あひる

□02
1ページ/1ページ















学校帰りに本屋に寄った。

新刊が出てるかもしれない、あとマンガも。と一人で雑誌コーナーをうろついていた。

ふと目に入ったのは月バスで、ああ、そういえばコレ吉田(この前の友人のこと)が買ってくれる予定だったのになぁ…と落ち込んだ。

いま買うべきかを悩んでいると後ろに気配を感じる。
え、なに痴漢?痴漢なのか?

こんなゴツイの狙う人いる…?と振り返ろうとしたら肩を叩かれた。

その肩の叩き方に覚えがある。
さぁ、と自分の身体中から血の気の引く音がした。この引いた血はどこに行くんだろうなぁ、と現実逃避を始めると同時に、「ごめんなさい!」と言うと振り返らずに本屋からダッシュで逃げた。現実と本屋と肩を叩いた人全部からまとめて逃げたんだ。



「はぁっ…はぁっ……拒否反応が出た………」



全然関係ない人だったらすごく申し訳ない、いや謝って来たし大丈夫だ。ついでにここまで来たんだし大丈夫だ。きっと。

手を膝について息を調えているとまた肩を叩かれた。

誰だよ!疲れてるんだよ!

勢いよく振り返ると見知ったカオだった。

引いたはずだった血はもう一度さぁ、と引いた。



「やぁ」

「や、や、やっ(やぁじゃないよ!)」

「拒否反応が出たなんてひどいナ」

「……な…っ、なんで…っ」

「さて、なんでデショウ?」

「……………。」



なんでだろうなぁ……!!


振り返って居たのは若干呼吸が乱れている新丸子の常磐時貴さんだったのだ。

常磐時貴さんと言えばあれだ。

先日この人に会うために新丸子まで行ったのだが、いや、わたしではなく吉田が会いたかったようなのだが。

いろいろありわたしが会って、話もしたのだ。

別にうれしくなかったし、いい思い出にもならなかった。

その時後ろから肩を叩かれたのを思い出して拒否反応が出た。

とりあえず息があがってるから、まずは息を調えて…次に、次に………



「……あなた、なんなんですか!」

「ハハ、怒ってる」

「そりゃ怒りますよ!」

「じゃあ俺も怒っていいよネ?」

「え」

「デートのお誘いも蹴られたし、名前も言わずに逃げちゃうし。」

「……………」

「しかも。」

「……………」

「しっかり写真も撮って行ったしネ…」

「ごめんなさい」



膝をついて謝った。
いや正格に言うと気が付いたら膝をついて謝っていたんだ。ジャパニーズ土下座ってやつ。

さすがにトキワさんもびっくりしたのか、あわててわたしの体を引っ張り起こした。



「そんなに謝らなくても…」

「謝っても足りないです。すみませんでした」

「デートしてくれたら許すヨ」

「じゃあ許してくれなくていいです…すみませんでした」

「…………ふーん。」

「………何ですか…」

「…………この制服、高校すぐ近くだネ。今度会いに行くヨ」

「うわぁ、トキワさんって結構ゲスなんですね…!」

「ありがとう」

「褒めてないですって…」



なんでこのタイミングで会うのかな、あしただったら吉田とうろつく予定だったから吉田がトキワさんに会えるしよかったのに。

ていうか、なんで制服なんてものがあるんだ。私服校に行けばよかった、丸校とか。無理か。



「トキワさん、部活は…」

「きょうは自主練。」

「自主練しないんですか…」

「んー、君も来るならしようかナ」

「意味分かりませんけど。ナンパですか」

「うん。」



爽やかな笑顔に腹が立つ。こんなこと他人に思いたくないけど、うざいこの人。

だいたいわたしはイケメンと関わらないって決めたんだよ。

なのになぜイケメンの頂点に立ちそうな人と一緒にいるんだわたし。



「わたし男の人と話すのきらいなんで…」

「じゃあなんで丸校に?」

「スタバと月バスのためですよ…!」

「ああ、そっか。」

「分かってくれたなら、わたしは帰りますね。さよなら」

「だめ」



肩を掴むな。このままじゃわたしは肩触られるの恐怖症になってしまう。



「ケータイ、持ってるよネ?」

「持ってま、すん」

「すんって。」

「きょうは持ってないですって意味です。」



やばい個人情報が持って行かれる。
そう思ってきょうは家に忘れたと言ったのに、タイミング悪く着信音が流れ始めた。最悪。



「……………」

「鳴ってるヨ?」

「トキワさんのじゃないですか…」

「俺?んー、俺じゃないみたい。ほら。」

「………………、」

「早く出なヨ。急用かも」

「……………はいっ、苗字ですけど!?」

「ふふ」



笑ってんじゃねーよ!

つーか吉田じゃん!なんなの吉田!

電車来るまで暇だからとかなんなんだ!こっちは暇じゃないわ!踏んだり蹴ったりだわ!お前がわたしだったら今頃わたしのこと殴ってるよこの暴力女!
お前のせいで個人情報持ってかれるっつの!



「吉田のばか!」

「落ち着いて苗字さん」

「は!?なんで名前…!」

「いま自分で言ったデショ」

「あああああ、もう、よ、吉田!トキワさんに代わるから!」

「えっ」



ケータイを押し付けて、意味分かんないけど涙が出てきたからそれに耐える。

吉田のばか!トキワさんのばか!
もう誰も信用しないからな!



「はい、名前ちゃん」

「は!?」

「吉田さんが教えてくれたヨ。いい子だネ、吉田さん俺のファンなんだって」

「……………」

「吉田さんのアドレス送ってくれる?」

「……赤外線でいいですか…」

「あ、赤外線ついてないんだ、ごめんネ」

「じゃあ出すので直接打ち込んでください…」

「電話帳見て。」

「え?……………え」

「俺のアドレスと番号入れといたから。そこに送ってくれる?」

「……………。」

「……………。」

「わ、分かりましたよ…!」



送ればいいんでしょ!?

アドレスくらいならすぐ変えられるし、トキワさんもわたしなんてすぐ飽きる。

大丈夫、多分、大丈夫だ。

ていうか自分のアドレス打ち込めるくらいなら吉田のアドレスも打ち込めよ。



「……はい、送りましたよ」

「ありがとう、…ところで名前ちゃん」

「何ですか。ちゃん付けきらいなんでやめてください」

「じゃあ敬語きらいだからやめてくれる?」

「………善処するってことで。」

「名前ちゃん」

「分かった。分かったからやめて鳥肌たつ」

「………じゃあ、名前って呼ぶネ」

「………。うん、いいよ…」



なんでこんなに絡まれるのか分かんないけど、悔しくてしょうがないから、スタバで甘いコーヒーの真ん中のサイズくださいっておいしいコーヒーを一人で飲んでくる。

月バスはまた今度ってことで。










イケメンは滅べばいい













[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ