魔法

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わたし結構才能あるのかも、って思ってからでは遅いのはわかってるけど、やっと魔法について勉強する気力が湧いてきたような。

そう思って口にすると、ルーピンくんはいままでにない程のいい笑顔で、へぇ…そう、と言った。
わたしの頭を掴みながら。



「うわっ、ごめんなさい、違うの、これまでを適当にやってきたわけじゃなくて…!」

「仕方ないよね、この僕が教えてるのにそりゃ上達も遅いさ」

「いだだっ、ちからつよいな…!」

「なんのために時間を割いてこんなことしてきたんだろうね?しかもわざわざ人に見付からないようにこそこそ隠れてまで?それなのに君はやる気なんて無かったって?」

「ごめん、すごい怒ってるね…」

「僕だって暇じゃないんだよ?自分のやることもあるし、時間は君と同じように流れてるんだ、なのにおかしいと思わない?」

「誤解はあると思うけど、本当にすみません…」

「ニホンの謝罪ってそうやってやるもの?僕、知ってるよ?ニホン式の謝り方。」



いつもより数段と暗い顔をしながらルーピンくんはわたしを叱る。
なんとなく、機嫌のよくない日なんだな、とは分かっていたのだけど、授業で少し褒められたことで舞い上がっていたからか。
余計な一言を口に出してしまった。

きっと、ルーピンくんも分かってはいるのだ。
最初からわたしに学ぶ気がないなら彼だってすぐにこの特別授業を中止しただろうし、うまいこと学校を辞められるようにその優秀な脳みそを使って考えてくれたことだろう。
でも、わたしが魔法を理解したいって思ってること、ここで生きていきたいと願ってること。
出会ったときが他の人とはちがうから、そういうわたしの事情を知ってるから、ルーピンくんはわたしを見捨てずになにも知らない子どもに教えるように、丁寧に分かりやすく、説明して、覚えさせてくれたのだ。

わたしもそのことを深く感謝している。
ルーピンくんとの特別授業を当然のものだなんて傲慢なこと思ってない。
彼に頼るしかいまのわたしには方法が無いから。

わたしにはなにひとつ、返せるものを持っていない、だから毎回申し訳ないと思いながらも、彼の大切で貴重な、学生という時間を割かせてしまっている。
この時間のおかげで、わたしは新しい世界をいくつも知ったし、ルーピンくんのことも分かってきた。

彼は優秀でいて、なのに自己の犠牲を顧みない程の、本当に悲しいほど優しい人だ。

わたしはそんなルーピンくんがいまでは、ちょっとだけこわいけど、代わりはいないくらいだいすきで、尊敬している。
でも。



「切腹は、言い過ぎだとおもう…」

「さすがにそこまでは頼んでないよ」

「え、違うの、日本式の…おっ?」

「はぁ、もういいよ。命拾いしたね」

「あたま潰れるかと思った。」

「お腹を食い破ってあげてもいいよ」



頭から離した手をルーピンくんはローブで拭った。
何かついてたかな、いやそんなまさか。

さっきよりマシな表情と声色は、わたしの頭を掴んでいたことで少しでもストレスの解消になった証拠だろうか。

紙とペンをかばんに終い始めたルーピンくんに、わたしは頭を下げた。



「ごめんなさい」

「…………」

「ルーピンくんが嫌な気持ちになったのも分かるけど、わたし、その、そういうつもりで言ったんじゃない」

「どういうつもりで言ったの?」

「そういわれると、うまく言えないけど、わたしは、勉強むずかしかったけど、楽しかったから」

「…………」

「だから、また、ルーピンくんがめちゃくちゃ暇なときに、教えてくれると、うれしいな」

「僕は厳しいよ」

「うん、でもこんなに上手に教えられる人いないよ」

「…………否定してほしかったけど」



最後の紙をくるくる畳んでかばんに入れる。
名前は僕の機嫌を取るのが上手だ、と笑い、立ち上がった。



「じゃ、きょうは終わりね」

「あの」

「………ちゃんと復習しておいてね。次の時までにできるようになってないと、そうだな、これからは何か罰を与えようか。何がいい?」

「切腹じゃなければ、なんだっていい」

「言ったね?」

「二言はないよ」



才能のある名前なら大丈夫だろうけど、次のレッスンが楽しみだね、とわたしの髪を撫でるように整えてから、一足先に塔を出て行った。

きょうの内容を確認して、道具をまとめる。
とりあえず、まぁ、図書館で復習をしよう、彼はとても厳しいんだ。
そしてわたしに二言はない。









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