★MAIN★

□仕打ち
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奈々は、言いようのない疑いを掛けられて頗る不愉快な気分になる。

「確かに貴方がそうお思いになるのは、仕方がありません。私情でルナにきつく当たったのも事実です。しかし、貴方がおっしゃった9時過ぎは、ルナが寝室に帰ってくるまでそこから一歩も出てませんでしたし、貴方達が口論してたのも、今日初めて聞きました」

「だとしても、ルナが僕らと親しい間柄なのは知ってるだろ?」

「えぇ。だから牽制をかけました。リーク先輩が好きならこき使ってやると。しかし、それは仕事上の話です。スクールに行けば彼女とはほとんど会わないのですから、それを実行できるわけがありません」

「つまり、君なりの忠告をしたわけだね?」

「その通りです。ルナはまだファンクラブの真の恐ろしさが分かっておりません。だから迂闊にリーク先輩に近付くなという意味も込めてそう言ったのです」

相槌を打つ透。彼女が嘘をついてるようには見えないし、ルナも彼女の言葉を信じているようだ。

「すまない…はやとちりだった」

漸く非を認めたのか、フラットは頭を下げる。奈々は疑いが晴れて安堵のため息をつく。

「良かった…」

再度ルナを見る。全身痣だらけでとてもメイドの仕事が出来る体ではない。それを見兼ねた奈々はこう言った。

「しばらく安静しなさい」

しかし、ルナにとっては死活問題なのだ。たった3桁の時給でさえ、彼女にとっては目的を果たす貴重な財源なのだ。たった1日だけでもその収入が入る入らないでは、差額が大きい。

「いえ、行きます」

それには、フラットも透も驚く。

「駄目だよ。こんな体で働くなんて」

「そうだよ。ちゃんと完治するまで安静にしてなきゃ」

医療に従事する2人は、彼女の状態を見て言っているのだ。しかし彼女は頑として諦めようとはしない。

「それを、間に合わないんです。目的を果たす時期に」

はっとするフラット。ルナはリークの誕生日に似顔絵を贈るために画材を揃える金が必要だと言っていた。そこまでして目的を果たしたいのか。ルナのリークに対する想いの深さを改めて知る。

「だとしても、君が倒れたら意味がないんだよ?」

「そうだ。今日はなんとしても休みなさい」

「………」

だが、ルナは決して首を縦に振ろうとしない。それを見た奈々はメイド服を渡す。

「働く気があるなら死ぬ気でやりなさい。例え、アルバイトだとしても仕事に入ればね」

「はい!」

「赤井!!」

「もしものことがあれば、私がすべて責任を負います」

その眼差しは、揺るがない強い意思が見え隠れしている。ルナはカーテンを閉めて、すぐにメイド服に着替えた。

「先輩行きましょう」

「えぇ」

奈々は、ルナを支えながら診察室を出た。そして、仕事に入る前に寝室に向かった。寝室に着くと、奈々はルナに黒靴を履かせながらこう言った。

「可哀相だなんて、思ってないわよ」

「…はい」

「自業自得」

「…はい」

うなだれるルナ。

「でも、入学早々から先輩達に目をつけられるなんて、貴女も災難ね…」

いじめがいつか展開されることは、奈々も予想していた。しかし、こんなに早く始まるとは彼女自身も想定外だった。

「手、見せてくれる?」

ルナは右手の包帯を外し、脱脂綿を外して見せた。

「酷いやられようね。助けは呼ばなかったの?」

「頼りになるフラット先輩はB棟にいますし、もし、そっちに行けば私がどんな状態か、他の人達にバレてしまいますから」

「なるほど」

「先輩。先輩はどっちの味方なんですか?」

いじめの首謀者が奈々ではない。そして、忠告を言われた。ルナがそう聞くのも至極当然だ。

「私は、向こう側。あんたは敵よ」

「やはり…」

「でもやり方が卑怯なのよ。勉強ができるからって、そんなことのために頭を使わなくていいんじゃないかって思う。先輩達に言えば私もあんたみたいな目に合うから怖くて言えないけど…」

「敵だろうと、先輩は先輩です」

嬉しそうな顔をするルナに、釣られて笑ってしまう奈々。

「あれ?おかしかったですか?」

「いや、拍子抜けしちゃったわ。あんたあまりにも擦れてないし、すぐ信じるし」

「あの時の先輩は、嘘をついてるように見えませんでしたから」

汚れることのない瞳。きっとフラットもリークもこの瞳のために守りたいと願っているのだろう。

「取り繕うつもり?」

「いえ、私にそんな高度なことはできません。それに、嘘はつけませんから」

「じゃあ、本当は…」

ルナは奈々をじっと見つめる。

「誰にも言わないと約束してくれますか?」

「それくらい重要なこと?」

「私にとっては、命より大切なことです」

ルナの瞳が真剣味を増す。きっとそのためにメイドを志望したのだろう。

「分かったわ。言わないと約束する」

「…正直に言うと、私もリーク先輩が好きです。物心がついたときからずっと」

奈々が入学して、リークに出会って好きになった時よりも、前にルナは彼が好きなのだ。

「けど、そう言ったらいじめられますよね。馬鹿だな。私」

頭をかきながら苦笑するルナ。

「こき使ってやる」

言葉とは裏腹に、笑顔になる奈々。

「先輩…」

「目的を果たしたいなら、誰よりも一生懸命働きなさい。どうせ先輩絡みのことでしょうから」

あっさりと見破られる。どうやらルナの言動は分かりやすいのだろう。

「反対しないのですか?」

「反対したところで、あんたの意思は変わらない。医者2人相手に自分の意見を譲らなかったから」

「だって、それを叶えるために頑張りたいから…」

「だからこき使ってやる。こき使って、どのメイドより立派なメイドにしてあげる」

「本当ですか?」

「えぇ。だから私についていきなさい」

「はい!」

2人は、メイド達のいる3階の調理場に向かった。


























………be continued
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