魔法

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中庭の日陰で、ひとり本を読む姿を見かけたのだ。
特に用事は無かったけど、ただ話したかったから。
走って近付き、声を掛けたところ、前の時の、とだけ言って口を噤む。
久しぶりに会った口数の少ないことに比例して、顔によく出る彼は、動こうとしないわたしを横目で見ながらどうにも煩わしそうな表情をみせた。
そしてわたしがぽつぽつと話す、ここ数月の出来事を口を挟むことなく聞いてくれた。



「…………スリザリンの男には会えた?」

「え?あ、ううん。会えてないです。」

「そう…、まぁ、この校舎、広いから、あきらめないで探してみなよ」

「はい。でも、相手の人はもうわたしを忘れてると思うので、みつからなくてもいいかなって気分になってきました。」

「…名前みたいなの、一回でも会ったら、なかなか、忘れられないと思うよ」

「セブルスさんの中でわたしって随分な変わり者なんですね……」

「ん、うん、いや……、いや。」



そんなことない、とは言わずに、セブルスさんは本に栞を挿んで綴じると、立ち上がってローブの砂埃を払った。
分かってはいたけど、本の邪魔をしてしまったな。
申し訳ないなぁ、と謝ろうと思った、その時だった。



「やぁ、スニベルス。グリフィンドールなんかの女の子とデートかい?」



ドヤ顔でポッターさんが登場した。
わたしがポッターさんの方に振り向くのと同時にちっ、と遠慮ない舌打ちが聞こえて、わたしの首はまたぐるりとセブルスさんの方を向いた。
控えめに、舌打ちとかするんですね、と言ったら、悪い?と、睨まれた。
セブルスさんの中のわたしが変なやつでいるように、わたしの中でのセブルスさんは本当のセブルスさんとは少し差があるのかもしれない。

ポッターさんと友達だったの、と聞いたら更に低い声で友達じゃないと言われた。



「ちょっと無視しないでーって、あれ?もしかして名前?」

「いま?気付いてなかったの」

「うん、何してるの?」

「こっちのセリフだよ。わたしは話してただけ」

「僕はスニベリーに嫌がらせを、ね?」

「え、二股?リリーさんかどっちかにしなよ」

「僕、リリーには嫌がらせしてないよ!?」



はあ、と大きくため息を吐いたセブルスさんは何も言わずに背中を向けて去ろうとしていくのがみえる視界の隅に、杖を構えたポッターさんが見えた。
何してるの、と言ったら先ほどと同じドヤ顔で、まぁ静かにしててよ。
おもしろいもの見せてあげる、とスッと杖を振ったら地面から蔦が生えてセブルスさんの足首を掴み、引っ張った。
しりもちをついたセブルスさんを見て、にやりと笑ったポッターさんに不快感を覚える。



「セブルスさん、大丈夫ですか」

「来なくていい」

「え…?ていうかポッターさん何してるの、やめなよ、怪我するよ」

「するかもね?」

「かもじゃないよ、するよ」



杖を取り出して、蔦を切った。
何するのさ名前!と吠えるポッターさんを無視してセブルスさんに近寄ったら、来なくていいって言ってるだろと手をはらわれてしまった。
だって、と状況を飲み込めないでいるわたしを無視して、ポッターさんを睨んでから、セブルスさんは校舎の中に消えて行った。



「ちぇ、名前がジャマしなきゃもっとおもしろくなったのに」

「あ、あんなの、何もおもしろくないよ」

「ま、まさか、スニベルスを庇ってるの?」

「庇うとかそういうことじゃない、嫌がらせなんてする必要のないことでしょ」

「必要というか、当然のことだと思うんだけど、なにつまらないこと言ってるんだい?」

「わたしにはポッターさんが何を言いたいのか分からないよ」

「僕とあのスニベルスは仲がよくないんだ、こうなるのも仕方のないことなんだよ」

「背中を向けた相手に攻撃することも仕方ないって?」

「うん?さっきからどうしちゃったの?」

「わたしが知りたいよ、どうしてそんなにひどいことできるの」

「僕には簡単なことさ」

「本気で言ってるの?」



そうだよ、尚も悪びれる様子のないポッターさんに、わたしは呆れてしまった。
セブルスさんにわたしの知らない一面があることは分かったし、もしかしたら見てないところで逆のことが起きていたかもしれない。
事情をひとつと知らないわたしにポッターさんを責めるのは間違ってると思う。
だけど、許せない行動だったのだ。



「ポッターさんなんか……」

「ん?」

「ポッターさんなんか、リリーさんに振られてしまえ」



捨てゼリフを残して寮へ走った。
振られても諦めないよ!と元気な声が聞こえてきて、あの人には何を言ってもだめなんだと、ばからしかった。

きっと人柄なんて問題じゃなくて、ポッターさんがグリフィンドールで、セブルスさんがスリザリンであることが問題。
それ以外の障害はたいした問題という問題にもならないんだ、きっと。

寮同士の壁を身を持って感じた、初めての日だった。







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