あひる

□04
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なぜ、イケメンが嫌いなのか。
そこから詳しく掘り下げてみようか。


むかし、それはそれは整ったお顔をお持ちのひとつ上の近所のお兄さんがいました。

顔はかっこいいわ、勉強はできるわ、特技はスポーツ全般だわ、非の打ち所のない人で。

当時は恋愛ごとにまったく興味はなかったわたしだけど、いま思い出してみるとなんであの人に好意的でなかったのか、不思議に思う。

不思議…?、いや、不思議じゃないんだよな。

わたしは彼が苦手だったのだ。

彼の行動は常に正しかったし、大人が彼を叱ったところを見たことがなかった。

幼いながらに彼こそが、『まとも』だと思っていた。
間違いだった。

いまだにあの人ほど、まともで狂った人間に逢ったことがない。

爽やかな笑顔でいやなことを言い、断れない状況を作るのがうまい人だった。

同じ状況を作って頼み事をしても彼はあっさりと断ってのけた。
同時に断ることも得意だったのだ。(「めんどくさいなぁ。」と。)

他人だったら、わぁなんてすごい人だろう、で済んだものの、被害はいつだってわたしにあった。
他人事ではいられなかった。

彼を『こわい』と思うまでに時間はまったく必要なかった。

いまでも整ったわざとらしい笑みを向けられると背中を向けてダッシュで逃げたくなる。


もちろん優秀な彼を子供(わたし)なんかのダッシュで振り切ることはできなかったけど。



「いまの話を要約すると?」

「わたしトキワさん苦手。」

「ふーん。」

「だからあまり関わりたくない」

「それはひどいナ」



わたしにだって分かるのだ。
トキワさんがわたしに興味なんかないことくらい。

暇潰し以下の気持ちで構っていることは理解している。

わたしがそれを放っておくことができないのはトキワさんの顔がきれいであること、笑顔が多いこと、モノの頼み方が上手なことから。
つまりあの人と被る。

こわいのだ。

この人のすべてが。



「そんな素振り……あ、最初に会った時は震えてたっけ?」

「ああ、震えが止まらなかった……」

「そうか、だから目を合わせないのカ、てっきり照れてるものだと……」

「(あほか。)……吉田は照れてると思う。たぶん」

「ふーん。」

「え、ていうか吉田は?」

「オレの友人たちといるヨ」

「女子ひとりだなんだかんだ言ってたのに!?」

「吉田さん強いネ、オレも負けちゃったヨ……」

「(遠い目だな…。)……ゲームとか?」

「いや、プロレス」

「は」

「プロレスからそういうことに持ち込もうとしたらしくて、……でも吉田さん全勝だヨ……」

「吉田、格闘技全般のファンなんで…」

「先言っておいて欲しかったナー」

「吉田に手出すなんて誰が考えるんですか」



ちなみに今、トキワさんの友人さん達は、吉田に甘いものを奢っているらしい。(負けは負けだからね。)

吉田の趣味は格闘技を観ること、やること、やらせること。
プロレスやろう、と言われた時の吉田の顔が目に浮かぶ。
わたしはあの表情が苦手だ。



「なんでトキワさんはここに?」

「オレは、ほら、現役選手だからネ」

「………」

「いや、本当に痛かったんだ…千葉さんに殴られた方がマシ……」

「……わたしは1週間引きずった。」

「まじ?」

「まじ。」

「…………。」

「現役選手、ならそういう…湿布とかスプレーとか、あると思うけど………いや、お大事にね。(関わらないでおこう。)」

「痛くて動けないナ〜」

「……プロレスはわたしも苦手じゃない。」

「分かった、ごめん、オレが悪かった、きょうは大人しく帰る、」

「(ああ、そんなに痛かったのか…)」



トキワさんのことすきなんじゃないのか、吉田って鬼だな…。

首元を押さえながら歩くトキワさんに声を掛けた。
振り向いた時、痛そうに小さなうめき声を上げた。



「……イテテ…、何?」

「…………あの、いま、言ったことと変わらないし、何回も言ってるんですけど。」

「……………」

「わたしは、トキワさんとは絶対仲よくなれないって、分かります。だから…………。」

「名前?」

「もう、わたしのこと放っといてください。」

「……………。」



トキワさんに、背を向けた。
驚いた表情をしていて、ほんの少し傷付いたような顔だった。

その顔に、わたしが傷付いた気分になったけど、何も間違ってない。

わたしは彼の全てが苦手で、トキワさんはわたしどこにも興味がある訳じゃないのだ。

そんな無駄なもの、いらないじゃない。








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