくで転んだ。

期待を裏切らないな、フリじゃなかったんだけど。



「あー、擦りむいたね……」

「う、いたい、」

「立てる?」

「うん、」

「…………おんぶしよっか。」

「えっ、えっ、」

「(なぜそこで照れる…)」



涙目の佳主馬に歩かせるのも、なんだか気が引ける。

右手の袋はちょっと重いけど、佳主馬が泣くくらいなら加わる重みも軽いものだよ。さあ乗るんだ佳主馬。(何語だこれ。)



「ぼ、ぼく、おもいよ、」

「なに女子高生みたいなことを、大丈夫だから乗りな。早く消毒しないと。」

「う、ごめんなさい…」

「大丈夫だって。」

「…………」

「…………」

「………おねぇちゃんにおんぶしてもらうの、はじめて」

「んー、そういえばそう、かな。」



初めてふたりだけで公園に来た。
初めてごはんを作る。
初めておんぶをした。

あと、初めて両親がいない1日を、過ご、す



「はあ……忘れてた。」

「え、なぁに?」








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