魔法
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ここに現れた時の場所、湖のそばに初めて、ではなく二度目だが、来てみた。
もう随分経つのに、なかなか来れなかったなぁ。
忙しいとか場所が分からないとか、いろいろ理由をつけては逃げていた。
この学校は本当に広い、振り向いた城のかたちをした校舎はずっと遠くに見える。
確かこの辺、とおもう、場所で同じように寝転んでみた。
「全部ゆめだったりして」
呟きながら目を閉じると、前にいたところの河の音がどこからかきこえるような気がした。
河に架かる橋から見る夕焼けがきれいだった、それが沈むと星が綺麗に見える。
有名な星座くらいしか知らないけど、ときどき星を見上げるだけの天体観測をした。
そうだ、こんな感じだった。
別に不満があったわけじゃない、嫌なこともつらいこともあったけど、耐え切れない程のものは幸いにもわたしに降りかかることはなかったから。
それなのに飛んだ。
ぐんぐん地面が近づく感覚、足が竦んでがくりと足が揺れた。
はっと目を開くと草の上に寝転んでいるわたしに、声を掛ける人がいた。
恐る恐る声の主を見ると、驚いた顔をしてわたしの肩に手を置いている。
この人、見たことある。
「スリザリンの……?」
「は?」
「……あ、シリウスさんか、ごめん寝ぼけてた。全然似てなかった。」
「なんか分かんねえけど失礼だな。」
「シリウスさんとはタイプちがうかっこいい人の話」
「へー」
なんでこんなところで寝てるんだ、と引っ張り起こしくれた君こそなんでこんなところにいるんだ。
スカートを払って、暇つぶしだと答えたらにやり、笑ってじゃあちょっと来いよと手をひいて歩き始めた。
わたしの返事とかは興味ないのかな。
長い指のついた薄い手のひら、ゴツゴツしてるそれに握り締められて、ちょっとどきっとした。
「シリウスさんの方がかっこいいよ」
「俺はホグワーツ1かっこいいんだよ」
「そうなの」
「そうなの」
まぁモテるのは分かる。
退屈してる時間なんてもったいない、と鼻歌交じりに進むシリウスさんは校舎の方に向かっているようだった。
道すがらシリウスさんに声を掛ける生徒がたくさんいて、それは同学年だったり、見るからに年上だったり、男だったり女だったり、さまざまで。
モテる、って言うか、人気者だな。
誰からもっていうと、違うのかも知れないけど。
どこに行くの、と顔を上げたらシリウスさんはさっきまでのふにゃふにゃした笑顔をしていなかった。
スッと黙って横を通り過ぎたのはスリザリン寮の男の人で、やっぱりこの寮の人とはうまくいってないんだな、と横目で見る。
「ああっ」
「え?」
「おにいさん!あの、スリザリンの、図書館の、インク瓶の、プリントの、」
「えっと…」
「あれ、人違いです…?」
「いえ、合ってます、けど」
「ああ、安心しました。ずっと探していたんですよ。みんなにそんな人知らないって言われて、あなたの存在が不確かかもしれないと思い悩むところまでいったんです。」
「…………」
「………うれしすぎて喋りすぎました。すみません。」
「いえ、」
「おにいさん、元気そうでなによりです。」
「おにいさんはやめてください……。」
前に見た時より伸びた黒髪をさらりと流した、探し続けていたスリザリンのおにいさん。
ついに再会したんだ。
ちゃんと生きてるひとなんだ、と感動してる中。
シリウスさんがわたしをぐらぐら揺らしながら、お兄さんは俺だっつの!と言っている声がすごく邪魔だった。