魔法

□09
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「しまった…!」

「どうしたの」

「名前訊くの忘れた……」

「名前?誰の?」

「えーと…。」



ルーピンくん命名の秘密の特訓中、出てきた単語にこれは知ってると、どや顔した時のこと。

ちらっとだけど、あの時見せてもらった。
予習のプリントを見せてもらう約束をしたことを思い出したのだ。
相手にわたしの名前を教えたことで油断していたが、わたしは彼の名前を知らない。
知っていることと言えば、スリザリンの下級生だと言うこと。



「あと、字が綺麗で優雅。」

「優雅、ね…」

「うん、とても優しい人だった。」

「あのさ、普通見た目を答えるよね?名前って時々ばかなこと言うからおもしろいよ」

「君は一言余計だよ。細身で黒髪。」

「そんなの、いくらでもいるよね。」

「……あーもー、ごはんの時に探す。それより、紙のコピーっていうか、印刷っていうか、そういうのって出来たりしない…?」

「…できるよ」

「!」

「でも、一文字一文字、写しなよ」

「………。」

「ね。」

「分かりました…」



ちゃぷ、羽ペンの先をインクに浸けて、ルーピンくんのしてくれる説明を箇条書きする。
時々厳しいけど、基本的には優しいし、分かりやすくて楽しい。
先生とかに向いてるね、と書きながらぼそっと呟くように言ったら返事が無くて。
様子を窺ってみたら、何とも言い表せない顔をしていた。

多分わたしが感じたことのない気持ちになっているんだろう、変なこと言ったんだなと思って、やっぱりなんでもないよ、と同じように呟いた。

机を挟んで正面に座るルーピンくん。
引っ掻き傷とか、弱ったような顔色とかが、いつもよりもよく見えて、明るい色をした髪が少し跳ねていることも、襟から覗く肌に貼られたガーゼとかも。

でも、わたしが知らないだけで、これがルーピンくんの『いつも通り』なのかも知れない。
彼から甘い香りがする、それだけには安心できた。
1年生として入学した方がよかったな、っていうのが今の正直な気持ち。
こんなにも不甲斐ないわたしに、細かい説明をしてくれる。
本当に申し訳が立たない、いつか恩返しができたらいいなって思う。



「スリザリンに友達?いないね」

「だよね……」

「だって僕とあいつら、犬猿の仲ってやつだよ?むりだよ仲よくお友達、なんて。」

「そんな毛嫌いしなくても、いい人はいい人だよ」

「悪い人は悪い人さ」



それ言ったら寮は関係無くなるんじゃないだろうか。
夕食、リリーさんと並びながらスリザリン生を観察していたら、ポッターさんが向かいに座って話し掛けてきた。
見えない。

期待はせずに、友達とかいないのって言ってみたらこの返事。
知っているグリフィンドールの男子がこんな感じだから、スリザリンの人より性格悪いって、いまのところ思ってる。
あのお兄さんは本当にいい人だった。
怒らなかったし、びっくりして反応できなかっただけかも知れないけど。



「名前、誰か探してるの?」

「うん、ネクタイが緑だったからスリザリンの人なんだけど、情報が少なくて」

「名前は?」

「聞き損ねた」

「何年生?」

「分からない、下級生」

「確かに少ないわね。」



セブルスにでも聞いて見ようかしら、頬杖をつきながら言ってたけど、リリーさん優雅、かわいい、しか考えてなかった。



「え、誰って?」

「私の友達、知っているかも知れないから」

「わーありがとう、とりあえず謝罪だけでももう一回したいんだ」

「あとで聞きに行きましょ」

「えっ、わたしも行っていいの?」

「名前がいないと伝わらないわよ」

「そ、それもそうか…」



リリーさんの友達って…緊張する、ふと前を向くとポッターさんがすごい顔して大きく舌打ちをした。



「スリザリンなんか放っときなよ」

「え」

「名前、君ってば分かってない」

「え?」

「そんなんじゃリリー取られちゃうよ?」

「ポッター、名前に変なこと吹き込むのはやめて」

「っリリー誤解だ!そんなつもりは…!(あるけど!)」



グラスに残っていたジュースを飲み込んで、リリーさんは立ち上がった。
わたしもフォークを置いて、ポッターさんにそれじゃあ、と手を振ってリリーさんの横に並んだ。

ポッターは本当にムカツクとか、いやなやつとか、ぶつぶつ溢すリリーさん。
出てくる言葉は汚いけど、唇はやっぱり綺麗に動いているし。
歩く度に揺れる髪も、艶々でふわふわで綺麗。



「リリー、セブルスさんって?」



なんとなく聞いてみると、柔らかく微笑んで、幼なじみなのだと答える。
ちょっと無口で、でも優しくて真面目な人だそうで。

なんかお兄さんのイメージと似てる、スリザリン生はみんなそんな感じなのかなって思った。

あ、小さく声を出したリリーさんの目線の先に緑のネクタイを締めた男の人が歩いて来ている。

リリーさんがセブルス、と片手を上げて声を掛けるとちらっとこちらを見る。
リリーさんを見たあと、眉を潜めてわたしを睨むので肩が跳ねた。

というか、セブルス?さん?確かに無口そうで真面目そう。
初対面で鋭く睨んでくる人が優しいかどうかはさておき、リリーさんのお友達なのだからいい人ではあるだろう。

上から下までじろっと見て、わたしの爪先を見ながらふん、と無感情に鼻を鳴らした。

具合の悪そうな顔色とか、薬品の匂いとかが、ちょっとだけルーピンくんに似ているような正反対のような。

何か用、と低い声を出しながらもリリーさんを優しい目で見つめている。
わー、この目は一緒かな。

リリーさんがわたしの紹介をして、セブルスさんの紹介もしてくれた。
よろしくお願いします、と何故か自然に笑顔になった。
驚いた顔をして固まったセブルスさんに、さらに頬が緩んだ。

あ、リリーさん効果かも分からないけど、わたし、セブルスさんはすきかも。








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