★MAIN★
□すれ違い
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それは紛れもなく本当だし、きっとこれからも変わらないであろう。
「本当。もしルナの言う恋愛感情が含んでいたとしたら、僕は多分こうやって隣に歩くこともままならないだろうね」
「じゃあ、私を見てもドキドキしないわけかぁ」
安堵なのか落胆なのかどちらにも取れる複雑な表情を見せられ、首を傾げるフラット。
「僕に対しては友情だよね?」
「もちろん、そうだよ。でも双子だからタイプも同じなのかなって。あ、リークくんには内緒ね?この話」
「じゃあ内緒ついでに言うね。兄さんが好きなタイプは色香があって年上の女性」
あからさまにがっかりするルナ。だが、友人として、彼女がいじめられる光景を見るのは耐えられない。だからこそ彼から気が離れるように敢えて残酷な言葉を投げかけた。
「そっかぁ。じゃあフラットくんは女王が好きなんだね」
どういうわけか話題がリークに行かずにフラットの方へ行った。これは流石のフラットも想定外で、眼鏡のブリッジを仕切りに触って平静を取り戻すしかない。
「フラットくん、怖い顔してた理由はそれかな?リークくんも女王が好きだから、ライバルとして見てたんだね」
ルナの言葉は、自分の思考そのものだった。玲奈を姉として見ていたのがいつしか一人の女性として見ていたことが、証明されてしまったのだ。どう話を逸らそうか考えている間に、ルナは話を続ける。
「確かに、女王はセクシーだし私より遥かに魅力的だから2人が惹かれるの分かるな。それに優しいし。まだ結婚もしてないみたいだから、可能性あるかもよ」
「馬鹿なことを言うな!!」
フラットにしては珍しく激しい怒声をかける。周りにいた通行人は彼を凝視する。その視線を感じて恥ずかしくなったのか俯くフラット。
「女王が結婚しないのは、雅也さんを愛してるからだよ。だから誰も彼女と結婚できはしない。僕なんて到底及ばない存在なんだから好きになっても無理だろ?僕は負ける勝負には手を出さない性分なんだよ」
「リークくんに取られたとしても?」
目を見開くルナ。さっきの怒声にも全くうろたえていないのか、顔色一つ変えていない。こんな彼女見たことがない。だが、言われぱなしでは悔しい。
「なら言うよ。女王に兄さんを取られたら、君はどう思う?」
途端に黙り込むルナ。確かに城務委員になったのは女王に仕えるためであり、ルナと会う目的のためではない。
「女王がリークくん相手に恋するわけないじゃない!雅也さんという存在があるなら尚更よ」
それはまるでフラット自身が相手にされないと言う意味にも取れる。
「確かにそうだ。考えてみればルナが正しい」
いくら自分が慕ったとしても、玲奈は自分達を弟のようにしか扱ってはくれない。昔はそれで、良かったがいまは歯痒いのだ。
「でも…年上の女性が好きならスクールにもたくさんリークくんのタイプの人がいるんだよね…」
いくら玲奈に相手にされないからといって、スクールの女子達がいる。
「ファンクラブがあるくらいだもの」
「はあぁあ…」
ちょうど噴水にたどり着いたので、ベンチに座るルナとフラット。
「分校の時はそんなことなかったのになぁ」
「そりゃあ分校は皆顔見知りだったし、少人数だったし」
「リークくんが遠くなった気がするなぁ」
2年の歳月がこう思わせてしまうのだ。ルナはしきりにため息をつく。
「本当はね、リークくんのために似顔絵を描こうと思ってた。でも今、それをしたらファンクラブの人達に顰蹙を買っちゃうね…」
なんだかんだ言ってもルナは、リークのことが大好きなのだ。
「それにリークくんに似顔絵を書くのを忘れてたって言われたんだけど、本当は違うの。2年前も渡そうとしたんだけど…その前に故郷を出ていっちゃったから渡せなかっただけなんだ」
空を見上げぽつりぽつりと話を続けるルナ。彼女のまっすぐな瞳が、今のフラットには眩しい。どんな障害があったとしても、彼女の思いが揺らぐことはない。それに引き換え自分はどうだろうか。故人である雅也の存在の大きさに、ただただ諦めざる得ないと思い込んでいるのだ。
「ねぇ、フラットくん」
「どうかした?」
「リークくんは、女王のこと好きなんだよね?」
本人にそのことについて聞いたことがある。否定的な言葉は言われなかったので、そうだと言うことだ。だが、万が一思慕でない場合の友人関係や、主従関係のそれだとすれば、自分の勘違いということになる。
「直接、本人に聞いてみたら?」
「聞けたら苦労しないよ。多分、話もしてくれないだろうから」
「僕が聞いた時は否定しなかった」
「やっぱり」
「諦めるか、女王の恋敵になるかはルナ次第」
「うーん。女王に聞いてからにする。勘違いだったら格好悪いじゃない」
リークが好意を抱いたとしても、その好意を受け取る側である玲奈が、リークに好意があるなんて思いたくない。むしろ、雅也を好きなままでいてほしいのだ。もしくはフラットを好きになってもらうか。
「それに、リークくんとライバルになるんじゃない?フラットくんは」
「兄さんの好意に恋愛感情が含まれていたらね」
この2人はお互いの好意を抱く人間は分かっていたが、それを抱かれる人間の好意ははっきりとは見当がついていなかったのだ。
気がつけば9時10分前で、ルナとフラットは急いで城に戻った。するとリークがフラットの手首を掴んだ。
「口を利くなと聞いたのは、誰の台詞だったかな?」
フラットは、ルナを逃がした。リークは眉間にシワを寄せて握りしめた手の力を強める。
「女王に用があったんだよ。明後日から世話になるからな」
女王というキーワードに目を光らせるフラット。しかし、それに構わずにリークは話を続ける。むろんフラットの手首を掴んだまま。
「いままで、あのガキとどこ行ってたんだ?試験勉強もほっておいて」
「ガキってねぇ、兄さん。ルナも女の子なんだよ!?」
声を荒げて言ったのか災いして、リークの目つきが一層きつくなる。
「あのガキの相手するくらいなら試験勉強しろよ!医学科だって他の特級クラスより数倍難しいんだろ?」
「確かにそうだよ。でも、息抜きだって必要じゃない。彼女は息抜きに付き合ってもらっただけだよ。それより、女王と何を話してたの?」
「息抜きに付き合ってもらうなら、男でも構わないだろ。それをよりによってあのガキと…」
「ガキガキうるさいよ!!」
「やめて2人共!!」
逃がした筈のルナが、こっちにやってくる。
「フラットはなぁ、お前と違って試験勉強に励まなきゃいけないんだよ。なんで邪魔するわけ…」
「違う。僕が散歩に行こうって言ったんだよ」
「ご、ごめんなさい…」
「全く、お前みたいな奴がいるからフラットもだらけるんだよ」
「そんな言い方しなくったっていいじゃない」
「こいつを庇うのか。ほら、やっぱりルナが好きじゃないか。そうやって見せ付けてんだろ!!」
堪忍袋の切れたフラットは眼鏡を外した。
「じゃあ言わせてもらうよ。僕を疎ましく思うくせにどうして城務委員の面接を受けたの。同じ現場になるかもしれないこと分かってたでしょ?それともあれか。女王に近付きたくて、その面接に受けたのか。残念だけど、彼女は雅也さんを愛してる。だから兄さんの入る隙なんてないね」
「だからなんだよ」
「喧嘩はもうやめて!!」
たまらなくなって再三2人を止めようとするルナ。
「会話に入ってくるな。うっとうしいな!!」
しまったと思ったが時既に遅しだ。ルナは瞳に涙いっぱい溜めながら、睨みつける。
「貴方なんて女王に相手なんかされないんだから!!」
精一杯のヤキモチなのだろう。しかし、リークはそう捉えなかった。
「女王に相手なんかされないだと?お前こそ、フラットに好かれていい気になんなよ!!」
リークとフラットの喧嘩がいつの間にか、ルナとリークの喧嘩になっている。フラットはどちら側に付けばいいのか迷う。ルナ側に付けば、リークから完全に彼女が好きだと勘違いされるし、かといってリークの味方を付けば友人としての良心が痛む。
「別にいい気になんてならないわよ!フラットくんは友情だもの!」
「友情?恋愛感情の間違いだろ!!」
やはり、リークの言う通りフラットがルナを好きなのだろうか。いや違う。フラットが好きなのは玲奈だ。
「違うもん。私と一緒にいてもドキドキしないって言ってたもん!」
「なんだって!?」
「フラットくんのタイプは年上の女性だもん」
「年上の女性…」
フラットは頭を抱えた。完全にリークにバレたに違いない。しかし頭に血が昇ったリークに冷静な判断ができる筈がなかった。
「そう言っても、お前に対しては優しいし、常に笑顔だ。お前自覚ないのか?」
「だって幼なじみだもん」
「幼なじみから、恋愛感情に発展する場合だってある。もちろん、俺は違う」
「だとしても、僕はあくまでもルナに対しては幼なじみ以上は見れないよ。例え、兄さんがルナを好きだとしても、何の敵意も抱かない」
「こいつ相手に敵意を抱く価値もないからな」
酷い言われように耐え切れなくなったのか、ルナはそのまま足早に自分の寝室に帰ってしまった。すると、リークは座り込み頭を掻いた。
「たくっ。好意がないにしろ、酷く言いすぎだよ。あれじゃあルナも傷付くって」
「俺に対して気を遣って、幼なじみだって言うなら余計なことだからな」
「別に気を遣ったわけじゃないよ。あれが真実。僕はルナは好きだけど、恋愛感情ではないの。僕が好きなのは玲奈さんなんだから」
目を見開くリーク。自分のはやとちりに気づき、両手で顔を覆う。
「てっきりルナが好きだとばかり思ってた」
「という兄さんも玲奈さんが好きなんでしょ?」
すると、渇いた笑みが漏れる。しばらくするとうっすらと涙が出る。
「玲奈さんに対しては姉みたいな存在にしか思ってねぇよ」
「まさか…兄さん泣いてるの?」
頬に滴る涙にようやく気付き慌てて、拭う。
「馬鹿だよな俺も。似顔絵の件だって向こうが忘れてても全然気にしてないつもりだったのに、本人が画材のこと言うからつい思い出してしまってさ…」
「それで言ったわけだ」
「ほとんど冗談で言ったんだけど、向こうはそう受け取らなかった。だから叩かれたんだと思う。それに本当のことを言えば、あいつがいたら平静を装えなくなるから、同居の件も反対したんだ」
こうやって、ルナに対して心ない言葉を投げつけてしまうのもそれ所以のことで、実に15の少年らしい行為だ。
「でも、お前は賛成してたからもしかしたら、ルナのこと好きなんじゃないかなって思った。実際お前達は親友だし、それ以上になってもおかしくなかったし、俺から見てもお似合いだ。けど…けどそれがたまらなく悔しかった。昔はこんなこと一度も思わなかったのに」
「兄さん、それが恋っていうものだよ。僕もね兄さんが女王と話をしてたと言った時も、内心腸が煮え返る思いだったよ。でも兄さんはルナが好きなんだよね」
首を思い切り横に振るリーク。どうしても自分の気持ちに素直になれないようだ。
「だれがあんなやつっ…」
「でも、僕らが散歩してただけですごい睨んでたじゃん。あれは立派なヤキモチだよ」
「…かもな」
でも、ルナにこんな気持ちを知られたところで、自分に好意がなかったらただの片思いだ。
「だったら、優しくしてあげたら?その方がルナも喜ぶよ」