魔法

□07
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「君ってリリーのことすきなの?」

「は、……………はい、まぁ…」

「……………。」

「……………。」

「………この前のことは、謝ろうかな、って思って。」

「は、…………。」

「…………。」



僕もリリーのことすきなんだ。

後頭部に手を回して、ポッターさんは照れたように言った。
そんなことは初めの初めから分かっている。

リリーさんと一緒の部屋に住みたい、というのは忘れられないくらい強烈な発言だったから。

わたしはドン引き、の一言につきたけど、リリーさんは呆れてるだけ、というか、なんというか…。
あれだけ美しい訳だし、若干13歳ながら、プロポーズ?とかされるのも慣れているのかも知れない。


ポッターさんの行動は目に余る。
本当にリリーさんのことすきなのかな。

わたしはすきだ。
頼れるのはダンブルドア校長の他には、今のところリリーさんだけ。



「……リリーさんをすきなら、もっと、リリーさんの気持ちを考えるべきかと。」

「気持ちって?」

「どう思われるかとか、迷惑じゃないかとか、あるでしょう。」

「……………。」

「現れたばかりのわたしに、こんなこと言われるの、腹が立つと思います。でも、」

「名前!」

「うわ……ッ」

「確かにその通りだ。」

「……………」

「僕は自分のことしか考えていなかった。」

「………………………」

「リリーがすきなら、リリーのことを考えないといけない。」

「……………」

「全くその通りだよ、名前!」

「……………………、」



わたしの肩をがっしり掴んでぐらぐら揺らした。
やめてくれ、目の前で吐いてやるぞ。

意見が合致したと喜んでいるように見えるけど、どうだろう、たぶんわたしとポッターさんじゃ受け止め方がまったく違うんじゃないかと思うんだけど。



「……リリーさんの後ろをつけるのやめるってことですか…」

「えっ、どうして?やめないよ」

「…あー、そうですか」

「うん。リリーの近くにいる子は僕と話そうとしないから、名前がいてくれてよかったよ」

「(何かを期待されている…)」

「早速だけど、リリーの部屋での様子を教えてくれるかい?」

「……………。」



何が早速なんだ。


慣れない授業に出席して、午後の分も終わってくたくたになりながら寮まで戻ってきたところを、見覚えのある四人に拉致された。

わたしを持ち上げて肩に乗せて運んだのはこの間、話をしたばかりの長身の男の子だった。


ぐぇっ、と情けなく口から出た音のはあんたの肩がお腹に刺さったからなんだぞ。
「変な声」と何がおもしろいのか笑っているけど、こっちは何一つおもしろくない。
文句を言いたかったけど疲れていたからその後も揺れる度に、うぇ、と音が漏れただけだった。

驚いて教科書を落としてしまった、拾おうと手を伸ばしても届く筈がない。
この人は、足も長い、日本人の体型と比べればもちろん、一緒にいるめがねの子と比べても長いはずだ。

落としたことに気付いてくれなかったから強めにばしっ、と背中を叩くと「あー、ピーター、それ」と言って、小さな男の子に拾わせた。

ピーターさん、は教科書を持ってついてきた。
いいのかそれで、いいように使われてるぞ。


階段を登って部屋に入れられ、ベッドに下ろされた。

とりあえず文句を言おうと思ったら、めがねの男の子に先手を取られてしまったのである。

めがねの男の子とは、当然ポッターさんのことだ。



「…………、」

「名前?」

「……タダで教えてもらおうと思ってますか…(むかつくから教えない…)」

「えっ、金か!?金ならある!この男が!」

「俺かよ」

「………………、」



お金があるらしい長身で足の長い、しかも無駄だと思うくらいハンサムで一見完璧な、わたしのお腹に肩を突き刺した男の子はシリウスさんだ。

シリウスさんの薄い肩を見るとお腹が痛くなってきた。
あれが刺さっていたのか……。



「教科書………」

「あっ、はい、どうぞ」



ピーターさんから受け取って、立ち上がろうとすると肩を抑えられた。

ポッターさんはわたしが女子部屋でのリリーさんのことを話すと思っている。

無礼者には話さないぞ。



「わたし疲れてるんで、また今度。」

「ちょっとでいいからー!」

「(うるさい)………、普段と変わらず優しいです。はい。」

「おわり!?もう少しー!」

「………ここから先は有料です。」

「シリウス!」

「俺かよ」

「………円じゃないと受け取りません。」

「シリウス!」

「持ってねぇよ」

「………ではまた今度。」



ショックで床に手をつくポッターさんはシンプルに鬱陶しい。
「円、円か…」とぶつぶつ言ってるけど、いま円なんかもらったって価値0だし、本当はいらない。

ふらつく足取りで歩き、扉まで進むと近くにルーピンくんがいた。

ポッターさん、シリウスさん、ピーターさん、あとルーピンくんを含めて四人に拉致されたのだ。



「やぁ名前。学校には慣れたかい?」

「慣れてないからこの有り様なんだけどね、分かって欲しかったなぁ」

「僕らと関わることもまとめて慣れた方がいいよ。」

「いや、そこは慣れたくないんで……」

「ジェームズもシリウスも、名前を気に入ってる」

「後でわたしのこと、ぼろくそに言っておいてくれるとありがたい。」

「僕が怒られちゃうよ」

「安い友情かよ」

「いや、厚く固いよ」



まだ手をついたままのポッターさんの方を見てルーピンくんは柔らかく笑った。
甘い匂いがした。


あのふざけた二人と仲がいいというのは意外だった。
悪い意味でふざけてるとは言ってない、ルーピンくんと違うタイプに見えると言う意味だ。

ルーピンくんは優等生に見えるのに。



「もちろん優等生だよ」

「もう顔見ないで。」

「でも、勉強は僕より二人の方ができる。」

「……………。」

「エバンズよりもできるから、分からないところを聞くといいよ。」

「………それでもリリーさんに聞くから、いい。」



わたしが足元を見ながら答えると、ポケットから何かを取り出してそれをくれた。

小さなキャンディーだ、……なぜ?



「元気ないから。甘いもの食べると元気になるでしょ?」

「……、ありがとう…」

「学校、早く慣れるといいね。」

「うん。」

「ついでに僕にも早く慣れてね。」

「…うん。」



驚いた顔をしたのはルーピンくんだけじゃなくてわたしもだ。
適当に返事をしてた訳じゃないのに、どうして、うん、って答えたんだろう。


お互い一瞬固まったけど、ルーピンくんはすぐ笑って扉を開けてくれたから「お邪魔しました」と言って部屋を出た。



「おじゃましました…?」

「日本語だよ。」

「ふーん」

「じゃあね」

「ああ、また後で。」



女子部屋に入ってから、ルーピンくんの匂いの正体を鼻先まで持ち上げて嗅いでみた。

十分甘い匂いはするけれど、ルーピンくんからした匂いはもっともっと甘かったような。



「…………たくさん持ってるのかな。」



適当に決めつけて包みを開いてキャンディーを口に入れた。

うん、甘い。








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