★MAIN★
□戸惑い
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翌朝、治療薬と包帯を薬箱に詰めて、配布された執事服に袖を通すフラット。鏡に映る自分の姿にため息をつく。
(やはり不格好だ)
すると、白衣を着た透が肩を叩く。
「ちょっと、じっとしてて」
透はおもむろにワックスをつけはじめフラットの髪をセットする。すると、見事な執事姿になった。
「形から入るのもありだろ?」
「しかし僕は…」
浮かない顔のフラットに、透はこう提案する。
「あくまでもドクターか。まあ君が嫌なら今日限りでやめると言えばいい。正式に彼女の執事だとは決めてはいないのだから」
「…万が一の責任は、誰が取るんですか。僕ですよね?」
厳しい顔で言及するフラット。
「任せた俺にも責任はある。もし万が一女王の身になにかが起こったら、罪は一緒に受ける」
「連帯責任ということですか。気が重いです」
「何もフラット単独で女王を警護させるわけじゃない。もっと肩の力を抜いて」
両肩をポンポンと叩く透のおかげでフラットは幾分か気分が落ち着いた。そして朝食後、玲奈のいる王室に呼び出された。緊張する面持ちのまま一礼するフラット。
「本日は、女王の執事として参りました。フラット・クリフトです。不慣れではありますが皆様の足手まといにならないよう、精一杯務めさせていただきます」
「よく決心してくれたよフラット。こちらこそよろしく」
握手を交わす大臣とフラット。
「さてフラットも集まったことですから、今日のルートについて説明します。今回は四ヵ国海上貿易の地として、南のトニーズ港にて集合します。貿易船だと最速でも1時間はかかります。また海賊船も蔓延っていますので、各自で自分の身は守ってください」
玲奈は淡々と話を進める。改めて見るとやはり彼女は君主なのだ。昨日感じられなかった威厳がひしひしと伝わる。
「尚、執事のクリフトには貿易の際にも付いてきてもらいます。いいでしょうか」
「はい。それはもちろん」
「では11時が貿易の集合時間ですので、早速参りましょう」
玲奈とフラットを除けば10数人の臣下しかいない。雅也がいた場合は少なくとも、30人は付いてきた。それを見てやはり彼の影響力ありきだとお互いが痛感した。
「女王」
「気落ちしなくていいわよ。所詮私には人望がないってことだわ」
「いえ、例え少人数でもついてくる方はついてきます」
「ありがとう。気をつかってくれて」
寂しそうに笑う玲奈。きっとここでも自分と雅也を比べてるに違いない。暗い気持ちになりそうな心を奮い立たすために、フラットは話を続ける。
「景さんの時も、少人数で行かれたそうです。やはり少数精鋭なんですよ。ましてや海賊相手ですから」
「いや、私の臣下達は能力的にも向こうに劣るわ」
平和になったがゆえに、必死で訓練する必要がなくなったのだ。トニーズキャッスルの臣下達は孤島のため自分自身を守るために訓練してるため、玲奈の言うとおりなのだ。
「ならば、僕に信用なさればいい」
「執事だから?」
「…今日だけですけど」
顔を逸らし、眼鏡をかけ直す。
「そうね。臣下よりも貴方の方がよっぽど頼りになるわね」
「もったいなきお言葉です。さて、国有船に乗り込みましょう」
2人は城の裏口から出て、国有船のある港に向かった。するとすでに、臣下達が船の前で待っていた。
「さて、皆さん乗りますよ」
玲奈の指示で一斉に乗り込む臣下達。そして船はゆっくりと進みだした。真夏の日差しが玲奈達を容赦なく、照り付ける。思わず目を細める玲奈に、日傘を差し出す。
「今日は、今年最高の気温が予測されますから」
「貴方は平気なの?」
元は一年中20度を超えず、8月でも寒い時は10度を下回ると言われる最果ての町出身者であるフラットにしてみれば、この強烈と日差しでは体力が持たないのだろうと考えた玲奈は日傘を返す。
「女王?」
「私は平気よ。何年ここにいると思ってるの?」
雅也からこのクリスタルキャッスルへ連れ出されて、10年はとうに過ぎている。最近この地に来たフラットとは違うのだ。
「しかし、貴女に何かあってからでは遅いですよ」
すると、目的地でもないのに船が急に止まりだす。不審に思った臣下達はあたりを見渡す。
「エンジントラブルか?」
「いや、船体に問題は無かった」
「じゃあ、何故…」
そわそわしだす彼らに、指示を送ろうとした矢先、玲奈は何者かに口を布で覆われる。
「!?」
「彼女を離しなさい!!」
フラットは護身用のナイフを向ける。しかし、彼は全く動じない。
「馬鹿だな。お前達。この女は賞金首なんだよ。俺達の間じゃあな。おっと、そのナイフを近づけてみろ?そうしたら、この女の命はないぞ、小僧」
すると、睨みつける玲奈。緊迫した空気が流れる。
「自分の立場が分かってないようだな、後でじっくりと教えてやる」
「女王様!!」
「女王様だと?」
一度玲奈の方へ見遣る。
「貴方が捕らえたその女性は、クリスタルキングダムの君主です。もし、彼女に何かあれば貴方はもちろん、貴方の仲間まで時空間追放になります」
「死刑に匹敵するだって!?時空間追放ができんのは、この女自身だろ。ふはははは、大人しくこの女を渡すんだな」
「断ります」
フラットは男のすきをついてナイフを投げたが、男は玲奈を連れて消えてしまった。
「迂闊だった…」
「何ぼぉっとしてるんですか!女王を見つけなければならない時に」
しかし臣下達は乗り気ではないのか、誰一人として何かを行動する人はいない。
(雅也さんならこういう時、どう対処したのだろう)
「なら、僕一人で彼女を助けます」
「助けるたって、居場所が分からないじゃないか」
「奴は海賊だと言った。海賊船が自由に移動出来るのは、最果ての町エリア、そしてこのセントラルエリアしかない。でも、テレポートしたにせよ、最果ての町に行くには多少時間がかかる。それに最果ての町で海賊関係の事件は起こってない。ならば、そんなに遠くはないはずです」
つまりセントラルエリアに男がいるということだ。フラットはえんび服の上着を脱いでそのまま海の中に飛び込む。
「フラット!!」
「皆さんはそこでお待ちください。いいですね?」
動かないのなら、余計な真似はされたくない。フラットはそう思ったのか、臣下達を留まらせることにした。
一方、玲奈は海賊船に連れ込まれたのだ。彼女に群がる男達。下衆な目つきにめまいがする。
「これが噂の女か」
「よく捕らえたな」
「でもどうやって…」
「そんなことはどうでもいい。早くこの女を倉庫に連れていけ」
玲奈は捕らえられたまま、奥の倉庫に連れていかれる。そして捕らえた張本人が彼女を舐めるように見つめる。
「ほぉ、クリスタルキングダムにもこのような女がいたとはなぁ。全くそそりたつような身体をしている」
きぃっと睨みつける玲奈。
「何のつもりで私を捕らえたのですか?執事の言った通り私に手を出せば時空間追放ですよ?」
「あの小僧が執事だと。はははは、クリスタルキングダムも落ちぶれたもんだな」
男は玲奈の顎を持つ。
「汚らわしい手で私を触らないで!!」
ぴしゃりと手を払うが、男は依然として下衆な笑みを絶やさない。
「汚らわしいだと?俺知ってるんだぜ?お前が元、闇一族の幹部だったってことをよ!!なんなら、あの男達にばらそうか?」
「それだけはやめて!!」
「なら俺の言うことを聞くんだな」
正装のボタンを1つ外される。
「何の真似よ」
「いまからお前を女にしてやる。感謝しろよ!!」
「断るわ!誰があんたなんかと!!」
「口の減らない女だな。なら徹底的にやってやる」
正装そのものを破かれ、上半身下着姿になってしまう。それまでに、能力を使う時間があった筈だ。だが、能力を使えば、自分が闇一族であったことを明るみにされるに違いない。礼とは別の意味で、それだけは裂けたかった。
「ほぉ、通りでやらしいわけだ」
破かれた正装から突き出した豊満な胸。玲奈にとっては屈辱でしかない。なぜだか分からないが一筋の涙が流れ出た。
「やめて…お願いだから」
「ここでやめろと言われても、無理なこった」
「お願いだから、やめてください」
玲奈の必死の懇願をも無視して、男はこともあろうか彼女のブラジャーの中に手を突っ込んだ。
「やめろと言う割には、硬くなってるな」
「やっ…」
「期待してただろ?」
「違いますっ…こんなこと期待するわけないっ」
男を突き飛ばそうと、両腕を突き出すも受け止められ、手首を縄で縛られる。
「残念だったな」
「くっ…」
「大人しく感じればいい。自分がいかにやらしくて、はしたない人間かをな」
男はブラジャーのホックを外そうとすると、玲奈はこれでもかと言わんばかり、激しい抵抗をする。
「動くな!動けばあの小僧にこのことをバラす」
幻滅されるに違いない。もしかしたら本当に今日かぎりで執事を辞退されるかもしれない。いや、それだけならまだましだ。最悪顔を合わせてくれないかもしれない。玲奈は観念したのか抵抗をやめた。
ホックを外され、ブラジャーに収まった乳房があらわになる。玲奈はことが早く終わるのを願う。男は玲奈の胸を乱暴に揉みしだく。
「見た目だけでもなく、ここまでもやらしい身体を持っていたとは。臣下達もびっくりだろうな」
「臣下達のことは言わないでっ…」
「ほら、ここまた硬くなった。お前、捕まえられた男に無理矢理やられて、感じてるんだ。とんでもない雌だな」
「感じてなんかないっ…」
身体中に回るのは嫌悪感と恐怖だけだ。だが心とは裏腹に身体は素直に快感を受け取っている。その証拠に玲奈の吐息が徐々に甘いものへと変貌する。それは初めての感覚で、自分の身体の変貌に戸惑いを隠せない。それを察した男は、彼女の耳元で、囁く。
「気持ちいいんだろ?認めてしまえば、楽になるぜ」
「誰がこんなことされて…気持ちいいっ…なんて感じますかっ…!?」
心だけは折れたくなかった。玲奈は依然として男を睨みつけている。
「あくまでも、そのスタンスを保つとは…。お前まさか、処女か」
玲奈の目が限界まで見開かれる。実は、雅也とはキスどまりで、お互い交じり合う行為はしていなかった。それに闇一族だった時は、戦いの最中だったので尚更だ。
「じゃあ、俺がお前の初めてになるのか。光栄に思え。ふははははは!!」
玲奈くらいの上玉が処女でかつ、自分の手が彼女を汚せると思うと征服感を覚えて、愉快になるのだ。男は乳房から、パンティーの方に手を移す。これにはさすがにまずいと感じた玲奈は、最後の抵抗として、ひっきりなしに叫んだ。すると男は倉庫にあったガムテープで彼女の口を塞ぐ。
「叫んで、仲間に見つかる方がいいのか。こんなはしたない姿を見せたいのか。つくづくマゾな女だ」
「!?」
いやがる玲奈のパンティーを脱がそうとした瞬間、男の仲間の悲鳴が倉庫にも響きわたった。
「何事だ!!」
倉庫のドアを開けた瞬間、鋭利な瞳で男の喉元にナイフを向けるフラットの姿がいた。彼は玲奈の叫びを頼りにここまで自力で泳いできたので、ワイシャツとズボンがびしょ濡れだ。
「女王を返してもらえませんか?」
言葉こそ丁寧だが、そこに憤怒と憎悪が含まれている。
「こ、断ると言ったら?」
おそるおそる聞く男。さすがにこの目つきをしたフラットには敵わないのだろう。
「仲間全員殲滅します。もちろん、貴方も」
本気で言っているに違いない。その証拠に、船にいる仲間達はみな恐怖で震えているのだ。
「どうします?仲間を皆殺しにされるか、女王をこちらに返すか」
辺りを見渡すとしきりに首を振る仲間達。苦楽を共にした仲間達を皆殺しされたくはない。わずかに残った良心で男はこう言った。
「仲間を皆殺しにされたら、申し訳が立たねえ」