夢小説

□待ち暮らす
3ページ/5ページ





正直、こんなに苦しい事は無い。




好いた女が他の男に添うのを
黙って見送るなんて。






けれど、俺には引き止める権利は無い。




どう考えても
そらは店を継いだ方がいいだろう。
両親も強く望んでいる。

女一人切り盛りするのは無理だろう。
婿を貰うのも当たり前だ。


俺は忍者になる夢を
投げ出しなどできない。

だから見合いをやめろと言ったところで
代わりにそらの店を
継ぐ事はできない。






ああ、どうしろと言うんだ。







「私、戦が憎い。
お兄さんを殺して、
私の未来をでたらめにして、
戦が憎いよ…」


そうだ、
戦が無ければ
こんな事態にもならなかった。

俺も戦が憎いよ、そら。



「………でも、しょうがないね」


いつの間にかそらは
泣き止み、落ち着いていた。


「私は長女だもん。
しっかりしなきゃ」

「そうだな」



そらは目をごしごしと擦ると、
俺を見上げて微笑んだ。


「ありがとう、文次郎」






俺は黙って、
そらの肩を
もっと強く抱いた。


今このそらの温もりを胸に、
俺はやっと諦めがついた。

そらを笑って
見送ってやろう、そう決心した。



次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ