あひる

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小学校を卒業して、中学に入学した。
違うところに行こうと思ってたのに、結局同じところに行った。

それなのに、中学に入ってすぐくらい、静がわたしを見なくなった。
どことなく、冬頃からお互いぎこちなくて、練習帰りの会話も、静は返事をあんまりしなくなっていたけど、まさかこんな形で切られてしまうとは。
正直、わたしも静を見たくないと思ってしまっていた、だけど決して、一緒にいたくなかった訳では無かったのに。

自分勝手だけど、本当は、変わらないままの静の傍にいたくて。
でも、変わったからといって離れて行かれるのはいやだった。
無理だって分かっていたから、見かけだけでも気にしてないよう見えるように、振る舞っていたつもりだったのに。
自分でも分かるくらい、下手だった。

バスケットになるとリングは高いし、ボールが重い。
かなり腕が疲れる、ミニバスに無かった3点ルール、3Pラインからだとかなり力を入れないと届かない。
だからフォームを崩さずに届くまで練習を繰り返した。
シューターをやりたいと入部のときにわたしは宣言していたし、リングに当たりもしないようじゃだめだと思った。
シューターはスリーだけじゃない、と言われたのはまったくその通りだったけど。

ボールにもリングにもコートにも、早く慣れてバスケットだけに集中して、他のことは忘れてしまいしたい。
強いて言うならば、これがあの頃の本音だっただろう。



「すごいね、全然外さないじゃん」

「うん、なんか調子いいみたい」

「冬にはスタメン取れるんじゃない?」

「調子が続けば取れるかも……」

「頑張れ!」

「冗談だよ」



人数の多くない部活だったから、ユニフォームはすぐもらえた。
春の大会は、短かったけど、ポイントガードとして試合に出してもらえた。
先輩がシューターだったから、でもガードの仕事はいやじゃなかった。
自分からボールが回るというのは、気分がよかった。
それに静のポジションがこの頃ガードだったから、静の視ている試合風景はこんな感じなんだなって知れたこともうれしかった。

夏、3年生たちは引退して、新しく部活がスタートした。
わたしは、半年の間に自然と1年生の纏め役のようになった子と、帰るようになった。



「名前はどう思う?」

「え、何が?」

「最近のメニュー」

「………」

「あたしは、前よりも、緩くなってるって、思うんだ」

「わたしも、そう思ってる」

「やっぱり、」

「でも、どうしようも無いよ」



彼女はさみしそうに、そうだねと言った。
バスケットが馴染んできて、全力で打ち込めると喜んでいた矢先のことだった。
先輩の引退により空いたシューターのポジションと、試合時間フルで走り切れる体力もついた。
なのに、チームの雰囲気から強くなろうとする気配は無い。

へこむな、と肩をばしんと叩いて、いまの部活に馴れたらだめって気合いを入れた。



「もっと、上手くなりたい」

「うん」

「だから」

「うん」

「………」

「もう大丈夫。」



次の大会に向けて頑張ろう、吹っ切って彼女と笑い合った。

2年生が引退したら、わたし達が主要になる。
そればかり思っていたから、当然一学年上とは仲よくはなれなかった。
まぁ、悪かった訳でもないんだけど。

練習が楽ってことは、自主練に力を入れられるってことだ。
早朝、部活後、毎日毎日、とにかく走った。

やりたいことを全力でできない苛立ち、一部のチームメイトとの温度差、成長による自分の変化。
精神的な圧迫感が、わたしを狂わせた。
冬の大会を前にして、わたしの調子は悪くなってしまった。



「調子、よくないね」

「………まいった」

「いままでがよかったし、そういう周期なのかもしれないね」

「そうだといいんだけど」

「あんまり気にしすぎないで」

「うん」



リングに嫌われる、そんな感じじゃない。
むしろバスケットどころか、スポーツから嫌われてる気分だった。

廊下メニューの校内ランニング中。
うつ伏せて動かないわたしを発見した先輩は、青い顔で名前が死んでる!と叫んだ。








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