鬼灯の冷徹

□好きな子程、なんとやら
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『おはようございます白豚さん』

「………………」





 きな子程、なんとやら







地獄と違い、天国の朝は現世と同じく巡る。その針は現在、午前4時56分を指していた。
昨夜花街で散々遊んで帰ってきてから寝ていた白澤は、部屋の時計が示す時間を睨むように見つめ、次いで電話の相手に舌打ちと思いっきり嫌そうな声色で返事を返す。

「……まだ5時前なんだけど。なんなの…何の嫌がらせ?」

『おっと失礼、もしや寝ていましたか?』

「絶対知っててかけてただろ!!2、3回かけて出なけりゃ普通分かるだろ!?一体何回かけて……うわっ、何回かけてんのコレえぇ!!?」

着信履歴を見ると、全て鬼灯からの不在着信で埋まっている。
画面を操作し、インフォメーションを開くと「不在着信108件」と表示された。
しつこくかかってきていたのは途中から気付いていたが、まさかこれだけの回数がかかってきているとは思っておらず。

『キリのいい回数で出ましたね』

「108回のどこがキリいいんだよ!?」

『その腐った脳にこびりついた煩悩は祓われましたか?』

「除夜の鐘じゃねーんだよ!!どのみち108じゃ足りないし!!」

人間ではない白澤の煩悩なんて108以上はある。そんな意味の無い主張をしたところで、ハッと我に返って電話口に向かい怒鳴り付けた。

「…じゃなくって!!なんなんだよ、こんな時間に何の用!?って言ってるの!!」

柄にもなく怒鳴ると、何事かと居候の桃太郎が飛び起きてガタガタと物音を立てている。
電話口の相手は悪びれもなく「貴方に用事なんてない」とか言っている。

『まぁ強いて言うなら、貴方のそのムカつく声を聞いて貶してこのモヤモヤを解消したかっただけですが』

「果てしなくただの嫌がらせ!!僕をストレスの捌け口にするなよ!!」

『お前以外に誰で解消する』

「あーもうイチイチムカつく…!用がないなら切……(ブツッ、ツーツー…)

…なんで僕が電話切られてんの!?」

散々内容のない会話をさせられた上、なんの予告もなくいきなり切られ、苛ついた白澤は電話を布団に投げつけた。
時間を見れば5時を少し回った所。疲れた溜め息を吐いて、近くに置いてあった白衣を引っ付み乱暴に羽織った。
頭を掻きながら部屋から出ると、腫れぼったい眼とぼっさぼさの爆発ヘアーで「誰?」と言いたくなるような姿の桃太郎が心配そうに立っている。

「おはようございます…あの、何かあったんですか?」

「早上好。こんな時間からあのクソ鬼神から嫌がらせの電話だよ。まったく、なんなのアイツ」

桃太郎は「あぁまたか」と小さく呟いて絶賛爆発中の頭を軽く掻いた。早朝の嫌がらせ電話こそ初なものの、鬼灯の白澤に対してのその類いは今に始まった事ではない。
毎度毎度色々な嫌がらせをしてくる鬼神様も凄いが、それをただ毎度毎度怒って終わるだけの神獣様も凄いなと心の中で頷いた。

「あーぁ、アイツのせいで目が覚めた。まだお酒残ってるし…薬膳ついでに黄連湯も作る」

「成る程、だから白衣着てんですね…俺も今準備してきます」

「あ、桃タロー君はまだ寝てていいよ?起こしてごめんね」

「いえ、大丈夫です。俺も目が覚めたんでもう起きますよ。」

時計を見ると、どのみちあと1時間後くらいには、白澤より先に起きて薬膳を作り始める予定だった。桃太郎は身仕度を整える為に洗面所へと向かった。



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