★MAIN★

□戸惑い
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※部分的に性的描写あり



ルナの闇雲ウイルスが完治してから、3ヶ月が経った夏真っ盛りのころ、玲奈は海上貿易に行くために会議を開いていた。

「女王は海上貿易は初めてですよね?」

「恥ずかしながらそうです」

海上貿易と言えば主に、トニーズの君主とアクアマリンの君主同士で行う貿易で、陸地にあるクリスタルキングダムの君主である玲奈は縁がない。しかし今回は、トニーズ、アクアマリン、クリスタル、タワーズのクリスタルワールド全域の貿易なので、参加せざる得なかったのだ。


「最近、海賊が多発してます。貿易船に紛れて、やつらは好き放題です」

「海賊を取り締まる法律は?」

「クリスタルキングダムの法律にはないわ。その専門はトニーズのはず」

「新たに作り直した方がよいかと」

「としても、作り直すにも最低6ヶ月掛かります。それに今回の貿易でも海賊船が…」

海賊船が国有船に、襲い掛からない根拠はない。

「女王、護衛を付けたほうが…」

「臣下以外で?」

「臣下はあくまでも臣下です。そろそろ新しい専属の執事を」

「執事ねぇ…」

雅也の没後、専属の執事がいない。いくらかその話をほのめかされたがすべてお断りした。

「執事に相応しい人材がいますか?」

「臣下の中で…」

「いや臣下にしてもらうのは遠慮する。彼らの専門外でしょうから」

「ですが…」

すると、さっきまで一言も話さずに聞いていた城医大臣の中川透が手を挙げた。

「執事に相応しい人間が、1人います」

「中川先生、誰ですか?臣下以外に執事に相応しい人は」

「フラット・クリフト。私の弟子です」

目を見張る大臣達。それには玲奈も驚く。

「フラットですか?まだ、15にもならない子供に女王の執事がつとまらないかと思いますが?」

「ましてや、彼は学生です」

「いや、前の執事も学生時代で執事をしてました」

「フラットねぇ…」

大人しくて、物静かなイメージがある。兄のリークは行動的なイメージがあり、どちらかと言えば彼の方が玲奈の執事としては、ふさわしい。もちろん先日彼本人から断られたが。

「お気に召されませんか?」

「…う〜ん」

「なら実際、執事として仕えるお試し期間を与えて、期間終了後執事として相応しいかどうかを決めたらどうでしょうか」

透の案に頷く臣下達。

「そうですね。今回は危険も伴いますから、護衛がいると心強いですね。でもフラット自身にその気があるかどうか…」

「私から説得します」

「ありがとう。とにかく夜も遅くなりましたので、会議を終えます。お疲れ様でした」

玲奈の言葉で会議を終える。臣下がいなくなった会議室に玲奈はついたてに頬杖をつきため息をつく。


(専属の執事なんて、考えてなかったな)


すると、透がフラットを連れてきた。フラットは玲奈を見るなり一礼する。

「失礼します。あの…女王?いきなりですみませんが、僕が貴女の執事になるのですか?」

透からおおよそのことは聞いたのだろう。しかし、釈然としない様子だ。

「不服みたいね」

「不服というより、もっと適任者がいたはずですが。人選ミスとしか言いようがない」

「臣下は信用はしてる。でも信頼は出来ない」

闇一族出身であることを、ほとんどの臣下が知ってる。だから疑念や、引け目を感じている部分もあるのだ。

「だからって…」

「…私を仕えるのは嫌?」

上目遣いで、見てくる玲奈にフラットはどぎまぎする。

「だって、海上貿易なんでしょう?女王ほどの能力者なら、執事なしで対処できるのでは?」

確かに、闇雲ウイルスと海賊の力量の差は歴然だし、玲奈も伝説の戦士としては目立たない方だが、能力値は高い。ましてやフラットよりも遥かに。しかし、透は反論する。

「女王に何かあったら困るのは、臣下達。後継ぎもまだいないから尚更」

「兄さんは完全にタワーズの人になった。それに従兄さんは、地上にはいない。本当は結婚するべきなんだろうけど…」

盛大なため息をつく玲奈。雅也の存在が大きすぎて、他の男など比ではないのだろう。

「でも、いずれは執事は必要だと思うよ。スケジュール把握や会議など、あと城の管理を女王一人ではきつすぎる」

「そうね。今の時期は比較的時間があるけれど」

「今の僕はまだ…」

俯くフラット。雅也に負い目を感じているのか、否定的な言葉を返す。

「そこまで一気にしろとは言わないよ。そうだこう思えばいい。女王専属のドクターだと」

「まだ医師免許持っていませんから、ドクターとは言えません」

あくまでも執事に就かないつもりらしい。

「それに僕にそんな力量はありません。むしろ先生がされた方がいいかと」

「無理だと思うよ」

「先生は家庭もあるし、そこまで任せるのは酷だわ」

「なら、どうして僕なんかを推薦したのですか?ドクターではない見習いの身である僕を」

「この話は、リークから薦められた。フラットが適任だと」

「兄さんでしたか…」

身内からの推薦だと知り、ため息をつく。

「兄さんの方が相応しいのに」

「本人からは断られたわ。仕えることはできないとね。多分ルナがいるからだと思うけれど」

「………」

「私としては…」

「兄さん希望だったんでしょ?雅也さんみたいに社交的だし。残念でしたね僕は、根暗ですもん」

少し拗ねたように言うフラット。やはり、リークの方についてもらいたかったのかと思うと、今更ながら悔しい。

「仕えてくれるなら、仲間の中であってほしいなと思った。彼らは少なくとも偏見がない人ばかりだし」

「消去法ですか?」

「フラット、言いすぎだぞ」

自棄になって言うフラットに諌める透。

「だってそうじゃないですか、藤波さんは望月さんの夫ですし、雨宮さんは棗さんの。そしてリークにはルナがいる。最終的にパートナーがいないのは僕と女王だけだ」

フラットの理論は正しい。だが、あまりにも冷たい言い方に眉を潜める透。

「僕だって、好きな人くらいいます。ただその想いは決して伝わらないけど」

「…伝わらない?」

「だって好きだと言って玉砕するのが怖いから。負ける戦は嫌いです」

「………」

「そう、どうしても執事が嫌なのね」

残念そうな顔をされて、しまったと思う。

「し、執事としてではなく、医者見習いとしてなら同行します…」

フラットなりの妥協案なのだ。

「それでも構わないわ。ただ…」

「ただ?」

「海賊船もあるみたいだから、くれぐれも気をつけて」

「心配には及びません」

「そう。あの…2人にしてくれませんか?先生」

「分かりました」

対処法を練るのだろうと、予測した透は素直に会議室を出た。玲奈は会議室を出て、バルコニーのテラスに座る。

「座りなさい」

玲奈に促されるように、椅子にすわるフラット。

「執事になりたくない理由を聞かせてほしい。もちろん力量不足と言うのはただの言い訳として扱うけど」

「なりたくないと言うより、ふさわしくないんです」

「どうして?先生からの評価も聞かされてるけど、そんなことないと思う」

膝に拳を置き、頭を下げる。

「先生は過大評価し過ぎなんだ。ルナの件だって、結局救ったのは兄さんなんだ」

「まさか好きな人って、ルナ?」

「違いますよ。ルナは幼なじみです」

「そう…」

渇いた口を潤すため、テーブルに置かれた紅茶を一口飲むフラット。

「話を戻しますね。研究、研究と言っておきながらまだ成果を出してません」

「………」

「それに、執事になったとしても僕は研究をやめないと思います」

それゆえ玲奈につきっきりで仕えることはできない。だから、ふさわしくないと言いたいのだ。

「フラットの言い分はよく分かった。私のこと嫌いなのね。昔はよく懐いてくれたけど、最近冷たいわね」

「嫌いとかそんなんじゃないです。でも…」

「でも」

「優しくなれる術が分からないのかもしれません。兄さんはこういうこともっとうまくできた気がするけれど。双子なのに」

「双子でも違うわ。それにリークはああ見えて不器用な部分もあるし、前はルナへの好意を持て余してたもの」

「けど、僕の場合は先天的なものがある」

「そうかしら?初めて出会った時は優しく出迎えてくれたでしょ」

「あの時は疑うことを知らなかったから」

あくまでも冷静に返すフラット。

「今、何か複雑な事情でも抱えてるんじゃない?言ったらすっきりするわ」

「言えば、絶対楽になれるという理論は通用しませんよ。むしろ苦しくなる」

「難しい年頃なのね。それだけ健全に成長してる証拠だけど」

「女王にも、そういう時代ありましたよね?」

すると、渇いた笑いが玲奈から聞こえる。

「私は雅也くんだけが唯一だったし、フラットの年代はいつも悩む暇さえないほど、張り詰めていた。だから思春期らしい悩み事がなかったな」

「今は?」

「悩み事と言えば1つだけ。本当に心を委ねることができる人がいないこと」

雅也がいなくなったことで、自分の居場所を見失ったにちがいない。それはフラットも薄々気付いていた。

「女王の身分じゃなかったら、後追い自殺してた」

その横顔が、あまりにも悲しいので胸が締め付けられる。

「それは雅也さんが望みませんよ」

「だとしても、許されるなら…」

「家族が悲しみますよ」

「だと思う。でも皆それぞれ幸せに暮らしてるわ。両親も兄さんも従兄さんも。私だけが1人取り残されてる」

淡麗な顔を歪ませる玲奈。それぞれの幸福を壊したくないと思いつつ、1人だけ残された疎外感があるのも否めない。

「かと言って、見合いもしたくないの…」

「雅也さんを忘れたくないから?」

「うん…」

「忘れる必要はないと思います。でも、自ら幸せから逃げるのはやめてほしい。貴女を見てると不幸のオーラが見える」

「そうなの?」

「笑っていても影がある。談話してても。そりゃあ皆気付いてるかどうかは知らないけれど」

図星を言われ、玲奈の顔が怒気に染まる。

「ノーデリカシーにもほどがあるわ。もっとオブラートに言えないの?」

「オブラートに言える方をお求めなら、他の人をどうぞ」

「やな言い方ね」

「自分に素直なだけです。それに女王が暗かったら臣下達は心配しますよ。だから執事の件が話題になったのでは?」

思い当たるふしはあった。しかし、こう改めて言われると腹立たしくなる。

「今回は危険な任務だからよ。私が明るかろうが暗かろうが、心から心配してくれる臣下はいない。あの人達は皆自分のことで精一杯なのよ!!」

テーブルを両手で叩き、激しい声を出す玲奈。

「それでも、僕は貴女の心配をする」

「えっ…」

いきなり見据えられ、その視線に逸らせなくなる玲奈。レンズごしに見えた彼の瞳には陰りがなく、いつにも増して真剣だ。

「執事の件は純粋にお断りする。でも、以前の貴女に戻ってほしい。雅也さんがいた頃の貴女に」

「それを求めても無駄よ。雅也くんはいないんだから」

「雅也さんがそれを望んでる」

「…分かったようなこと言わないで」

頬を叩こうとして手を挙げたら、フラットの眼鏡が吹っ飛んだ。フラットは眼鏡をすぐにかけ直す。

「あの人が死ぬ本当の直接に言われた。玲奈さんを頼むと。幸せにしてくれと」

「どうして?」

「………分からない。でも雅也さんの遺言に従いたい」

「義務感ならやめなさい。貴方が辛くなるだけだから」

「やめるもんか。これは僕の意思」

「…………」

何も言わない玲奈に苦笑するフラット。

「嫌いなのはむしろ貴女の方では?こんなデリカシーのない男ですから」

「…好きか嫌いかというより、貴方の真意が見えないだけだわ」

「知りたいですか?」

首を傾げるフラット。

「べ、別に。何を考えてるか読めないだけよ」

「悟らせないための術です。知ってますか?僕が眼鏡をかけだした理由」
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