魔法

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『どうにも彼女、記憶喪失みたいですよ』
『それはそれは…。魔法か?』
『いえ、それらしき痕跡はありません。日本にいたのに目が覚めたら湖に寝ていたとのことで…』
『記憶喪失ではなく…誘拐された……のではないのか?』
『しかし外傷などはみられませんし、何より、学校には入れないでしょう』
『うむ………じゃあ…』






「……てことで。校長先生、君を匿ってくれるって」

「いや、意味分からない」



屋上のフェンスを乗り越えて、飛び降りたら目の前が湖だった。

ってだけなのに、なんでこんなことに……。


一旦、まとめてみると。


ここはホグワーツという学校で、君たちの住んでるところとは違うところにあるもので。
君の倒れていた湖の畔も、君たちの住んでるところとは違う。
本当なら来れる筈がないところなんだよ、ここは。


ということのが、少年の説明だが。


「………よく分からない…。」

「そっか。あ、君は何歳?」

「…………13歳。」

「あ、僕と同い年なんだね。」

「…そうなんだ、年下かと……」

「奇遇だなぁ、僕も君を年下だと思っていたんだ」

「……………」



まったく違和感なくにっこり、と笑いながら答える少年にわたしはぎぎっ、と引きつった笑顔を返した。
できないことは仕方ない。



「…そういえば、君の名前を聞いてなかった。」

「…ああ、そうだったね。僕はリーマス・ルーピン」

「じゃあよろしく、ルーピンくん」

「リーマスでいいよ」

「わたしはルーピンくんでいい」

「名前、こっちじゃ初対面でもファーストネームで呼ぶのが基本なんだ。僕のことはリーマスと呼んで」

「………分かった(じゃあ呼ばない)」

「名前は」

「うん、リーマス・ルーピンくん、よろしく。」

「呼んで」

「必要がある時にね。」

「そう……、分かった」

「(くえない人……)」



ルーピンくんの胡散臭くないわざとらしくない笑顔を自分もできるようになりたい。
そう思いながらもわたしはまたも、ぎしぎしとカタイ笑顔をルーピンくんに向けた。

その時、看護師さんが戻ってきて着いてきなさいとわたしに言った。

どこへ行くのか、と聞くと校長室だと冷たく言われた。
いままで入ったことがなかったのに……、できれば行きたくなかったなぁ。



「じゃあ僕はこれで。名前、またね」

「う、うん。またね……。」



この看護師さんのお堅い表情を目の前にすると、今ばかりはルーピンくんの笑顔もありがたいというもの。
ひとりにしないでくれ、という願いも虚しく、看護師さんは「じゃあ仕事に戻るので」とあのだだっ広い医務室に行ってしまった。
わたしに付き添うのは仕事じゃないのだろうか………。



「名は?いや、わしから答えようか、ここの校長のアルバス・ダンブルドアだ。よろしく」

「苗字名前と申します………。」



手を出されたから握った。

優しい表情を浮かべているし実際、優しいのだろうけれど、なんだろうか、この人………



「名前か、さっそくだがいくつか質問をさせてもらおうか……」

「あ、はい」

「……見た目は東洋系のようだが…」

「………日本生まれ日本育ちの日本人です。年は13で、英語を話せるのはわたしにも分かりません。それと記憶喪失ではないです。」

「ああ、まぁ記憶のことはあとにしよう。……君には魔力があるな、わしが入学許可証を送り忘れたかな?」

「いや、魔力ないです本当に。許可証って……この学校のですか。」

「ああ。」

「届いてもないですけど、送り忘れでもないと思います。フツーに日本の学校に通ってましたので……」

「ほほ…」



ここでも頭のおかしい奴扱い…いや分かってたけど。
少し声が震えてしまったためか校長は苦笑いを浮かべる。
胸を張って言えることではないが、びびっているのだから仕方あるまい……。



「信じる信じないは抜きにしても、あえて言わせてもらおう。君には魔力がある」

「……そんなこと…なんで分かるんですか。」

「魔法使いには魔力を感じられるからじゃ。」

「………………え」

「分かるんじゃ」

「あ、じゃなくて……魔法使い、ですか?」

「ん、うむ。」

「あなたが?」

「わしも、マダムポンフリーも、君を連れてきたリーマスも……君もだ。」

「は……」



魔法使い……。
いい大人が何を言ってるんだ?どこかおかしいのか……と思うけど、ふざけているようにはまったく見えない。


でも、わたしが魔法使いで、魔法が使えたとしたら。
遠い場所(ルーピンくんが言うにはわたしのいた所とは少しちがうところ)に一瞬で来れる、ってそういうことにできる、のか?

話はまとまるじゃないか。
ちがう意味では全然まとまらないけど、さ。



「魔法使い…」

「正しくは君やマダムは魔女じゃがな?」

「……理解しました。」

「物分かりがよくてありがたい。」

「で、でも納得はしてないですよ」

「……許可証を何度送っても信じぬ者もおる。マグル生まれでは魔法使いなど最初は信じられんのだろう」

「何度も送るから尚更いたずらだと思われるのでは……ってマグル?…」

「え、そうか?マグルとは非魔法族のことじゃ。この学校のなかにはマグル、マグル生まれを毛嫌いする者もおる」

「…それは、……校長さんも…?」

「…………。まずは魔法のひとつも見せようかな?」



肯定も否定もせずに、交わして次に進もうとする校長に対してわたしは、特に嫌悪感を感じることはなかった。
むしろ別の驚きと、なんていうか、大人の余裕を感じる。

学校ならば毛嫌いする者、しない者といるだろう。
校長であるこの人はどちらと答えてはいけないのか?
……なるほど、そうか。
この人には単純に余裕があるんだ。



「ああ、名前、杖を持っていないと聞いたが。」

「…持ってないですよ」

「うむ、……わしが援助しよう。制服と教科書もあしたにでも買いに行こうかの?」

「は」

「許可証もいまから書こうか。どうやら送り忘れただけらしい。」

「は?」

「ここの卒業生に苗字という名の者が過去にいるようじゃ。きっとその関係だろう。さぁ、組分けを行おう。」

「は…?」

「君は魔法族生まれだということだな。」

「……いや、苗字という名字は日本にはたくさん…!」

「そうか、だがそれでもいい。問題は学年だの……さてどうしたものか…」

「問題は魔法族生まれかどうかってところですよ…!!」

「魔法族でも非魔法族生まれでも魔力があればそれでいいのじゃ。魔法を学ぶ理由になる。」

「……いやいやいや、適当すぎませんか………」

「適当にやりすごさなければならないこともあるんじゃよ名前。簡単なことじゃろう?」

「……わ、わたしには、むずかしい、です。」

「これから分かっていけばいい。」

「………………」

「で。やはり問題は学年だ…」

「……えと、ルーピンくん、わたしと同い年でしたけど…」

「ほう、リーマスは3年だったな…よし、3年生として入学しようか。知り合いがいる方がいいだろう。」

「え、最初の2年は……」

「言う通り。確かに積み重ねは大切だが、いいだろう。きっと。」

「………………」



かくして。
いまいち納得していないままわたしはホグワーツに入学することに決定した。

こんなにゆるい校長先生でこの学校大丈夫なのだろうか、人の心配している場合じゃないのは分かってるけど、心配になる。








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