★MAIN★

□相互思慕
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「となると、まず青龍の居場所からだな」

青龍はルナと一緒に船旅をした仲だ。仲間のよしみで、血を提供してくれるかもしれない。また、青龍は純粋な龍族なので度々、礼達のもとへ行っていることも、母親のリリアンから聞かされている。彼なら礼達の居場所を教えてくれるかもしれない。

だが、1つ問題がある。彼の住むアクアマリンワールドは、クリスタルワールドのセントラル海溝に位置するため、水深3000mより深い場所にある。能力者といえども、水圧に耐えられるバリアを張らなければ訪れることはおろか近づくのも不可能なのだ。

「今の兄さんでは、青龍には会えないよ」

「じゃあ、どうする?お前の案を聞かせてもらおうか」

「…そうだね。兄さんは仕事途中だったから、仕事上がりの時に、先生と一緒に聞いてもらいたい」

その言葉を聞き、今更ながら自分が仕事途中だと思い出したのだ。そこまで、ルナの病気に対して真摯に話してた証拠だ。

「分かった。いつまでも先輩に任せちゃ悪いしな」

「じゃあ、仕事が終わったらここに集合ね」

「了解」

リークは駆け足で、門番の仕事に戻る。

「あぁ、話が済んだのか」

「お待たせしてすみません」

「いや、構わないよ。ただ弟、ものすごい怖い顔してたな」

傍目で見てもあの時のフラットは、普段のポーカーフェースではなかった。

「は、はい…」

「何か深刻な話だったのか?」

彼の言うとおり自分達にとっては、重大な話だ。だが、他人の彼に言ってもいいことだろうか。

「えぇまあ…。で、でも先輩が心配するようなことではないので」

「水臭いなぁ。部活でも一緒だし、相部屋にもなったんだからさぁ、教えてくれてもいいだろリーク」

だとしてもファンクラブの女子達に告げ口しないだろうか。いや告げ口しなくても、自然とルナが闇雲ウイルスに感染したと、伝播されてしまうと不都合が生じる。もちろんそれは、リークだけの話ではなく自ら消息を絶った礼達にも不都合が生じる。そうなれば、血を提供することはおろか、会うことでさえも不可能になる恐れもある。

すると、顔を近づけられる。

「妹はかなり、首を突っ込んでるようだけど?」

その言葉に目を見開く。確か彼の名前は赤井亮。つまり、奈々の兄にあたる。

「しかし…」

「なら、妹に聞くから」

「赤井は秘密主義者です。例えその兄である先輩にも話さないでしょう」

「皆して冷たいねぇ。俺が介入したら不都合なのかい」

いつもの営業スマイルに陰りが見える。

「昨日、フラットにも聞いてみた。でもあなたが介入する問題ではないと軽くあしらわれた。じゃあ妹が介入する必要はないよな」

壁に追いやられ、逃げ場を失う。

「…赤井はクロフォードの…」

「なるほどクロフォードについての話だったのか」

自分の失言で、すべてが終わった。

「………」

ルナを助けられないまま、このまま自分を一生責め続けなければならないのか。

「お、おいっ。顔色悪いぞ」

頬を軽く叩かれて、我に返る。

「先輩…頼みますから、誰にも言わないで」

亮の肩に縋り付き、切実な顔になるリーク。すると亮は頭を撫でた。

「…心配すんな。秘密主義者の赤井の兄貴が俺なんだから。お前は何を話してたんだ?」
ここまでくれば、明かすしかない。だが、誰かが聞いてるかもしれない。

「仕事終わりに、その話をします。もちろん赤井もフラットも巻き込んで」

「…なるほど。じゃあそれまでは明かせないんだな」

「重大な話ですから」

それ以後、仕事が終わるまで2人は口も利かずに仕事に真っ当した。気が付けば、夜も更けて、城の鐘が10回鳴り響いた。

「終了したな」

「はい」

仕事を切り上げると、フラットと約束していた場所であるメインストリートで待機する。人がいなくなったところで、フラットが現れたが亮を見るや否や、不機嫌な顔になった。

「兄さん、関係のない人まで連れてこないでくれる?」

「赤井の兄貴なんだよ。先輩は」

「だとしても、赤井先輩には…」

「関係あるよ。妹が介入してるし」

「兄さん、まさか言った?」

「いや、これから」

「なら、聞かないほうが身のためでしょう」

冷たい瞳が亮に突き刺さる。リークはそれほどでもないが、フラットは自分の内部に入っていい人間とそうでない人間に対しての態度が、雲泥の差なのだ。現に自分にとってリークは内部の人間だが、亮は赤の他人だ。

「聞かないほうが身のためなら、どうして妹が介入してる!?」

その質問は至極正論だ。だが、フラットはこれ以上他人に介入されたくないのか、いつもより冷徹な眼差しを向ける。

「赤井奈々はルナの上司です。だから彼女の管理のために教えたまでです。それに貴方は、兄さんの先輩にしかすぎない」

すると、亮はポケットから生徒手帳を取り出し、フラットに差し出した。

「悪いけど、俺もあんたと同じ医学科になったんだよ」

「医学科と、僕らの話に何の関係が?」

どうやら話の大筋をつかまれてるようだ。すると、奈々がやってきた。

「兄さん、どうしてここにいるの。仕事は終わった筈でしょう?」

「奈々まで隠す気なのか」

「隠す?」

首を傾げる奈々。

「クロフォードの件。あの子、昨日から見かけないけど、何かあったのか?」

「それがどうしたっていうのよ。兄さんには関係ないでしょ」

「あるね。お前の部下なら余計に」

「無駄に介入しないでくれる?」

「介入しないで、って言うけどお前も介入してよい話に重大な話はないだろ」

だから自分にも介入する権利がある。そう言いたいのだ。しかし、それはルナの出現により遮られる。

「赤井先輩!!」

病床に伏せていた筈の彼女にリークもフラットも目を疑う。

「すみません。これは私の判断なんです」

いつ死ぬか分からないような人間を働かせるとは、非情にも程がある。亮がいなければリークは迷わず奈々の胸倉を掴んだにちがいない。

「ご、ごめんなさい。心配かけたくなくて。でも、まだすぐにってわけじゃないから…」

「どういうことだ?クロフォード」

亮の存在に気づいたのか、自分の存在がばれたのを感じて、身を震わせるルナ。

「な、な、なんでも…」

後ずさりするルナの手首を掴もうとすると、リークにその手を払われる。

「こいつ、昨日のことですっかり参っちゃってるんです。だからみだりに触らないであげてください」

相変わらず笑顔だが、目は笑ってない。

「隠そうとする意味が分からないんだけど…」

「せ、先輩には関係ない話です」

「それに、それを伝播されると僕らはもちろん、その他の人々にも不都合が生じるのです。だから、みだりに介入されたくない」

つまり亮が、他の人間達に話を伝播するだろうとふんでいるのだ。

「いずれにせよ。リークは俺に聞く権利を与えた」

「兄さん、どうして!?」

苦虫を潰したような顔で答える。

「俺の失言なんだ。ルナの名前を言った。それで勘繰られたから…」

「そういうこと。もちろんフラットや奈々が介入しないでほしいなら、それ相当の理由が聞きたい」

そんな簡単に理由なんて話せるわけがない。フラットと奈々は口を固く閉ざす。すると、ルナが口を開いた。

「私の話を聞くことで、傷つくからです。もちろんクリフト先輩達だけでなく、それに協力してくださるであろう人々も。だから、言えない」

「どうして傷つく?」

最後まで聞かなければ、納得がいかないようだ。観念したのかフラットはため息ながらに話し出す。

「先輩が誰にも言わない前提ならお話します」

「もちろんそれは約束する」

「本当ですね?さもなくば、抹殺させていただきますよ」

眼鏡のレンズが妖しく光る。リークは知っている。こういう時のフラットは本気だ。彼の実力なら、人一人殺せる薬を作るなど、容易い。それは、視線を向けられた亮も知っている。

「あぁ。絶対に言わない」

「なら、僕達に付いてきてください」

細心の注意を払い、リーク達は透のいる診察室に向かう。透は亮を見るや否やため息をついた。

「亮までついてきたのか…」

「中川先生は、知っているんですか」

「知っているも何も、赤井兄弟は皆しってるぞ。今いる2人の他に、医務関係で働いてるのが3人、メイド関係が3人。赤井兄弟は全員で8人」

「副メイド長、子沢山なんですね」

「じゃあ、この話は?」

「筒抜けってわけ。ね?黙ってても俺達一家には通用しないよ」

「分かりました。じゃあ皆さん言います。今日、兄さんはあの人に電話をしました」

ざわざわした空気がフラットの言葉でぴたりと止む。

「ある人に輸血の提供を頼みましたが、酷く拒まれたみたいです。そのある人には、苦い過去があります。実はそのことで貴方には言いづらかったのです」

「クロフォードについてよりも?」

「ルナについては、いずれ僕たちが言わなくても日の目を見るので、そこまで気にしてません。しかし、ある人の過去は世界を揺るがすほどの秘密があります。だからこそ、拒んだ。そうなれば仕方ない」

前置きを話し、眼鏡を外すフラット。

「ルナの病気は闇雲ウイルスシンドロームBーDーG083型です」

「BーDーGは分かる。黒龍の血だろ。083型っていうのは?」

さすが医務に関係してるだけあって記号の羅列は理解しているようだ。

「単に治療難易度の高さを表すものです。083は治療成功率が17%。つまり2割弱というわけです」

自分の親友に対して、こうも冷酷なことが言えるのか。気がつくとフラットの胸倉を掴んでいた。

「ルナのいる前で、よくもそんなことが、言えるな!!」

フラットは対して顔色が変わらない。やはりルナを一患者としか見てないのか。その手を固く掴む。

「だとしても、結局知らないままで土壇場になって知ったのでは遅いよ。ルフィアさんの時だってそうだったじゃない」

ずっとフェニックスシンドロームだと思い、看病に勤しんだが、死ぬ直前に闇雲ウイルスだと言われた時には絶望しか残らなかった。

「だ、だからって本人の目の前で…」

「多分僕が貴方達の立場なら、言わない。でも、僕は医者だ。例え今は見習いだとしても」

「その意見には賛成だな。我々医者は患者に伝える義務がある。いや本当は隠してもよかった。でも、そうなれば君達は後悔する。フラット、お前の策を教えてくれないか」

「先生、赤井先輩。四龍に含まれるPDG型のエキスを人工的に作るのに協力してもらえませんか?以前に、何度も実験を繰り返しましたが未だ摘出されることはないけれど…」

「それでこそ不可能じゃねーか!!」

壁にフラットを叩きつけるリーク。

「じゃあ兄さんは、本気であの人の血を摘出するつもり?説得もできなかったのに!?」

「えっ…」

愕然とするルナ。血の提供の話は聞かされてなかったのに。

「血の提供っ…?ねぇ、輸血でしか私治せないの?」

厳密に言えば、リークの輸血はたんなる気休めでしかなかったというわけだ。リークは自分の血では治療の【ち】もかすらないことが、悔しかった。

「だったら私っ…」

頭を抱えるルナ。フラットを解放し、人目も憚らず抱きしめる。

「クリフト先輩っ!!」

「死のうなんて考えるな!」

自分の中に死へのほの暗い気持ちを見透かされ、瞳が揺らぐ。

「死ぬなら、全部済ませてからにしろ!お前は何1つやり遂げてないだろう」

目が限界まで見開くが、そっと目を閉ざす。

「そうね。皆が頑張ってるのに、私悪いことばかり考えてた」

「ルナ。俺は明日休学届を出し、あの人の元へ行くための準備を始める」

リークはあくまでも初期の方法で、ルナを救う予定なのだ。
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