夢小説

□甘酸っぱい山桃を一粒
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中在家くんが好きだ。
ずっと前から。



けれど、
本人には勿論、
友にも打ち明けた事は無い。


それでいいと思っていた。


私達6年生は、来年卒業する。
それぞれの道を歩む中で、
この小さな恋は
忍術学園での賑やかな記憶と共に
甘酸っぱい香りを帯び、
きらきらとした想い出として
胸の中に在り続けるだろう。


それでいいはずだった。











「そら!
あたし、好きな人できたよ!」

「本当?」


放課後、
教科書を抱え部屋に戻る途中、
突然茜がそんな話を切り出した。


大して驚きはしない。

茜はいわゆる"惚れっぽい"性格で
昔から誰々が格好いいだとか
誰々が好きだとか言い出すのは
さほど珍しい事ではなかった。


「前は七松くんだったわよね。
やっぱりやめたの?」


私はなるべく嫌味っぽくない、
何気ない口調になるよう努める。


別に茜の性格が嫌いな訳ではないのだ。

むしろ
自分の気持ちを素直に表現できる、
私には無いその真っ直ぐな所には
惹かれていた。


「小平太ねー、
アイツいくらなんでも
体力馬鹿過ぎるのよ。
ついていけやしない」

「だから無理だよ、って言ったのに」


私は困ったように微笑む。
茜もつられて笑いながら、
目をぱっちりと開いて言った。


「でもね、
新しい人好きになれたのは
小平太のお陰かもしれない!」

「え…?」


私も思わず目を見開く。






この時、私は察知していた。
とてつもなく悪い予感を。


そしてそれは誠のものとなる。








「今あたしが好きなのはね、




長次なんだ!」

「……え………」

「驚いたでしょー。
長次みたいな大人しい人好きになるのは
初めてだもんね。
でもね、小平太追っかけてて
気づいたの。
長次っていい奴かもって!」

「…うん」

「だからそら、
後ろから応援してて!」

「………うん」


私は目を伏せながら、
そう答えた。

答えてしまった。








茜、できれば私、
聞きたくなかったよ……




この時、何も言えずに
頷いてしまった自分が
堪らなく嫌だった。




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