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□日常の終焉
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闇雲ウイルス思念体が消滅し、クリスタルワールドに再び平和が訪れた。そして、7年の月日が経ち、いまでは以前と同じ自然豊かな世界に戻った。



月日は3月の下旬で春休みだ。セイントクリスタルスクールの学生達は故郷に帰ったり、スクールが設けた学生寮で過ごす。その学生寮の中でも図書館に一番近い場所に住むのは、リーク・クリフト、フラット・クリフトの双子の兄弟だった。弟のフラットは、図書館に行くのが日課で、今日も目当ての本を探していた。

(どうやら、先客がいたみたいだな…)

残念ながら、彼のお目当ての本はすでに貸し出し中で、本棚に空白ができていた。すると、背後からふいに肩を叩かれた。振り向くと、茶髪のくせ毛で、右側はワックスで固められ、反対に左側は髪の毛を遊ばせたような髪型をした少年が目の前に立っていた。そう、いたずらっ子みたいな笑みを浮かべる彼こそフラットの双子の兄、リークだ。

「残念だったな、フラット」

「あぁ、全くだよ…」

「しかしここんところ毎日図書館に通い詰めじゃない?別に春休みは課題もないしさ、何もそこまで苦心する必要ないだろ」

椅子に腰掛け、足を組むリーク。それとは対照的に、足をつま先まで揃えて座るフラット。双子とは言え性格が正反対だ。たったそれだけの仕草の違いで、そうだとわかる。

「課題は関係ないさ。ただ知りたいことが山ほどあるからね」

「おぉおぉ、相変わらず研究ってわけか」

歯を剥き出しにして声を立てずに笑うリーク。場所が図書館なだけにそのことだけは弁えているようだ。

「馬鹿にしてるでしょ?」

眼鏡をブリッジをあげ、不機嫌そうな顔になるフラット。

「馬鹿に?いや、俺には到底真似できない習慣だから感心してるだけだ」

「ま、兄さんは勉強はそこそこに。体育会系だからね。考えるのは苦手でしょ?」

唇に弧を描き、目を細めるフラットにリークは不愉快な気分にさせられる。

「いつから嫌味たらしくなったんだよ。昔はお兄ちゃんお兄ちゃんってくっついてたくせに」


「それは昔の話でしょ。今、それをやったら気持ち悪くない?」

さも当然かのように、答えるフラットがリークにとっては面白くないようで、眉間にシワをよせる。

「お前の言うことは正しい。でもかわいくないぞ?最近余計にそう思う」

「可愛くなくて結構だ。それより、来年度からルナが僕等の通うスクール入学するんだって。母さんから聞いた」

「ルナが?初耳だなぁ」

目を見開き、フラットを凝視するリーク。この分だと、母親から聞かされてなかったに違いない。

「母さんから聞かなかったんだ」

「おくふろとはかれこれ、3年も会ってないからな。でもお前は連絡してるみたいだな」

故郷を離れてから一度も、リークは母親のリリアンに対して電話はおろか手紙でさえ書いてなかったのだ。

「まあね。心配かけるといけないから」

「そういうところ律儀だな」

「兄さんがいい加減だもの」

図星だったのか、顔を膨らませるリーク。

「便りがないことは元気な証拠っていうんだよ」

「そういうことは知ってるんだ。話は戻るけど、ルナって普通科入学じゃないんだってさ」

「普通入学生は普通科から入るんだろ?」

ここのセイントクリスタルスクールは、入学してから1年間は、普通科でどの学部に相応しいか検討してから、2年生になって自分の好きな学部を専攻できるシステムだ。もちろんリークもフラットも今でこそ、それぞれ剣士科と薬学科に専攻しているが、入学したてのころは普通科だった。という事実があるため、目を丸くするのも無理はない。

「たまにあるんだよ。普通科以外の入学が」

「となると、芸術科か。いずれにせよ俺達には関係ないな」

椅子にもたれ込み盛大なため息をつくリーク。すると口角を更にあげるフラット。

「ま、兄さんは進学クラスAに入ってるから関係ないけど。専門クラスBの僕の場合、体育祭なら同じチームに入れるんだよな」

「確かに。ってお前そんなにルナと近くのクラスでうれしいのか!?」

その質問に、目を細めるフラット。

「まあね。気心知れた子だし」

「つまり、お前ルナに惚れてるんだろ?」

わずかに眉をあげるフラット。その反応を図星と見たリークは、途端に黙り込む。

「兄さん?どうかした?自分から質問しておいて」

顔を覗き込まれて、慌てて後ずさるリーク。とはいえ椅子に座っているため正しくは体を後ろにのけ反らせているのだが。

「い、いやあ驚きだなっ。女の子や女の人に見向きもしないお前から気心知れた子という言葉が出るなんてな。ま、確かにあいつは俺達の唯一の幼なじみだし、そりゃあ誰よりも気心知れてるだろ」

「という兄さんは?」

一瞬目が見開かれるが、思い切り顔を振る。

「あぁ……ルナはだめだな。あいつ俺の好みじゃないし、それに…俺はもっと色気のある女の子がいいな」

「もしかして、女王!?」


今度はフラットが目を見開く番だ。確かに玲奈つまり7代目君主のジュニーZ世である佐伯玲奈は自分達より12も年上で、気品も色気も十二分にあるし魅力的だ。


「あぁ玲奈さんだな?」

「あの人のことまだ玲奈さんって呼んでるんだ。僕なんて恐れ多くて、女王とお呼びしているけど」

平和になってからも、クリスタルキャッスルの城医をしている中川透を師事しているフラットは、当然のごとく彼女と毎日のように会っているのだ。

「へぇ、てっきり呼び捨てまで行き着いてたと思ってた」

「それは無理だよ。両親と彼女のお兄さんを除いて、呼び捨てで言う人はいないし。そんなことしたら、彼女の領域を土足で入ることになる」

つまり、以前は他に1人だけ彼女の下の名前を呼び捨てで呼んでも許される人間がいたのだ。

「あの人には、超せないよな。自分の命投げ売って、妹を生き返らせたし」

そう7年前に瀕死だったその妹のために、自分の命を遇えて与えたのだ。その現場を2人とも見ていたし、息絶え絶えに遺言を口にする彼の瞳には祈りにも似た感情が映し出されていた。また2人とも彼とは顔見知りの仲だった。

「まだ、引きずってるよ…あの人は」

ふとテラスを見遣るフラット。レンズごしから見える瞳は、どこか遠くを見つめているようだ。

「なら尚更難しいんじゃない?あぁ、死人には超せないよ」

ため息をつくリーク。死人との想い出は綺麗であれば綺麗であるほど、現世に生きる人間が凌駕できにくいのだ。また玲奈の場合、生前その男性と結婚の話まで交わした仲だ。いくら7年の月日が経ったとはいえ、彼への想いが薄れることはあっても、消えることはない。そう考えたフラットは、しばらく間を置いてから、話を再開した。

「随分と、あきらめるの早いんだね」

「まあ、そのだな。人間諦めが肝心な場合もある。悔しいけど」

フラットは、あの言葉を言おうとしたが、リークの最後のフレーズで押しとどまる。そして、キリのいいところで図書館を出て、空を見上げる。青から茜へ変わり、ちょうど夕日が沈む頃だ。

「長居しちゃったみたいだ」

腕時計を二度見して、ため息をつくフラット。それがカンに障ったのか、リークは顔をむくれさせる。

「俺のせいだと言いたいのか。俺がいなくても、いつもこれぐらいまで図書館にいるだろうが」

「確かにね。それとさ兄さん。ルナ、明日からこっち来るみたい。入学の手続きを済ましたみたいだし」

「じゃあ一部屋提供しなきゃなんないわけ?ただでさえそんな広くないのに…」

図書館に近いのがメリットだが、他の寮と比べると狭いのだ。その理由は定かではないが、2人で精一杯の広さなのに、ルナを許容できるスペースなどないのだ。

「でも、ルナに顔見知りの友達とかいた?分校の子達とも気が合わないらしいのに。まさか女の子1人で住ませる気?」

フラットはあくまでも、ルナをここに入れたいらしい。彼は友人として提供しようという試みだったが、フラットはそう感じ取らなかった。

「やたら、自分の部屋に住ませるのを勧めるけど、やっぱりあいつのこと好きなんだろ?」

「リークは嫌なの?ルナと一緒に住むの」

首を傾げ、不思議そうな顔で見つめるフラット。いちいち説明するのも、めんどくさいので、こう言うことにした。

「嫌。絶対に嫌」

「じゃあ、僕出ていこうかな」

「はぁ!?なんでそうなるんだよ」

フラットの突然の発言に、目をまんまるにさせて大袈裟に驚くリーク。

「先生からそろそろ本格的に住み込みで、助手をしてほしいという話がきてたんだ。それにクリスタルキャッスルなら、ルナでも受け入れてもらえそうだし。まあ、スクールに行くのは少し遠くなるけど」

「えらく突然な話だな…」

「こんな機会でなきゃ、言わないよ。それだったらこの部屋も広々と使えるんじゃない?兄さんの希望通り」

書物を段ボールに詰めだすフラット。

「まさか本気で引っ越すつもりか!?」

これには流石のリークもうろたえる。突然話されて、もう引っ越し段階に入られては、戸惑いも隠せなくて当然だ。

「冗談で言うわけないじゃない」

「本当、可愛くないやつ」

「ルナを受け入れないからだよ。昔は、ルナにべったりだったじゃない?」

「それは昔だろ?誰が色気より食い気のガキを相手にするかよ」

「ガキなんだ。へぇ…」

「そんなあいつと一緒でうれしいのかよ」

「まあね。ガキかガキじゃないかは置いといて、仲のいい人はなかなかいないから、彼女は貴重な存在なんだよ。まあ兄さんみたいにちやほやされてないから」

荷物を入れた段ボールをガムテープで止めるフラット。

「ちやほやってな。あれは伝説の戦士だったという肩書きにぶら下がってるだけだろあいつらは」

「へぇ、随分冷めた見解だね。兄さんにしては」

「双子だからなお前に似てるんだよ」

「そういうところで、双子、双子って言われたくないな。確かに僕は兄さんより感情の起伏が乏しいけど、そこまで冷めてないよ」

「随分と偉くなったような言い方だな」

「いつまでも、兄さんの後ろ盾になるのは嫌だ。僕は僕の人生を歩みたいんだ」

窓を開けて、夜空を仰ぎ見るフラットはまるで別人のように見えたので、リークは目を擦った。

「お前の人生ねぇ。確かに俺がそれを止める理由はないな」

「驚いてたくせに、引き止めはしないんだ」

残念がるそぶりではなく、むしろ淡々とした口調のフラットに、本当に自分とは別の人間なんだと痛感させられる。

「引き止めたところで、お前の意思は変わらない。昔からお前はおとなしいくせに、変に頑固なところがあったからな」

「なるほどね」

あっという間に自分の荷物を詰め終えたフラット。

「で、いつ引っ越すんだ?」

「明日の昼。そんな重い荷物はないから、手伝わなくていいよ」

「別れが惜しいからとかじゃなさそうだな。学校でも会おうと思えば会えるだろうから」

「…だね。さて、兄さん僕達一緒の晩餐は今日で最後だからどうする?」

「いつも通りでいいだろ?」

「そうだね」

キッチンに向かい冷蔵庫に材料を取り出すリーク。そしていつものように調理をし始める。慣れた手つきでジャガ芋の皮を包丁で向きはじめる。

「兄さん、来年度から城務科に入ったらどう?」

不意にそう提案され手が止まる。

「なんで」

「女王に近づけるよ?城務科に行けば自然に城務科のバイトでクリスタルキャッスルの警備に入れるし」

「………」

再び作業を再開するリーク。
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