夢小説

□疲れた時は
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部屋の戸が開くと、
隈を濃くして
疲れた様子の文次郎が
じっと黙って立っていた。


「もんじ?どうしたの?」


私は机の前に座ったまま
文次郎に声を掛けるが
答えは無い。


文次郎は無言のまま
部屋に入ってくると、
きょとんとしている私の後ろに座った。

そして私を後ろから抱き締めた。




背中から文次郎の体温が
伝わってくる。



「も、文次郎…?」

「そら…」

「…ん?」

「悪いがちょっとこのままでいてくれ…」


文次郎らしからぬ
消え入りそうな小さな声でそう言うと、
私はより強く抱き締められた。


「うん…」


内心どきどきしながらも
また教科書に目をやった。





文次郎、きっと疲れているんだろうな。
思えば昨日も鍛錬で
寝ていなかったはず。
会計委員会も計算だけすればいいのに、
10kg算盤持って
ランニングなんかしてるから
夜まで長引いちゃうのよ。



…でも、文次郎がこんな風に
甘えてくるなんて珍しい…。







あれこれ考えていると
背中に感じる文次郎の呼吸が
ゆっくりと落ち着いているのに
気がついた。


「もんじ…?」

「……」


やっぱり文次郎、寝てる…。





横にさせてあげようと
文次郎の腕から出ようとするが
身動きできない。



眠っていても
腕の力が緩まらないなんて
文次郎らしい。

文次郎らしいけれど、
どうしたものか…。





「このままにしてあげよう…」


無理矢理文次郎の胸から離れるのは
文次郎に悪い気がして、
私は大人しく
抱かれたままでいる事にした。





穏やかな時間が
静かに過ぎていった。




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