★MAIN★
□悲劇
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藤波は、自分達の戦友かつ平和を守った人物だから偉大な人物として記されているだろう。しかし中にはスクールに入学するまで、全く知らなかった教師も少なからずいる。
「だいたいの先生は、癖、ファッション、担当教科で情報を得ることができる。兄さんもこれはしてるね。あとは国立図書館に人物事典があるから、先生達の名前を調べたら大抵載ってる。でも、その人物事典は試験勉強期間はかなり借りる人が多いから、情報を得る時は最低でも試験1ヶ月前に借りること。ちなみに僕は…」
「1ヶ月前に借りてるんだろう?」
「いや、春休み、夏休み、冬休み、そして休日にに借りてる。情報は毎回更新されるからね」
「どおりで長期休暇と休日は、毎日図書館に行ってたんだ」
「だからそこ図書館に近い物件に住んでたんだけどね。まあ、長期休暇の場合ほとんどの生徒が旅行に行ったり、里帰りするから、図書館に行く人口がかなり下がる。勉強するにはうってつけなんだよね。どう?兄さん。せっかくルナと授業受けるんだからさ…いいところ見せたいでしょ」
確かにルナの前ではイメージダウンだけは避けたい。
「そうだな。休日は一緒に出かけるか」
「なら決まりね」
程なくして風呂から上がると、2人は互いの体をまじまじと見た。
「兄さん、また怪我してる。朝練ってそんなにきついの?」
手の平だけでなく、全体に満遍なく傷を負っている。
「きついってもんじゃないぜ?毎日毎日しごかれるんだからな。平和になった今だからこそ余計に、訓練された剣士が必要なんだってさ」
「不安なんだね。皆」
ここ最近で、2度も平和を乱され、闇一族の脅威にさらされた。またいつ平和が乱れてもおかしくないと考えるのが普通だろう。
「闇一族は滅んでも、闇雲ウイルスに悩まされてる人達だっている。それは剣士の俺ではどうすることもできねぇ」
外敵は守れても、ウイルスは人の体内に入るものだから、リークではどうしようもない。
「兄さんの言いたいことは分かっている。今急ピッチで、闇雲ウイルスの的確な治療法を探してる。全成分が解明された今、完治させる方法が見つかるの時間の問題だ」
「けど…」
「ルフィアさんを助けることはできなかった」
ルナの母親。彼らにとっても大切な人を亡くした。8年前のことだが、2人の心に影を落としている。
「…あの頃、俺達にできたのは、ただ彼女の遺言を聞けたことだけだ」
衣服に着替える2人。ルフィアは逝く直前に、娘のルナを頼むと言ったのだ。始めはその義務感として、ルナを見ていたがいつしかリークには、別の感情が生まれるようになった。
「僕達には、ルフィアさんの遺言を守りつづけていく義務がある」
「…だな」
一方、ルナ達も女子浴場に入っていた。ルナの身体は傷だらけで、奈々も思わず目を覆いたくなるほど、1日で凄惨な姿に変わり果てた。
「クロフォード」
「…はい」
「風呂に上がったら一度医務室に行くわ。新しい包帯巻いてもらうから」
「えぇ…」
2人は風呂から上がると、身体を吹いて、衣服に着替えて、脱衣所の右奥にある部屋のドライヤーを利用した。
「クロフォード」
「な、なんでしょうか」
注意深く神経を研ぎすまなければ分からないほど、微かな気配に気づいた奈々は脱衣所のトイレにルナを連れて隠れる。
「せ、先輩?」
「静かに…」
脱衣所の中から声が聞こえる。
「昨日さ、あの田舎女閉じ込めたじゃん。解放しようと思ったらいなくなって、焦ったー」
「私達の恐ろしさに怖じけづいて、故郷に帰ったんじゃない?」
「それありうる。てか、そっちの方が好都合じゃん。こっちの犯行もバレずに済むしさぁ、邪魔者も消えて」
奈々はとっさにルナの耳を塞ぐ。ルナは首を傾げながら、中の様子を窓越しに見ようとする。
「あんたはじっとしてなさい」
「…はい」
窓越しに聞こえるルナの陰口に、彼女に会って話をしなかったなら、こちら側にいたのかもしれないと、ぼんやりと思う。
メイド達が視界から消えると、奈々はドアを開けて、ルナと共に寝室に戻った。この時すでに7時半を差していて、朝食の時間になっていた。昨日のこともあるので、奈々はテレフォンコールで、ボーイに直接ここに料理を出すように頼んだ。
「食堂に行かなくていいのですか?」
「あんたねぇ、他のメイド達はあんたが消えたと思って安心してるんだから、のこのこ現れちゃだめでしょう?」
「でもスクールで会いますよね?」
確かに城内で気配を隠せども、スクールに通えば、ルナの存在が明かされてしまう。すると、ボーイがやってきたので奈々はルナをクローゼットに隠す。
「おや、物音がしましたが?いかがしました?」
「い、いえなんでもありませんわ。あ、あれ?」
帽子を深く被るボーイ。どうやら彼も呼び出したのが奈々とは気づかなかったようだ。その声質からして、電話対応の相手が彼ではなく別のボーイだったようだ。
「呼び出したのは君か・・・」
「えぇ、昨日のことがありますし」
「それは賢明な判断だ。で、クロフォードは?」
「あ、すみません」
慌てて、クローゼットからルナを出す。ルナは、ボーイと目が合うとクスリと笑った。どうやら、彼女はすぐにボーイが誰か分かった。そうリークだ。
「ふふ。お似合いですよ。ボーイの姿も」
「それはどうも。赤井、料理は何処に置けばいいかな?」
「ベッドとベッドの間で構いません。それより先輩、どうしてその格好を?」
リークは城務委員になった筈だ。ボーイのする仕事をわざわざ彼がする必要がない。
「ルナの存在はないってことになってんだろ?教育係の先輩に行かせてくれって言ったんだよ。他のやつらだと不都合が生じるだろ?女共には頭が上がらないし、密告する可能性があるじゃん?」
昨日、救済を求めるの目をしたが、皆顔を逸らすだけだったのだ。やはり、クラスメイトの男子達は女子達には適わないらしい。
「でも、彼からしたらやっぱりおかしいじゃないですか?教育係でもない先輩がボーイの仕事を申請するだなんて」
「それは突っ込まれた。そしたらさ、フラットが言いくるめてくれた」
つまり、フラットの巧みな口術により、絆されたというわけだ。
「ありがとうございます。先輩は朝食は召し上がりましたか?」
「いや、まだ。フラットを待たせてるし、そろそろ戻る。赤井、登校中は頼んだぞ?」
「分かりました。わざわざありがとうございます」
一礼すると、リークは帽子を外してルナにウィンクした。そして寝室を退室した。
「さて、いただきましょうか」
「そ、そうですね!」
2人は朝食を摂ることにした。
「にしても、リーク先輩もルナのために気に掛けてくださるけど、幼馴染で家族同然だって言われても、やはりちょっと・・・」
「あぁ、わ、私が頼りないからみんな心配してくださるんです・・・」
「どうかしら?昨日私が帰った後、先輩達看病してくださったそうね?あんたは寝てたから知らないと思うけど、高熱を出したそうよ」
「えっ!?」
「多分、打撲した箇所が熱を発して体全体が熱くなったそう。フラット先輩が教えてくれたわ。あんたずっとリーク先輩が看ていてくださったのよ」
(起きたときには微塵もそんなことを言わなかったのに・・・)
だが思い当たる節があった。医務室は鍵が掛かっていたはずだし外からは、見えないので寝ていたとしても何も心配が要らなかったはずだ。だか、彼は寝不足だと言っていたし、実際、うっすらと目の下に隈ができていた。
「だからだったんですね・・・。彼が寝不足だって言ったのは」
「次に会ったら、ちゃんと礼を言っておきなさいね」
「はい・・・」
食事を進めるが、ルナの皿にはまだパンが残っている。
「どうしたの?昨日のことがあって、食べられる気分じゃないの?」
「あの・・・私高熱出してたんですよね?」
「そ、そうよ?それがどうしたの?」
「全身打撲で、その箇所が熱を帯びたとしても、額は熱くならない筈では?」
「あぁ・・・ごめんなさい。そのときの状況は見てないから私にも詳しくは分からないの」
すると、寝室のドアをノックする音が聞こえた。
「あんたはそこで待ってなさい」
ルナを待機させて、ドアを開けるとフラットが立っていた。
「ルナは?」
「今食事中ですが、どうかされましたか?」
「ルナがいると言い辛い話だから、適当に言って医務室に来てくれないかな?」
「ルナじゃなくて、私がですか?」
「うん」
「少々お待ちください」
一度、ルナのいる寝室に戻る。すると駆け寄られた。
「だ、誰ですか?」
「あぁ・・・メイド指導員の先輩よ。今から臨時で会議に入ることになったの。すぐ終わると思うから、そこで待ってなさい」
「分かりました」
会議について聞こうとしたが、切羽詰った様子の彼女に聞くのは申し訳ないと思ったので、そのまま行かせた。フラットは奈々とともに診察室に入る。すると、データ資料を見ながら難しい顔をする透の姿があった。
「先生、連れてきました」
「ありがと。あ、赤井さんだったね。そこに座って」
フラットと奈々と自分を向き合う形になるように座らせる。
「あの・・・先生?」
「フラットには昨日話した。今日呼び出したのは、どうしても聞いてもらいたいことがあるから来てもらった。もちろんルナには話してないね?」
「内容が分からないで、話せないと思いますけど?」
「そうだった。これから言う内容は、誰にも言ってはいけない。もちろんルナにもね」
「あの・・・リーク先輩は知ってるの?」
すると、医務室から張本人がやってきた。
「これから、聞くんだよ。フラットがボーイの仕事を済ませたらすぐに来いと言われたんだけど。赤井もその類?」
「はい」
「どうやらメンバーが揃ったみたいだ。皆心して聞いてほしい」
透は、フラットに資料を渡す。
「フラット、専門用語なしで説明してくれ」
「えぇ。実はルナのことだけど。彼女のハンカチに血液がついてたでしょ?それでAB型だと分かったよね?」
「それで、俺が輸血した」
「うん。その後に判明したことだけど、ルナの血液にこの成分が摘出された」
「はぁ?」
フラットから提示された、夥しい数の記号の羅列に首を傾げる。
「あ、ごめん。要点を言えば、ルナは闇雲ウイルスに掛かってる」
絶句するリーク。
「で、でも・・・彼女はいたって普通で・・・」
突然の言葉にうろたえる。
「悲しいことだけど、母体にいたときから浴びてるみたいだね」
「なら、俺達だってありうるじゃないですか。おなじ地元なんだし…」
「なんて言ったらいいのかな。ルナの場合極端にそのウイルスに弱い。何か心当たりはないかな」
リークのみならず、フラットも首を傾げる。しかしただ1つ挙げられることがある。
「いままで、ずっと昼寝を欠かしませんでした。でも、それがこの病気に繋がるとは思えませんが…」
すると、透は首を傾げながら腕を組む。
「直接かどうかは分からないけど…彼女の場合、人より極端に体力がなかったりしない?」
「確かに分校時代は、太ってたのもあるし、体力もなかったです」
「体型にも変動あったよね?食事量は変わってないはずだけど」
確かに、昨日一緒に朝食をとった時は、分校時代と変わらずフラットよりルナのほうが食べていた。
「ま、まさか…」
「どうやらビンゴのようだね。急激に体重が減ったよね?君達が去る2年前より」
図星だった。