魔法

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わたしが騙されていなければここは魔法界。
魔法界2日目、ダンブルドア校長と二人で教科書や制服、杖などの買い物に出掛けた。


目が覚めたとき、変な夢だったな…と独り言を言ったが景色は変わらず医務室だった。
夢落ちじゃなかったか……。
(昨晩は医務室のベッドを借りた。)



学校を出る前校長室で、「あの、わたしお金持ってないですけど…」と当然不安になって言うと。
「知っているさ。だからわたしが援助する」と校長は飄々と言った。

だがそれじゃあ困る。
人の、しかも見ず知らずの人のお金でいろいろしてもらうなんて申し訳なさすぎるじゃないか。

そう言うと校長は気にしてないように笑って、自分の頭に手を置いた。

振り返った校長は校長であって、校長でなくて………、何言ってるんだ?って思うかもしれないけど、本当に校長が校長じゃないんだ。

背はぐっと低くなり、髪も目も黒くなって、さながら……そう、日本人のようだった。

これって、魔法なの……?

驚いたわたしに「ちょっとした変装じゃ。あのままじゃちと、目立ちすぎるからの」と何ともないように答えて更に付け加えた。



「君はこのホグワーツでちょっとでもいい成績をとってくれればそれでいい。さぁ、行こうか」

「…………はい…、分かりました…」



それもまた困るのだけど。
だってほら、わたしあっちの学校でも成績のいい方ではなかったし。

手を差し出されたから躊躇いもなく握ったら視界がぐるぐる回りだした。
体も回りだして、そして声をあげる間もなくその奇妙な感覚は終わった。
ふらつくわたしに校長は「大丈夫か?」と笑いながら手を差し出したけど、もう一度あれに襲われるくらいなら床に膝をつく方がましだった。

深呼吸を繰り返すわたしに校長は「吐かんかったの」すごい、とわたしの頭を撫でた。

わたしの勘は間違ってなかった。
初対面で思ったことは、この人ちょっとこわいな、だったのだ。

いや、この人めちゃくちゃこわい。



「さて、杖を決めている間にわしは他のものを調達してこようか。」

「え、わ、わたし、何でもいいですけど……」

「はは、そういう訳にもいかんのだ。杖だって魔法使いを選ぶ」

「…………。」

「時間がかかるかもしれんし、かからんかもしれんからの。」

「………はい。」



………結局、時間は掛からなかった。

オリバンダーという店主さんは杖に関してかなり優秀らしい。
「君に合う杖を私が探そう。」と言ったあとすぐに箱を持ってきた。

中から取り出した杖を握ると、身体中の神経が指先に集まるような感覚になり、鳥肌が立った。
それは決して気持ち悪いということはなく、むしろ気持ちいい。心地いい。
そんな気分。


わたしの様子を見て店主は「これでいいみたいだな。」と微笑んだ。


店を出てしばらく待っていたら「待たせたかの」という言葉が聞こえて、たくさんの荷物と共に校長が姿を現した。


「は、え、こ、こんなにいるんですか?」

「ん?ああ。一部わしの買い物もあるけどの」

「……………」

「……どうした?」

「……やっぱり、ものすごく悪い気が…、いい成績だってとれる自信ない、し…」

「ほっほ、カタいなぁお嬢さん。できる限りでいいんじゃ」

「…………だって、それだけじゃなくて…」



怪しいし、態度も悪いし、わたしなんか放って置けばいいのに。

杖が決まり、校長を待っている間。
もしかしたら、このままあの人はわたしのところには来ないかもしれない、って思った。

いや、それが普通だ。

敷地内に現れたなら、どこかに出さなきゃいけない。

買い物、という理由で学校を出て、適当なところで置いていく。

それがいい、完璧だ。

なのに。



「……どうして。」

「………………どうしてもこうしてもない。」

「………。」

「わしが放って置けなかっただけのこと。こういうことに理由はいらないのさ」

「………………」



校長はわたしが睨んでも、ちょっとも気にすることなく、やはり飄々と言ってのけた。

にっこりと笑う校長にわたしは大きな安心感を覚えた。



「あ、ありがとうございます……」



さっきまで気を張っていたのが、無駄だったみたいだ。
わたしだって13歳の子どもだ。

お互いに信用できなきゃこっちで生きていけない。
わたしはいい人に出会ったんだ。

いまなら親子に見えるかもなぁ、そう変身した姿の校長を見て思える。








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