魔法

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「……………高いなぁ……」



漫画ならヒュォォなんて効果音の付きそうなこの景色。
素晴らしき絶景!とは言えないものではあるものの、汚くはないと言える。


ここは基本出入り禁止の屋上。
(特別利用ってことで、個人的に、無理矢理、開けた)
自分で言っといてなんだけど、いいんじゃないかなぁ場所なんて何処でも。

なんたってその後にはもう関係なんか無いんだし。

この学校の生徒でよかった。
校舎のすぐ脇にある河がすこし気に入っているのだ。
大きくて綺麗で、見ていると安心する。
安心、していける。



「よし、いくぞ…、」



背中を預けていたフェンスから離れて、後ろ手で思い切りフェンスを押す。

それと同時に思い切り床も蹴った。



この世界にさよならだ、と思ったのはわたしだけで世界はわたしを離す気は無いらしい。


人類が無装備で空を飛ぶのはいまのところ不可能なことのようで。
これはだめだ、ぶつかるという時、地面が眩しく光った。

ぶつかりそうだし、眩しいしで、思わず目を瞑ったけど衝撃はなかなか来ない。

あれ…、おかしい…

衝撃は来ないけど感覚としては床に寝転んでいるような…


目を開くと目の前には湖が広がった。



「……うわ」



あの河と比べられないくらい大きくて綺麗。


だるくて体を起こせずにいたら声をかけられた。

うわー、人がいたと思うと恥ずかしい。

というか…あれ?なんか変だな………。



「大丈夫ですか?」

「…………はぁ、まぁ、なんとか。」

「顔色が悪いです…。医務室に行きましょう、付き添いますよ」

「あ、いや、というか…あの、ここ。何処ですか……?」

「………………」



ライトブラウンの髪と睫毛、引っ掻いたような傷痕の目立つ、少しだけ顔色の悪く見える色の白い肌。
年下、に見えるくらいの…すごく綺麗な人。


ここは何処かと問えば少年は困ったように笑って「医務室、行きましょうか」と答えた。

質問の答えになってないよ、少年。






立ち上がれるかと聞かれたから立ち上がれると答えた。

歩けるかと聞かれたから歩けると答えた。

君の名前は、と聞かれたから苗字名前だと答えた。

日本人なのかと聞かれたからそうだと答えた。

じゃあ日本から来たのかと聞かれたらそうだと答えるのが普通か?

いや、合ってるけど違うと思うんだ。
日本人だし日本に住んでいた。
わたしは日本から飛んで日本に落ちたはずなのに。



「だからおかしい。」

「どうして?」

「……わたしパスポート持ってないし、ここは聞いたことのない地域だし」

「(パスポート??)記憶喪失なんじゃない…??」

「ちがう、ありえない。医者から脳に異常有りって言われても信じないし絶対ありえない。」

「……もう一回きくけど、名前は日本人だよね?」

「そうだよ」

「じゃあ、どうして英語を話せるの?」

「……それは、分からない。わたし日本生まれの日本育ちで……」



不思議なのだ。
最初に感じた違和感の正体はこれだった。

声を掛けられたとき、この少年は英語を話しているのに日本語を聞いているのと同じように頭で理解できた。
そして話すことも同じようにできるのだ。
「読める?」と見せられた本のタイトルも内容もしっかり読めた。意味は分からなかったけど。

一体、なにが起こったというのか。

いきなり、建物の中の医務室だというところに連れてこられて、少年は看護婦さんに話をして、わたしにはベッドで寝るように言った。

訳が分からない。
ベッドには入ったけれど寝転がれるほど肝も座っていない。
知らないところに、しかもいきなり、来て気を抜くなんてできない。

看護婦さんに如何わしいと言わんばかりの目で見られたけど、わたしだってそういう気分なんだよ。
医務室なんて来たくて来たわけではない。

もしかしたら、この人たちはわたしを誘拐したのかもしれない。

看護婦さんはわたしを見たあとに医務室を出た。
「どこに行ったの?」と聞くと「校長室」と答えられた。

連れてきたのは少年なのに…。

わたしを不審者扱いするのか……いや、看護婦さんの(言ってないけど)言い分が分からない訳ではないのだ。



「……ねぇ、わたしは身元もはっきり分からない不審者なの。危険かもしれないの。」

「ははっ、杖も持ってないのに危険だなんて…」

「何。杖って………」

「あれ、所持してないだけじゃないの?ホグワーツの生徒じゃないにしても魔法使いなのは確かだよ。魔力があるじゃない」

「……魔力なんか無いってば。あったら落ちたりしないし、なにより飛べるでしょ」

「うーん…箒には乗れないの?」

「え、箒なんか乗ったことない。まさか君、箒で飛べるとでも……」

「………………」



「杖も持ってない、箒でも飛べない……」少年は呟くようにそう言ってから、気の毒そうな顔してわたしを見た。



「やっぱり記憶喪失なんじゃない?」

「だから、ちがうってば!(あぁもう、あたまいたいな)」






言語力と魔力?の引き換えになったもの。
それはどれだけ残っているのか分からないわたしの残りの人生、加えてさっきまでの世界、もとい平凡な日常、だったのかな。

なんて、そんなことあってたまるか、と言ってしまいたい状況になった。


屋上の鍵を壊してしまった罰かな。
今回のいたずらは度が過ぎたものだったのかな。

まぁ、なんにしても反省は後にしよう。

いまはこの不可解な状況を分かりやすく整理したい気分だ。








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