あひる

□03
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「上木くん、かわいい…、」

「そうかよ」

「うん、なんか、なんかね、かわいい……、」

「……………。」



静の一個下、あ、わたしの一個下でもある。
上木鷹山くんがかわいい。

大栄高校のバスケ部で、背はわたしより少し低いか同じくらいに見える。
さらさらした長めの黒髪、白い肌。
切れ長の目に、時々への字に歪む唇。
上木くんはどこを取ってもかわいいな。



「静はこんなにかわいい人と毎日バスケができるのか」

「男だからな、あいつ。」

「やだなぁ、分かってるよ」

「…………。」

「あ、静、試合お疲れさま。これからまた練習だっけ」

「ああ。」

「体力あるねぇ」

「無かったらバスケなんかできねーよ」

「それもそうか、バスケまん」

「意味分かんねぇ。」



あした練習試合、とだけの連絡はよくよく聞くとわたしの通っている高校のバスケ部とのものだった。
前日の夜にいきなりメールが来たので、返信の代わりに電話を掛けた。
メールが上手くないのに加えて、静の声が聞きたいと言うわたしの勝手な判断。
第一声が低い声で、なんだ、だったから元気なくなったけど、めげなかった。



「あ、ちょ、静!なんで前日なの、もっと早く教えてよ!」

『連絡来ただけでもいいと思えよ。』

「う、そうか……、何時から…?」

『午後。午前はこっちで練習、午後はそっちで練習試合。』

「そっちって?」

『名前の学校。』

「うわあああ!」

『うるせ…』

「えっ、静来るの、うわー絶対行く!勝って!」

『お前の学校相手なんだけど』

「わたしは学校より静の応援!」

『あっそ。』



翌日、観に行って感動した。
上木鷹山くんがかわいすぎて、間違えた、静があまりにかっこよくて。

なんであんなに柔らかい動きができるの、シュートなんかもばすばす決めちゃうし。
ああもう、誰よりもかっこいいよ。



「おい、カオ」

「え?」

「めっちゃにやけてる。」

「うそっ、きも……。」

「上木そんなにイイか?」

「え、イイって」

「かわイイ、とか。」

「かわイイ!うん、かわいい!」

「かっこイイ、とか。」

「かっこいい、は……、わたしが中学生だったら思った、かも!」

「中学生………」

「うん」

「…………。」

「ほら、静って中一の時160センチくらい?」

「……夏には160超えてた、と思う。」

「上木くんってそれくらいでしょう」

「………。」

「あれ、もっとあるかな」

「いや、160くらいだろ。」



上木くんって静にちょっとだけ似てる気がする。
中学生のときの静と背格好が似てる、切れ長の目が似てる、
薄い唇が似てる、白い肌が似てる、静の髪はもっと短かったけど、髪の質は似てるんじゃないか…?
黒くて艶々してて、動く度に柔らかく揺れる。

あの頃の静との思い出、わたしには全然無いけど、じゃあ代わりに似ている上木くんと思い出を作るかと言われたらそれは、いいけど、違うと思う。
ああ、わたしは静のものが欲しかったのに。



「……おい、上木。」

「え、」



俯いていたら静が上木くんを呼んだ。
わたしが上木くんに会いたいって、静が思ったのかも知れない。
ああ、静ってば優しい。
でも違うんだよ、わたしの頭は静のことでいっぱいなんだ。



「なんですか?」

「あー……、こいつ、名前っつって、」

「なに、白石の彼女?」

「オマエは寄ってくんな。」

「う、は、はじめまして。苗字名前です…」

「…上木鷹山です。」

「(見れば見るほど似てる気がする……、)」

「……えっと、先輩の彼女、さん、ですか?」

「いやっ、ちがいます!」

「え。」

「ち、ち、ちがいます、わたしが一方的に…、」

「一方的に…」

「静のこと構いたいだけです!」

「…………。」

「えー…」

「ぶはっ、構いたいってなにっ」

「……うるせえ。」

「わ、悪い。」

「…………。」



うわ、恥ずかしい、言葉選び間違えたっぽい、でも彼女じゃないし。

静はちょっと不機嫌になりながら髪の長い背の大きい人(静より結構大きい。)を追い払った。



「えっと、上木くんはちょっと昔の静に似てる気がします。」

「(中学生って言わないのは名前なりの配慮か…?)」

「はぁ、そうなんですか…」

「はい、あ、こんなこと言われても反応困りますよね!」

「まぁ、そうですね。」

「上木くんは静のことどう思います?」

「え」

「ほら、ちょっと性格はあれじゃないですか」

「オイ」

「(ああ、確かにちょっと…)いや、白石先輩すごいと思います。」

「おぉ、やったね静!」

「何がやったんだ」

「静すごいって、わたしもすごいと思う。」

「上木と話したいんじゃなかったのか」

「え、う、」

「(どう考えも僕のことは考えてないでしょ。白石先輩って。)」

「鈍いな。」

「……戻って来てんじゃねぇよ」

「いや。そろそろ移動、だとよ。」

「あっ、そうだよね、申し訳ない。」

「…………。」



長髪の長身のおにいさんが戻って来て、静は忙しいということを思い出した。
わたしの相手をする暇は無いんだ。
そう気付くとやっぱりちょっとさみしいと思うけど、仕方ない。



「次はもうちょっと早く連絡ちょうだいね。」

「できたらな。」

「ウ、ウン、冷たいな」

「じゃ。」



歩き出した静に手を振る。

わたしは静がいいならいい、だめならだめ。
そう考えてすごしていきたいんだ。

静の邪魔になりたくない。
「また」と言われたら静が会ってくれるまでは会いには行かない。
わたしは静の言う「また」を待つ、ほら、それでいいと思うからさ、本当に。








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