魔法

□05
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朝、ベッドの上で目を瞑ったまま体だけ起こした。
まだ、ねむたい。

布団の擦れる音がして、そちらをみると天使が寝返りをうっていた。
見間違えなんかじゃない、実際天使に見えるんだから。



「(………そーきゅーと、ってこういう時に使うのかな……)」

「むー…………」

「(かわいい、かわいいどうしよう………)」



ひとり、リリーさんのかわいさに震え、そして冷静になった。

顔を洗わないと、と。

リリーさんにだらしないところは見せられない……。


ついでトイレと着替えを済ませたのだが、初めて袖を通した制服、その姿に驚愕した。

めちゃくちゃ似合わない……。

どういうことこれ、何が悪いんだろ、サイズに問題はない、じゃあ、なに、わたし?わたしが悪いの?



「…………いろ、色だな…。」

「カラダだろ」

「………………。」

「おはよう転校生」

「……どうも、おはようございます。」



他のルームメイトたちの目が覚める前に部屋を出ようと、階段を降りながら自分の姿を考えた。

この深い赤色に、わたしのこの黒髪が合わないんだ。
リリーさんのように赤い髪をしていたら似合う。
きっと、そうだ。

そう思って「色!色だ!色が悪い!」と言い切った矢先、目の前には黒髪のハンサムな男の子がいたのだ。
もちろん制服もとてもお似合いだ。
きのう挨拶したときにはいなかった人で、でも赤いネクタイをしているからこの寮の人であることは分かる。



「すごくかっこいいですね。」

「よく言われる。」

「制服もよくお似合いで…」

「え?…それはありがとう。」

「…………。」

「おれ、シリウス。お前と同じ学年だ、よろしく」

「苗字です。」

「きのう、いなくてごめんな。」

「大丈夫です。気にしませんよ」

「そっか。じゃあ、いいか。」



顔立ちもきれいでスタイルもいい。
制服に包まれたスラリとした長身の彼はかっこいいと表現するのがいちばんな気がする。

3年生ってこんなに大人っぽいのか……。



「……随分早起きなんですね。」

「いや、寝てないだけ。ほら」

「?」

「これの研究をしていた。」

「…………ガムを?」

「ああ。」

「(子どもだった………)眠くないんですか?」

「授業中に休むから問題ないぜ。……あいつは、寝ちまったけどな」

「あいつ……?」

「ソファのところ」



指されたソファを覗くとめがねを掛けたままの、そう、ポッターさんが眠っていて。
くしゃりとした髪にはガムがくっついていた。



「………これは、切らないと取れないかも」

「なにが?」

「ガム」

「ん?……ああ、引っ張れば取れる。」

「えっ」



わたしが驚いた声をあげたときにはにやりと笑ってポッターさんの髪を、いやガムを引っ張っていた。

……わたしは知らないからな。


さよなら、とシリウスさん慌てて背中を向け、その場を離れた。
見てけよー、と言ったけど全力で遠慮だ。


女子寮に戻るとリリーさんたちは身支度をしていた。

わたしに気付いたルームメイトは「おはよう、名前」と声を掛けてくれる。



「お、おはよ」

「名前、朝食一緒に行きましょ」

「ん?うん。」

「あ、食事は大広間でするのよ」

「そうだった…っ」

「ふふ」



行かないと席なくなっちゃうわよ、とリリーさんはわたしの手を引いた。

前を歩くリリーさんは、長くて明るい髪を揺らしながら、談話室で頭を押さえて踞るポッターさんに目もくれずに寮を出た。

ああ、なんだかものすごく幸せだなぁ………と思わず頬が緩む。
そして、ふと思ったのだ。


あれ、何か重要なことわたしは忘れてるんじゃないか?








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