★MAIN★
□還るべき場所
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翌日、ルナとリークは景に乗せてもらい、クリスタルキングダムに戻った。着いたころにはすでに夕暮れ時だった。城内で待っていた赤井がルナを抱きしめた。ルナを抱きしめる。
「良かった。生きてたのね!」
「ご心配かけてすみませんでした」
「リーク先輩もお疲れ様です」
「ん」
「城内のアルバイトには戻らないのですか?」
赤井の問い掛けに苦笑するリーク。
「雇い主に解雇されたしね。気まずいし」
すると、正装した玲奈がやってきた。
「お帰りなさい。ルナ、リーク。無事でなによりよ」
一礼するルナとリーク。
「従兄さんは元気だった?」
「えぇ。2人の子供達も景さんも元気そうでした」
「え?もう1人できたの?」
景が地上世界を離陸する前に聖の存在は知っていたが、飛龍の里で生まれた雅の存在は知らない。
「えぇ。栗色の髪の毛をした女の子でした」
「まあ。名前は?」
「……すみません。そこまではまだ」
「ごめんごめん。ルナ、貴女はしばらく安静にしてなさい。病気が治ったとはいえまだ本調子ではないから」
「すみません」
ルナからリークへ視線を向ける。
「リーク」
「すみません、もう城内で働ける身分ではありません。和純さんから解雇されました」
目を見開く玲奈。そのことは和純から聞かされてないのだろう。
「俺は貴女のためには働けません…」
つまり、ルナがいるからだと言いたいのだろう。それなら無理に戻ってこいとは言えない。
「なら、仕方ないわね」
「………」
しばらく沈黙が流れる。
「スクールには復学するでしょう?」
「はい。1ヶ月分の遅れを取り戻さないといけないので」
「なら、いいわ。ルナ、貴女は…」
「メイドを続けます。女王の許可が出たらの話ですが」
「分かった。じゃあ2人とも今日は休みなさい。赤井、ルナを寝室へ」
「かしこまりました」
赤井とルナ、リークに分かれて寝室に戻る。ルナは昨日のドレスを脱いで、普段着に着替える。
「にしても、リーク先輩…」
「デュエルに勝ちましたよ。私見ましたから」
ルナはスケッチブックを赤井に見せた。レイピアを構える姿、振り上げる姿、レイピアを突く姿、事細かに描かれた絵。とてもじゃないが13の少女が描いたとは思えないほどの精密さと躍動感に目を見張る。
「本当にこれ、貴女が描いたの?」
「はい」
健康時に描いたわけではなく、死期が迫った時に描いたのだ。そう思うとますます信じられなくなる。
「証拠は?」
ルナは鉛筆と、紙に印したサインを見せる。擦り減ったその鉛筆は、まさしくルナのものだし、サインも見慣れたサインだ。
「…通りで、実力だけで美術科に入ったわけね。こりゃ、経験うんぬんとかすっ飛ばしてるわ」
「うーん。そうなんでしょうか」
本人は自分の凄さに気付いてないのだ。
「あんたねぇ、メイドなんかやってないで絵描きで食べていきなさいよ。絶対にやっていけるわ」
昔、生活が困った時自分の絵を売ったが、実際にそれなりの金額を得ることができた。
「でも、商売にはしたくないんです。絵を描くのはその人だけのためですし、大衆向けではありませんから」
「こだわってるのね」
「師匠のお言葉ですから」
ルナの師匠が藤波だということを知らない赤井は、首を傾げる。
「師匠って勝手に私が言ってるだけです。担任の藤波先生ですよ」
「あぁ、ポーカーフェースで有名な」
「スクールを卒業するまではメイドとして働きますけど…」
「卒業したら?」
「世界各地を巡ろうかと思います」
「そう」
「でも、先に故郷に帰るつもりです」
「最果ての町だったわよね?」
「はい」
「それまでは、皆一緒にいるんだよね」
「はい!リーク先輩もフラット先輩も」
「なら、いいのよ。この事件で皆いなくなるかなって危惧してたから」
涙目になる赤井。
「先輩?」
「本当はね、私がいじめのターゲットだったらしいんだ」
「………」
「内心、標的が私じゃなくてほっとしてた部分もあるの」
「でも、味方になってくださった」
「それは、そんなこと思ってるなんて悟られたくなかったから」
「矛先が私で、まだ良かったと思います。私には強い味方がいてくれたから」
「本当恵まれてるわね」
「はい。だから、気を落とさないで」
「ありがとう。ルナ」
「いいえこちらこそ。これからもよろしくお願いします」
満面の笑みをするルナにつられる赤井。
いつか別れるであろうその時まで、ルナはメイドとして働くのだろう。そして、いつか還るべき時が来るまで、スクールの勉学にも勤しむのだろう。