魔法

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いくぞ、と前のめりに傾いたまま引っ張られていく。
名前だけでも、と言い掛けるとシリウスさんがあとで教えてやるから、とズルズルとわたしを引きずる。
困ったように眉を寄せるおにいさんは、ペコ、と小さく頭を下げて何処かへ行ってしまった。



「ああ、おにいさん…」

「だから、お兄さんは俺だって。」

「シリウスさんもおにいさんて呼べばいいの?そういう趣味なの?」

「そうじゃねーよ」

「でもおにいさんなの?」

「そうだよ、あっちは弟、お兄さんは俺。」

「………」

「なんだよ」

「………え?」

「なんだよ」

「きょうだい…」

「あれ、知らなかったのか?」

「おにいさんは弟さん…?おにいさんのお兄さんはシリウスさん…?」

「なんか混乱してる」

「聞いてない、そんな話」

「言ってないからな」

「さっきシリウスさん怖い顔してた」

「まぁ、あんま仲良くない」

「へぇ」

「興味無さそうにするなよ」

「なんて言っていいか分からないだけ、むしろ興味ある。」

「はっきりしてんな」

「そうかな」



興味はあるけど聞けずにいることがたくさんある。
握られたままの手を開いたり閉じたりしながら、わたしはここに来たばかりだし、と呟く。

確かに会ったばかりだけど、これからは一緒にいるだろ。
足を止めて振り向いて。
ちょっと恥ずかしそうにシリウスさんは、はっきり言ってくれた。
名前も俺らの仲間だと。



「かっこいいよね」

「茶化さなくていい」

「茶化してないよ、まじめに言ってる」

「ときどき恥ずかしいこと言うよな」

「そうかな」

「そうだよ」



がしっと手を掴み直して、シリウスさんはさっきとは違ってわたしの体格に合わせた速さで歩き出した。

前を進むシリウスさんに再度、どこに行くのかきいてみると、名前って箒には乗れるか、と聞いてきた。



「の、乗れない」

「飛ぶのがすきだってリーマスからきいたぞ」

「ちょっと勘違いもされてるところあるかもしれないけど、飛ぶのはすき」

「でも箒には乗れないのか?」

「乗ったことが、ない」

「へー、飛行訓練とか日本じゃやらねーのか。」

「う、ん、ううん」



濁しながら答えると、シリウスさんは特別に一緒に乗ってやるよ、と言った。
自信満々なその様子からして、どうやら箒は得意らしい。
勉強もできるのに体動かすのも得意なのか、しかも容姿端麗だ。
ときどきだらしないこともあるけど、なんだか羨ましい人。

倉庫から箒を1本取り出して、俺と箒デートできることなんてなかなか無いからな、と乗り方の分からない箒を渡された。



「えっ、どうすれば…?」

「日本ってそんなに遅れてるのか?手で持って跨るんだよ」

「う、これで合ってる?ていうか本当にこれで飛べるの…?」



魔法界に慣れてきたとはいえ、やっぱりこんな棒1本で飛べるなんて信じがたい話だった。
不安なんだけど、とシリウスさんを見上げると何言ってんだ?とわたしの後ろに立つ。



「……足短いな」

「ごめんね、日本人だから許して」

「冗談だって、背が低いんだろ」

「それも日本人だから許して……」

「飛ぶんだから気分上げてこうぜ」

「落としたひとが言うか?」

「それもそうだな。俺が気分上げてやるよ」

「えっ、ああっ」



浮いた。

なんかこわいね、と正直な感想を漏らす。
最初だからな、とシリウスさんが適当に低い高さでふわふわ飛んでくれて、わぁ楽しい〜って思えるくらい余裕ができてきた。



「よし、もうちょっと高くしてみるか?」

「うん!」

「楽しそうだな、手に力入れすぎるなよ」

「オッケー!」

「名前ってそんなに元気なやつだっけ」

「楽しい時はこんな感じ!」

「さっきまで沈んでたのにな」

「ちょっと不安だった!」

「箒か?俺か?」

「どっちも!」



と答えた途端ぐんっ、と急上昇して身が竦んだ。
間違えた!箒だけ!箒が不安だった!と言い訳をすると飛ぶの楽しいよなー!とスピードを上げられる。



「速いってシリウスさん!聞いてシリウスさん!」

「安心しな!死にはしない!」

「ちょっとこわい!」

「もう止めるか?」

「やめるわけない!」

「ハハッ」



ビュンビュン過ぎてく景色、見下ろした湖は光がきらきら当たって、きれいで、まるで。

両手を上げてまるで天国だ!と大きな声で叫んだわたしの後ろから、シリウスさんは嬉しそうに笑っていた。







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