あひる
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放課後家に帰る途中のこと、おばさんからマフィン焼いたから家来ない?メールが来て、おなかすいたなぁと思ってたところだったから近くにいるんですぐ行きます!とすぐに返信した。
「本当に料理上手ですよね、おいしいです」
「うれしいわ〜もう1個食べる?」
「そんなそんな、いただきます」
「紅茶のおかわりは?」
「ぜひ!」
いやーおいしい!
マフィンなんて自分じゃ作らないから普段は食べられないし、しかもできたておいしい最高!
おいしい紅茶まで淹れていただいて、どこの貴族のティータイムだよ!わたし貴族!なんて浮かれまくってる。
「じゃあ名前ちゃんの家にも私が届けるわ。」
「えっいいですよ!すぐ帰りますからっ」
「いいのよ。名前ちゃんのお母さんと話したいし、のんびりしていってね。」
「す、すみません、何から何まで…」
「いいわよ〜あ、そうだ。」
「?」
「これから静が帰ってくると思うからちょっと相手してあげて」
「ん…?」
「荷物取りに来るだけって言ってたから、すぐ戻っちゃうけど」
マフィンをまとめながらおばさんはとんでもないこと言い出した。あれ、前にも似たようなことがあったような…?
口をもごもごさせながら考えていたら玄関の開く音がした。
「あ、帰ってきたみたい。じゃ名前ちゃん、静のこと頼むわね!」
「ふぁい。」
口を押さえながらはいとは言ったけど頼むって何をだ、って思った。
まぁ普段からすごくよくしてもらってるからちょっとくらいのことは気にしないでおこう。(こういうお菓子とか。)
なんにしても、おばさんにそのつもりがあるのかは分からないけど、静が来るときわざわざ呼んでくれるってことがありがたい。静はメールなんかくれないし、わたしも送らないけど。
おばさんはどういうつもりでわたしに連絡をしたんだろう。
静とおばさんが話してるのがなんとなく聞こえて、もうすぐ来るのか?来ないのか?と思いながら第一声を考えた。
久しぶり?お邪魔してます?会いたかった?
一体何が正解だ。
分かんない、紅茶少し口に含む。
静のお母さんは紅茶を淹れるのも上手だ、おいしい。
がちゃ、と取手の下がる音がして緊張がピークに達した。
なんで緊張してるのか分からないけど。
「…静」
「なんだ」
「なんで開けないの」
「……………」
分からない、と静が言って取手は元の位置に戻った。入らないつもりか。
ばたばたと扉に駆け寄り思い切り開ける、静は驚いたように声をあげた。
「なんだよ」
「こら逃げるのか!」
「いや、単に会う理由がねぇなと思って」
「ひ、ひどいっ鬼!鬼嫁!」
「鬼嫁は違うだろ」
「理由が無いと会ってもくれないの!」
「名前、落ち着け」
「本当だよ、静もこっち来て紅茶飲んで落ち着こ。わたし、淹れてあげる!」
「忘れてんのかもしんねーけど、ここ俺ん家だからな」
「マフィンも食べ、あ、手洗いうがい、」
「俺すぐ戻るけど」
「ちょっとくらい、世間話くらい、してよ!」
「………」
紅茶だけな、と言って静は座ってくれた。
どうやら静は押しに弱い、メモしとこう。
「あの、紅茶って、どうやっていれるの…」
「……代われ」
「すまん」
「いいから座ってろ」
「はぁい…」
手を洗って、かちゃかちゃ手際よく紅茶を淹れた静はわたしの正面に座った。
わたしから一番遠い席についただけか。
じろじろ見てたらいやそうな顔してなんだ、と言った。
なんでもないけど、とわたしが言うともっといやそうな顔をした。
「なんか話とかあんの」
「え、おばさんが静が来るって言ったのついさっきだから、なんにも考えてないんだよね」
「………(やっぱりあほなんだよな)」
「あ、ちょっとだけ考えたんだった。」
「…何。」
「久しぶり、お邪魔してます、会いたかったよ」
「………」
「………」
「……………あとは?」
「これだけ。」
「あほ。」
「なんだと。最近どう?も追加してあげる」
「普通。」
「これだもんな!そりゃ盛り上がらないよ!」
食べ掛けのマフィンにかじりついたら静が「それ、俺のは?」と言う。紅茶だけって言ったの静のくせに!
にしても無いってことは残りはわたしの家に行ったのかな?申し訳ないと同時になぜおばさん全部持って行ったんだ。
「…食べかけオッケー?」
「名前のだろ。」
「わたしもうすでに1個食べてる。」
「…………。」
そういえば昔はいろんなもの半分こしたなぁ。上手に割れなくて粉々になったりぼろぼろになったりして、静もわたしもあーあ、って顔してたけど。それでも半分こしてたね。覚えてないだろうけど。
わたしの手にあるときはそこそこの大きさだったマフィンは静のところに移ったら小さいものになった。わたしと静じゃ一口の大きさも違う。
「……静は本当に大きくなっちゃったよね」
「なっちゃったって、なんだよ。」
「静より大きい人いるの?」
「……いる。」
「バスケの人?」
「ああ」
「……今度試合見に行くね、こっそり」
「すでにこっそりじゃねぇよ。」
マフィンを食べきった静は紅茶を飲んで立ち上がった。
そうだ、荷物を取りに来たんだった。
「ねぇ、静。」
「なんだ」
「来るなって言わないの?わたし本当に行くよ?」
「来たきゃ勝手に来い」
「え………。」
「……なんだよ、にやにやして」
「なんでもない。」
優しくなったね、って言ったら嫌みにでもなるのかな。
静はきっとなんとも言えない顔して、あっそ、なんて言うんだ、きっと。
「今度、マフィン作ってみることにする。」
「へー」
「上手になったら静に食べてほしいなー」
「上手になったらな。」
「…………。」
「なんだよ。」
「なんでもないよ。」