★MAIN★

□すれ違い
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フラットが引っ越しした翌日、リークの元に誰かがやってきた。

「リークくーん、フラットくーん」

インターフォンに写る、ゆるやかなパーマ、そして白い肌にピンク色の唇。まるで西洋人形のような姿をしている少女は、スクールの知り合いにはいない。

「すみません、どちらの方ですかー」

「やだなーリークくん。私だよ。ルナだよ」

インターフォンに写る少女は、小柄だがスリムで、いつも話題に出る肥満体の少女とは似ても似つかない姿をしている。とにかく、大声で叫ばれては近所迷惑なので、リークは慌てて彼女を自分の部屋に入れた。

「つかぬ事をお聞きしますが、貴方はクラスAの方ですか?彼女達には俺の居場所教えてないんだけど」

「クラスAじゃなくてクラスD。それにリークくん。まだ私のこと分からない?」

「女の子はいっぱい見てるけどさぁ、君くらいの小柄な女の子は初めて」

「だって今年で13になるんだもん」

「ということはつまり?」

「ルナ・クロフォードだよ」

改めて見るとやはり、想像とは真逆に彼女はフラットの言った通り見事にスリムになったし、スクールの女子とも見劣りはしない。

「でも、なんでそっちに来たんだよ。フラットには会ったのか?」

そう、フラットはルナを迎えるためにも住み込みした筈だ。

「ううん。本当は昨日着く予定だったんだけど、昼寝をしてたらチケットの時刻に間に合わなくて、今日になったの。ところでフラットくんは?」

ルナは住み込みの件を知らされていないようだ。

「あいつは、城の住み込み。中川先生から引き抜かれたんだよ。お前を迎えいるために条件を呑んだ」

「迎え入れる?リリアンさんからは、ここに行きなさいって言われたんだけど…」

頭を抱えるリーク。

「あぁ。お前は城の住み込みに行けばいい」

「ここにいちゃだめなの?」

首を傾げ困ったような表情になるルナ。

「いたら嫉妬されるんじゃない?フラットに。あいつ言ってた。お前が好きだって」

「ほ、本当!?」

目を見開くルナ。

「本当。だから行ってやれよ。住み込みでずっと働きっぱなしだから、安らげる存在は必要だからな」

「リークくんは行かないの?」

「まあな。ここにいる方が気楽だし。ま、今日、城のアルバイトの面接に行くけど」

「確か、新規募集だよね?フラットくんからチラシもらったよ。私、メイド見習いとして働こうと思って一昨日に面接受けに行ったよ。画材もそろえたいし」

「お前がメイド?昼寝する暇なんかなくなるぞ?」

昼寝のしすぎで船を乗り過ごすような人間だ。とてもその仕事ができるとは思えない。そしてよりによって自分より先にフラットから新規募集のチラシを受け取り、それを受けたことに対して、ルナがフラットに対して好意があると疑ってしまう。

「分かってるわよ。来年には全部揃えたいから」

「何のために…」

「ひ、秘密よ」

微かに頬を赤らませるルナ。やはりフラット宛ての似顔絵を描くのだろうか。そう思うと嫉妬してしまう。

「揃えなくても、紙とペンがありゃあ描けるだろ!」

「リークくんは何も分かってない!大切な人だからこそちゃんと描きたいのに」

その言葉を聞いてますます腹立たしくなるリーク。そこまでしてフラットが大切なのだろうか。

「はいはい。なんでも描けばいいだろう」

「もー!!」

「俺の似顔絵描く約束なんてとっくに忘れてるくらいだから、どうでもいいし」

目を見開くルナ。

「…リークくんなんて、大嫌い!!!」

間髪入れずに頬を叩くルナ。そして、そのまま何も言わずに部屋から出ていってしまっ。突然のことで叩かれた右頬を抑えようともせずに唖然とするリーク。

(あいつらグルだったのかよ…)

しかし、それよりもルナに嫌いと言われたことの方が重大だった。フラットに対してはそう一言も言わなかったからだ。

(両思いってわけか…)

思わずため息をつくリーク。窓から映るルナの姿を見て、舌打ちをする。自分目当てでないことが分かり、内心悔しかった。

(どうせ、フラット目的で来たんだろーが)


一方ルナは、一目散にクリスタルキャッスルに駆けていく。すると、買い物帰りの透とフラットとぶつかり、盛大につまずいてしまった。

「いったーい!!」

ひざ小僧から血が出て、思わず涙目になるルナ。すると、フラットが手を差し出す。

「大丈夫?ルナ」

見上げて手をとると、微かに微笑むフラットと心配そうに覗き込む透がいた。

「う、うん…」

「すぐ近くに城があるから、そこの診察室で手当てしてあげるね?」

「ありがとう」

さっきリークに言われたことが反芻される。そのため、ちゃんと彼の顔が見れなかっい。

「どうした?」

「ううん、なんでもない」

ルナは、埃を払い立ち上がる。そして、フラット達と城に入り3階の診察室で手当てを受けた。

「手つきが慣れてるね…」

器用な手つきに思わず感心するルナ。


「そりゃあ、フラットは優秀な助手だからね。簡単な手当てならすぐに済ませちゃうよ」
さも当然だと言うように、胸を張って言う透。

「ところでルナ。メイドの件だけど…採用されたみたいだよ」

「本当!?」

実は、フラットはリークにチラシを渡す前に、ルナにハガキで送っていたのだ。採用されたことを聞いて、目を輝かせるルナ。

「直接はサポートできないかもしれないけど、何か困ったことがあったら相談してね?」
やはり、それは自分が好きだからそう言ってくれてるのだろうか。でも、フラットはルナに対して昔から優しかったので、どちらにせよその厚意は受け取ることにした。

「うん!」

「ところで…ルナ。兄さんとは会ったの?」

途端に顔を曇らせるルナ。何かあったのだろうと察したフラットは、彼女が言うまで敢えて何も言わなかった。すると、ルナはおもむろに話し始めた

「…会った。でもあんな冷血男なんか知らない!!メイドだって、採用なんかされるわけがないなんて言われたし…もうあんなやつ知らないっ…」

「ねぇ、ルナ」

「なあに?」

「手、赤くなってるけど」

指摘されて、慌てて手を引っ込める。

「怪我した?」

「ち、違うの…」

透は、お邪魔かと思いさりげなく用事が出来たと言って診察室から退室した。

「似顔絵の件、覚えてないんだから、画材なんてどうでもいいだろって言われて、思わず頭に血が昇って…」

「叩いちゃったんだね?」

頷くルナ。今更ながら自分のした行為を後悔する。

「うん。そのままこっちに来たから…顔合わせられないよ…」

「いますぐに素直にごめんって言えない…よね?」

頷くルナに、フラットは彼女が誰が好きかなんてお見通しだった。

「しばらくは一緒の部屋にするから。もし謝る勇気が出来たら、一言言ってね?」

「うん…やっぱりフラットくんは優しいね」

「そりゃあルナだもん」

(やっぱり、私のこと好きなんだ)

彼の微笑を見て、そう感じるルナ。

「さてと、ルナ。確か明日からメイドの仕事に入るんだったね。今から見学しに行かない?」

「いいの?お仕事忙しいんでしょ?」

それでも目を爛々と光らせるルナ。やはり興味があるのだろう。

「今のところは空いてる。それに助手とは言え僕はただのお手伝いだからね。ほら、行こうよ」


フラットの誘いで、ルナはメイドの仕事場である4階に向かった。一度訪れたことのある城だが、改めて見ると、やはり部屋数が多くて迷いそうになる。それを察したフラットは、さりげなく彼女の手を握った。

「フラットくん?」

「離れなければ、迷わないからね?」

フラットは親切心でしたつもりだったが、ルナは完全に下心があると勘繰ったためその手を離そうとした。

「大丈夫。近くにいれば迷わないから」

いつもは手を握るのに、今日に限って拒否されたのだ。やはり、リークに何か言われたのだろうか。そう思ったフラットは、事情を聞くことにした。

「兄さんに何か言われたの?」

目を見開き、首を懸命に横に振るルナ。よほど言いづらいことなんだろう。

「まさか…一緒に住もうとか言われたの?」

全くの見当違いに、吹き出してしまうルナ。

「あははは。そんなわけないよ。リークくんは、フラットくんのそばにいてやれって言ってたもん」

ルナの好意は完全にリークに向けられている筈だ。その好意に気づかない彼ではない。ましてやスクールには毎日のように彼に集まる女子達を見ているし、彼女達の好意も見破ってしまう。なら、何故リークは自分の方へ差し向けたのだろうか。

「そういえば兄さん…スクールでは1、2を争うファンクラブ会員の数の多さなんだ」

「え!そうなの?」

目を丸くして、あからさまに傷つく顔をするルナ。彼女に対して残酷なことを言っていってしまったと思った時は、遅かった。

「じゃあ、私なんて相手にしてもらえないよね。綺麗なお姉さん達の方がいいよね…」

ルナに対してガキと言ってたのは、スクールの女子に比べて、擦れてないという意味だとフラットは思っていたが、ルナはそう感じ取らなかったのか。ますます沈んだ顔になるルナ。

「この際、兄さんは諦めよう」

「え、やっぱりフラットくんもそう思う?」

フラットの頭の中では、リークの好意はこの城の君主である、佐伯玲奈に向けられていると考えているのだ。そのことをやんわりと知らせるように、言っただけだ。

「でも、それはフラットくんが私を好きだからそう言うのかな?」

勘繰り方は、他の女子達とほとんど変わらない。ルナも女なんだと、こっそり思った。

「好きだよ。でもルナの思ってる好きじゃない」

「恋愛感情としての好きじゃないってこと?」

頷くフラットに、内心安堵するルナ。それを見て、リークに何を言われたかおおよそは見当がついた。

「ルナは、僕が恋愛感情からくる親切心と思ったから、拒絶したんだね」

「うん…」

すると頭をポンと撫でるフラット。

「安心して。僕の『好き』は友人としての『好き』だよ」

「よかった。それなら私も友人としてフラットくんを『好き』でいていいんだね?」

「うん、もちろんさ」


それから2人は、一通りメイドの仕事を見学してから、5階にある仮部屋に戻った。

「たくさんのお仕事があったね」

「多分、ルナは見習いから始まるから、最初は皿洗いからだよ」

「皿洗い?」

「王様達用はまだ洗わせてもらえないから、僕達一般の従業員が賄いで食べる時の皿を洗うんだ」

「皿洗いなら、海賊船で何度もやったことあるから任せて」

頼もしい返事に、安心するフラット。しかし、1つだけ気掛かりなことがあった。

「時間割見せて」

「うん、いいよ」

ルナは、ボストンバックから通学用鞄を取り出した。そして鞄から、時間割表を取り出して、フラットに見せた。

月曜日からぎっしりと詰まっている。特待生とは言え、1回生のため普通科の科目も取らなければならないのだ。そのため普通科所属の生徒よりも遥かに多くの科目を取ることになる。薬学科のフラットも比較的密集したスケジュールだが、ルナのスケジュールはそれを上回っていた。

「授業が終わってからしか働けないね。ルナ、部活には入るの?」

「美術部に入ろうと思うの」

「となると部活が終わってから、ここに帰ってくるのが、7時を過ぎるね。その後働くとなると夜勤になるよ?それでも働く?」
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