空知らぬ雨

□闇討ち
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静かな闇を
煌々と照らす満月の晩。



忍術学園の塀に近付く一つの人影があった。

辺りを見回し、塀をよじ登り始める。



周囲に漂う火縄の焦げる臭い。


大きな黒い雲が月を覆い、
辺りはまた闇に包まれる。




人影は塀に上がると、
徐に背負っていた火縄銃を構えた。


狙うは学園長が眠る庵だ。







「…忍術学園なんて……
無くなればいい…!」






そう人影が呟き、
銃身に火縄を近付けようとした
その時だった。



「やめろっ!」



人影に飛び掛かったもう一つの人影。


6年い組の、潮江文次郎だった。




「何をするのっ!?」

「それはこっちの台詞だ!
学園長先生の闇討ちなどやめろ!
早く銃を降ろせ!」


文次郎が強い口調で怒鳴る。



雲が途切れ、再び満月が現れた。
硬直状態の2人を照らす。



学園長の暗殺を試みた愚かなその者は、

少女だった。





文次郎は、
相手が女で、しかも年が近い少女と解り
僅かにたじろぐ。



「お前…プロの忍じゃないな…?」

「……うるさい…
その格好、あなたも忍者なんでしょ!?
私に指図しないで…っ!」


少女の目は血走り、乱心している。


震える手で、火縄銃を文次郎に向けた。



だが文次郎は怯む様子は無い。
むしろ冷静沈着に少女を説得しようとした。




「見た所、火縄銃に触るのは初めてのようだな。
使い慣れない武器ほど危険な物は無い。
大人しくそれを手から離せ」


そう言って文次郎が少女に手を伸ばすと、
少女が叫んだ。



「うるさいうるさいうるさい!
あなたの言う事なんて聞きたくないわ!」


その瞬間、
少女が瓦に足が滑らせてバランスを崩した。


「きゃっ!」

「…危ねえっ!」


文次郎が少女を支えようとした刹那、






ぱあんっ






夜の忍術学園に
鋭い銃声が響き渡った。

火縄銃が暴発したのだ。



弾は文次郎の左腕を掠めた。

制服が裂け、そこから血が流れ出る。




「うぅっ…くそ…
バカタレ、だから言っただろ、
危ねえって……。
とにかく銃を降ろせ……!」


文次郎が止血しようと
傷口の辺りを強く押さえながら少女に言ったが
少女からの返答は無かった。





少女は滴り落ちる大量の血を見て
気を失っていた。





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