★MAIN★

□味方
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「望月様!」

「恥ずかしいからやめなさいその呼び名は」

「なんて格好してるのですか!?」

どうやらメイドをしていることを、藤波には言ってなかったようだ。

「社会勉強よ。貴方こそどうしたの?」

「家に戻っても、いらっしゃいませんでしたから。ここまで来ました」

「そう」

視線を香純からルナへ移す。

「ダメじゃないですか。君は怪我人なのに」

「分かってます」

「…どうしても休めない理由があるみたいですね?」

「はい」

すると、もう、一度視線を香純に戻す。

「望月様。彼女のこと頼みます」

「なら私からも頼み事があるわ。スクール内は貴方に任せたわよ?」

「えぇ、もちろんです」

するとルナ達とは反対側に車輪を向ける藤波。

「クロフォード。明日、学校に行くか行かないかは貴女が決めなさい。1時間目私はDー2教室で待ってます」

そう言うと、そのまま遠ざかっていく。それを見送ってから、玲奈のいる寝室のドアに、ノックした。

「失礼します。お食事の時間ですジュニー国王」

「入りなさい」

ルナは慎重に料理を乗せたカートを部屋の中に運ぶ。

「今日は、3種の野菜ポタージュと…」

初めて見る料理に、説明しようにも説明しようがない。そんなルナをフォローするように言葉を加える香純。

「ジパングウエスタン原産の伊勢海老のマヨネーズ和え、そして、ムール貝他、海鮮リゾットとなります」

玲奈と香純の目が合う。

「同じグループになったみたいですね」

「えぇ」

「ルナをよろしく」

「もちろんです。では私達はこれで」

「待って」

退室しようとする香純達を引き止める玲奈。何が言いたげな様子だ。

「ルナ。どうしたのこの怪我」

やはりそちらが気になったのか。全身の傷はメイド服で隠せても、手の傷は隠しようがない。

「…ただの怪我です。女王が心配なさるほどではありませんので、安心してくださいませ」

「リークが難しい顔してたのとは、関係ないようね」

玲奈の口から彼の名前が出て、ルナはきりりと胸が痛くなる。

「気になるから、聞いてみたらなんでもないって言われたけれど…」

難しい顔をしていたのは恐らく今日の件だ。彼女に知られたら、メイドのほとんどをクビにするかもしれない。国王の発言は絶対だ。しかしそうなれば、風当たりが強くなるし、玲奈自身の評価も下落してしまうだろう。それにメイド達のほとんどは学生だ。どういう目で見られるかなんて分かったものじゃない。

「難しい時期に入ったのでは?私達にもあったでしょう。思春期が」

機転をきかす香純。

「思春期?」

どうやら玲奈には思春期そのものを知らないようだ。そう彼女が思春期と呼べる時代は存在しない。なぜなら、一般的にいう思春期真っ盛りの時に、戦いに身をおき、平和になってからは、すぐにこの国王になった。目まぐるしく変わる日常の中で、思春期の女の子らしい悩みを持つことさえできなかったのだ。それを思い出した香純は、説明する。

「例えば、今の私達には些細なことでも、その頃はなんでもないことにいちいち悩んだり、考えたりするのです。リークもその時期に入ったのではないのでしょうか」

だからみだりに話を聞きだそうとしてはいけない。彼女はそう言いたいのだ。

「つまり、あまり詮索するなと言いたいのですか?」

その刺々しさを含んだ口調に、ルナはまたもや胸を痛める。その刺々しさが増すほどリークに対する愛情が強いのだと感じるがゆえに、自分では敵わないと痛感する。

「せ、詮索するなだなんてそんなっ…ただ彼も秘め事を抱えてるのではないのですか?」

「秘め事?誰か好きな人でもいるのかしら」

「す、すみません。長居したようなので失礼します」

玲奈が見たリークの表情は難しい顔だったが、その難しい顔の瞳の中が微かに揺れていた。だからその言葉が出たのだが、ルナはこれ以上聞きたくなくて逃げるように去っていく。

これには流石の香純も驚いたが、ある結論に達したのか、彼女を追いかけもせずに、玲奈の方に向き直る。

「貴女がリークの話をするからヤキモチを妬いたのでは?」

「ヤキモチを妬く?どうして?私はリークを弟としてしか見てないわ」

だとしても、ルナのことだから過剰に反応してしまったのだろう。それこそ思春期特有の。

「ルナはリークが好きなんです」

「あ、それで」

納得がいったのか、クスクスと笑う玲奈。

「ルナに言っておいてください。私はリークに対して恋愛感情を抱いてはいないと」

「もちろん、そうさせていただきます。彼女に誤解させたままじゃあ、今後お互いが気まずいですから」

「ありがとうございます。では彼女の元へ行ってあげてください」

「はい」

一礼すると、ルナが向かったであろう3階の調理場に向かう。すると、奈々が香純に駆け付ける。

「早く来てください」

奈々は、人だかりを掻き分けてルナのいる倉庫前に行く。

「どういうこと?」

「あまり大きい声をださないでください。周りに気づかれます」

倉庫の鍵が閉まっている。

「実は、私達が戻ってきた時にルナの行方が分からなくなって、他の大臣にお聞きしても誰も知らないと…」

「それで?」

「4階の裏口から偶然見たんです。ルナが先輩達に…」

「先輩達に?」

「集団リンチされました」

目を見開く香純。自分が目を離した隙にルナがこんな目に遭っていたのだ。

「そのルナは?」

「倉庫の中に閉じ込められてます。今開けようとしてますが、見張っててもらえませんか?」

どうやら自分達のしたことを揉み消すために、ルナを閉じ込めたのだろう。そう思うと腹立たしさで目つきが自ずときつくなる。

「私達がいちいち反応すれば、向こうの思う壷です。あくまでも平然とした態度をお取りください」

「わ、分かったわ」

香純は自分達に視線がいかないように、調理場の掃除をしながらカモフラージュする。そして誰も見てないタイミングで、奈々に合図を出す。奈々は倉庫の番号を素早く回すと、香純を引き連れて倉庫の中に入り、内側から倉庫を閉めた。

「鍵を閉めるなんて、どうかしてるわ」

「開けてルナを出したら、私達がグルだとバレます。それにここの倉庫実は隠し扉があるんです」

そう言いながら、倉庫の奥に向かう。すると、壁に持たれながらぐったりとするルナがいた。顔が傷だらけになっていて、腫れている箇所も1つや2つではない。

「どうして…来たのですか…先輩達も巻き込まれちゃいますよ?」

こんな状態になっても、まだ奈々達を気遣うルナ。

すると隠し扉からメイド長がやってきたので、奈々は事情を説明した。

「とにかく医務室に行きましょう」

「リーク先輩には…言わないで…」

「分かったわ」

奈々はルナを背中におぶると、裏口の扉を出て医務室に向かった。もちろん他のメイドにルナの存在を気づかれないように、香純とメイド長が壁になって進む。

そして、医務室に向かうと最悪のタイミングでそこにいたリークとルナの目が合ったのだ。

「どういうことですか?雨宮メイド長」

ルナから口止めされている。だが賢い彼のことだ。見当はついているようだが、下手に言い訳はできない。

「リーク・クリフト」

いつもよりトーンを下げた声に、思わず緊張が走る。

「見当はついてるようだから話すわ。ルナは貴方の熱烈なファンであるメイド達によって、傷を負わされました」

唇を噛み締め、下を向くリーク。

「それも1人や2人ではありません。赤井から聞いたところだと、10人はいたと」

「直接言えばいいものをっ…」

「言えないから、私に当たったんだと…」

「お前はしゃべらなくていいっ」

簡易ベッドに寝かされるルナ。

「にしても、彼女は何の因縁もつけてませんし、不愉快になる発言もしてません。先輩、これって不条理でしょう?」

「不条理さ。不条理すぎる。ルナは何も悪くない。悪いのは俺だ…」

診察室にいたフラットも、窓越しから彼らの会話を聞いて駆け付ける。ルナの凄惨な姿に思わず目を背けたくなる。

『誰にされたんだ?』

双子の言葉が見事にシンクロする。だがルナは口を割ろうともしない。すると診察室から透がやってきた。

「この様子だと、言うに言えないよ。それよりルナ。君はもう休むべきだ」

「でもっ…」

「君が傷ついて、悲しむ人がいる。分かるね?」

鎮痛薬を飲ませる。そして透の矛先はメイド長に向けられた。

「メイド長、貴女の管理不足では?」

ルナの惨状を未然に防げなかったのは、メイド長の責任だ。

「違っ…」

「その通りです。管理が不届きでこのようなことになりました」

「待ってください。雨宮メイド長だけの責任ではありません。そばについていたのは私です。彼女が離れた隙に、追いかけれていれば未然に防げたかもしれません」

「メイド長のせいでも…望月先輩のせいでもありません。1人で調理場にいたからこんな目にあったんです…」

ゆっくりと起き上がるルナ。

「誰からされたか言えるか?」

首を横に振るルナ。

「言ったら、赤井先輩も望月先輩も巻き込まれてしまいます。いじめられるのは、私だけで充分ですから…」

「馬鹿言うなよ!お前1人で対処できるのかよ!?」

「…兄さん。おおよその見当はつくよ。今日ルナの靴箱に画鋲を仕組んだグループだ。間違いない。顔なら覚えている」

「全員か?全員覚えているのか」

頷くフラット。

「それに、昨日聞いていた犯人もその中に入っている。おそらく朝早くにそのグループは集合して、綿密に計画を練ったのだろうね」

「食堂での冷たい視線は?」

「犯人がファンクラブ全員にその情報を流した。赤井を除いてね」

「つまり、赤井が犯人ということか?」

「いや、それは僕も最初疑った。一番ルナの近くにいたからね。でも、赤井はまどろっこしい真似はしない。やるなら一体一でやる」

「じゃあ犯人は誰だよ。どうして赤井には明かさなかった?」

赤井が自分のファンクラブに所属していることは知っている。なら何故彼女だけにその情報を知らせなかったのだろうか。

「手を貸さないことを知っていた」

「だとすれば、リンチの対象に入ったはず」

「それはできない。何故ならリンチをしたら間違いなくルナが自分達を警戒するだろうから」

「何も知らないルナは、あの人達にとっては格好な敵だった。そういうわけか。で、犯人は」

フラットは紙切れに、あの事件の首謀者の名前を書いた。なんとクラスAの生徒ではなく、クラスBの生徒の名前だったのだ。

「理由は?」

「彼女は今年で最後の特級クラスの試験だった。だけど、落ちた。そして入学生の中で唯一特級クラスに入ったルナに猛烈な憎しみを抱いた」

「単なる八つ当たりじゃないか」

「八つ当たり程度なら、かわいいもんだよ。けど彼女は兄さんの猛烈なファンだった。だから、それも加わってルナが目の敵となった」

「それなら他の特級クラスに落ちた人間が犯人の可能性がある」

そうだ。特級クラスを受けて必ずしも試験に合格し、そのクラスに入れるとは限らないのだ。ましてや自分のファンクラブの中の生徒で特級クラスに受けた人間も少なくはないし、また不合格で戻ってきた人間もいる。

「いや、彼女は美術科のクラスを受けていた。同じクラスBだから、幾度とその試験の話を耳に挟んでいた。まさか新入生より成績が下だったなんてね。本人のプライドはずたずただっただろうな」

「ならば絵で勝負すればいいだけの話だ」

その言葉に誰もが頷く。そしてフラットはある提案をルナに出した。
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