★MAIN★

□追憶
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一方、熱に浮かされた玲奈は、朦朧とする意識の中、かつての恋人だった戸川雅也のことを思い返していた。


あれは、12歳の頃でまだ地下世界にいたときだ。その当時、玲奈には母親の遼を除いて心を許せる人間はいなかった。同じ闇一族で次期首領だった、徳川爽。彼を思慕するサキュバス。そして、サキュバスに従う蝙蝠達。仲間意識は薄かった。闇一族について疑問が浮かんでいた。これは本当に、母親と父親が望んでいる平和のための別離だったのかと。だがそんなことを口にすれば、間違いなく【裏切り者】の烙印を押される。そして追放されるか、はたまた暗殺されるか。どちらにしても闇一族を離れる術はなかった。

そんなある日、仲間と呼ばれる徳川爽と意識通信をしていたところ、突然別の世界からの声が聞こえた。

『助けてっ…』

それは聞いたこともない声で、明らかに闇一族とは違う人物だと分かった。今、彼と通信してもいいのだろうか。

『もう、どないしたらええか分からん…』

『ダークプリンセス、応答は?』

他の声から爽の声が聞こえる。

「は、はい。こちら異常ありません」


『あれ?繋がってもうた?』

どうやらこちらの意識交信を受信したらしい。だが、爽には彼の声は聞こえてない。ならば、話すチャンスはある。

「受信方向間違ってるわよ」

『おわぁ、答えた』

「聞こえたんだから答えるわよ。で、貴方は誰?」

『…先に名乗ってくれたら言うわ』

『プリンセス?』

「異常なしです」

爽の交信を断ち切る。もし、爽の方を断ち切ってなければ、彼とは二度と話さなかったと今も思う。

『異常なし?』

「貴方が交信に乱入したのよ。だから切らざる得なかっただけ。本当やになっちゃうわ」

『そら、堪忍。でも俺の方断ち切ってもよかったんやで?』

いくらでもそうする方法はあった。だが、彼の声から助けを求める声が聞こえたのか、断ち切ってはいけないなと感じたのだ。

「いいのよ。私は地下世界の住人。名前はどうしても教えてはならない決まりになってるから」

『…つまり、闇一族なんか?』

「そうよ。だから今日限りで連絡はしないでね。でないと場所を特定して抹殺するから」

『こわっ。でも、まだ名前聞いてへん』

「名前聞いたら、連絡しないって言うの?」

『それも無理。なんかの縁やと思うし?俺はあんたと友人になりたい』

闇一族と友達になりたいだなんて、変わってる。これが彼に抱いた最初の印象だ。

「闇一族と分かってるくせに、命知らずね」

『俺、そういうところ疎いんよ。闇一族も闇一族じゃなくても、あんたは俺の通信を答えてくれた。それだけで友達としての資質はあるんとちゃうかな』

そう言われたのは初めてだった。闇一族は皆、最低限しか連絡も会話もしない。また友達という関係もない。

「友達…?」

『そう友達。かくいう俺は見知らぬ地におるから、友達はおらんゅ。クラスメートっていうやつはあるけど、所詮他人同士やしな』

「だからって私に友達になれって?自分勝手な人ね」

闇一族は群れない主義だ。役に立たないと分かれば、容赦なく切り捨てる。それが日常風景だった玲奈には信じられない言葉だった。

『そうかも。あくまでも俺の予測なんやけど、あんたべっぴんさんなんやろうな。気が強くてでも、優しい人』

「顔見てから言いなさいよ、そういうのは」

『じゃあ会いに行ってえぇの?しゃあないな。それやったら名前先に教えとくわ。戸川雅也。1つ下の妹を置いて家出した』

「家出?」

『うん。家出。で、路頭に迷ってたから思わず助けを求めた』

「…そう」

呑気な声とは裏腹に壮絶な状況に同情せざる得ない。

『あぁ、でもそちらさんからしたら迷惑やな。悪い悪い』

「迷惑以前にびっくりしたのよ。闇一族以外の人間との連絡なんて、ないから」

闇一族はダークロードという閉塞空間にあるため、外界からのテレパシーはいっさい受けつけないのだ。

『そうか。じゃあ俺が外界一号の友達ってことで』

「勝手に決めないでよ」


他愛のない会話を、徳川爽の目を盗んで、この時から月に1回意識交信で会話することになった。

(そういえば初めて名前を教えたのは、彼が15の時だった…)


それは、爽のいない日に初めて、雅也が自分のところへやってきた日。もちろん、母親の遼には、彼が来ることを教えていたし、何もいわず快諾してくれた。

相変わらず闇夜だった。城門で門番をしてると、サリー姿の人影が見えた。

「聖職者の方ですか?申し訳ありませんが私達は異教徒なんで」

「聖職者みたいな立派なやつとちゃうで、門番さん。あんな、俺、戸川雅也って言うんやけど…あの子おる?」

いつも意識通信でしか会話しない人物が、目の前にいた。髪をピンで止めていて、こぼれ落ちそうなほど大きな瞳で見つめてくる。

「あの子って、私のことかしら?」

「そうそう。初めましてやね!予想通り別嬪さんやね」

「別嬪さんかどうかはしらないけど、初めまして。でも、貴方も物好きね。こんなところに来るなんて」

「まあな。でも良かったぁ」

「何が?」

「元気そうで、なによりや」

「はぁ!?」

何を根拠に言われているのか、意味が分からない。

「あんたの母さん調子悪いんやってね。ずっと看病してたから、やつれてるんとちゃうかなって心配してた」

「やつれるほど、柔じゃないわよ。ほら、そこに突っ立ってないで、中に入って」

玲奈は、他の闇一族の目を盗みエントランスから、自室へ雅也を連れていく。

「ここがあんたの部屋か。ん?」

彼が手にしたのは、ジョブカードだ。玲奈は慌ててカードを奪い返す。

「プライバシーの侵害よ」

「…すまん。でも安心して地上世界の人間には内緒にしとくから。な?佐伯玲奈ちゃん」

どうやら名前まで、バッチリ見られてしまったようだ。

「懐かしいわね、その名前」

「なんで」

闇一族は、本名で呼ぶことはまずないのだ。もちろん玲奈は【リトルダークプリンセス】と呼ばれていたため名前で呼ばれることはない。

「私達に名前は存在しないの」

「コードネームか。俺にもあんで。【ライオネル】髪型ライオンっぽいやろ?」

確かに後ろ髪を建てているし、小麦色に近い肌質が余計にそれを思い出させる。

「へぇ、じゃあライオネルさんと呼ぶべきかしら?」

「ライオネルは、スクールの同好会での名前や。むしろ、普通に雅也って言ってくれる方がえぇな」

闇一族に対してここまで、無防備な雅也に気が抜ける。

「貴方、私が何者か知ってるわよね?」

「知ってるけど、それはあくまでも立場上の話やん。別に俺はあんたを抹殺しようとここに来たわけやないし」

「けど、いまここで私が貴方を抹殺することも可能なのよ」

つまり、無防備すぎる彼への警告だ。

「抹殺は勘弁してぇや。こちらは友達になりたいだけやから。何もあんたに強制はせえへんけど」

「つくづく変わってるわね」

呆れたように笑うと、雅也も笑いだした。

「笑えるんや」

「馬鹿にしてるのよ。あまりにも警戒心がなさ過ぎだから」

「警戒心なんか最初からなかったで?にしても、赤い瞳なんて洒落てるやん」

地上世界の人間から忌み嫌われる対象である赤い瞳。それに対して褒められるなんて初めてだった。

「洒落てる?」

「素敵やで?夕日みたいに優しい印象や。すべてを包み込んでくれそうな色。俺は好きやな」

瞳を覗き込まれて、恥ずかしくなる。

「ほ、本当にそう思うの?闇一族の証だって、地上世界の人は忌み嫌ってるのに」

「それはうちらの世界をめちゃめちゃにした一部の奴らの所業のせいやん。それで、たまたま赤い目してたから、そういう風にインプットされただけやろ。俺はそういうのは、偏見やと思う。だって、紅龍の作者かて赤い目やし、その旦那さんも赤い目やん。でも彼らは悪者やないもん」

【紅龍】シリーズは、遼の書斎にあり小さい頃、何度か読んでもらったことがある。

「確かにそうね。貴方の言う通りよ。でも、私は正真正銘闇一族」

すると、真剣な顔つきになる。

「きっと、今ここで貴方を殺すことも罪悪感を感じないと思う」

「じゃあ、なんで助けを求めたとき、無視せえへんかったん?」

「あれは単なる気まぐれよ。勘違いしないでよ」

すると、すっと離れる雅也。

「つまり、敵同士って言いたいわけか。でも、そう言ってる割にはけっこう親切な気がするなぁ。通信もなんやかんやいって付き合ってくれたし、今日のことも断らんかった。本当は優しいんやなって思う。まだ、闇には染まり切ってないよな?」

儀式は、16になってからだ。だから、良心が少し残っていた。

「かも。母さんは私が闇に染まることを反対してる。それに、上司の無茶苦茶さには嫌気がさしてたのよ」

「上司?」

「ダークプリンス。実質的リーダーよ」

「じゃあ寝返りするか?」

「出来るなら最初からしてるわよ」

当時から、圧倒的な力を持つ爽に玲奈は敵わなかった。もちろんこの上司が自分のいとこであり、徳川爽だということはまだ知らなかった。

「そっかぁ。おっかないんやね」

「だから、貴方の存在がバレたら容赦なく殺されると思う」

それは、間接的だが事実となってしまった。

「今日限りで会わない方がえぇってか?冗談やない。せっかく会ったんやから、親交を深めたいんや」

「親交?冗談じゃない」

「あんた側からしたら、俺は敵やと思うで。でも、たまたま生まれたところがここやっただけやろ?」

厳密に言えば、ここで生まれたわけではなく、生後3ヶ月でここに移ったのだ。

「…せやから、敵味方関係なく仲良くしたいんやけど」

「………」

「やっぱりあかん?そちら側からしたら皆敵なんか?」

困ったように笑う雅也に、玲奈はため息をつく。

「要注意人物以外は、敵でもなく味方でもないわ。つまり貴方はとるに足らない人」

「要注意人物?」

「こちら側から言わせてもらうと、四龍」

「平和の象徴か」

「そうね。彼らは1000年で寿命がくる。後1年後がXデー」

「黒龍は?」

「敵の情報知ってなんになるのよ。本当に馬鹿ね」

すると、彼はこう告げた。

「馬鹿でもなんでもえぇ。俺は損得なしであんたと友人になりたい」

「本当馬鹿」

悪態をついても雅也の笑顔は変わらない。

「ま、そちらが無理なら強制せえへんけど。じゃあまた会いに行くわ。その時に返事聞かせてなぁ?」

その後も、雅也は一ヶ月に一、二回のペースで玲奈に会っては、他愛のない話をしにきた。

「本当、変わってるわね。わざわざ地上の人間がここに来るなんて」

締まりのない笑顔に、呆れたのかため息をつく。

「いや、ここに来たら玲奈ちゃんに会えるやん」

「あのね…私は馴れ合いの関係は嫌なの。ただでさえ貴方のその馴れ馴れしさには冷や冷やさせられるわ」

「そりゃすまん。でも一回地上世界に出てみいへん?澄み切った青空に眩しい太陽があるで。そして夜になったら満天の星空が見渡せる」

生まれてこの方夜の世界しか知らない玲奈にとって、この提案は青天の霹靂だ。その証拠に口をぽかんと開いたまま閉じられないのだ。

「…馬鹿言ってるんじゃないわよ。私にとって向こう側は敵よ。それでなくとも太陽は目の毒なのに」

「ずっと闇の世界におるんか?いろんな世界見ないともったいないやん」

「そういう権利は私にはないの」

すべて、闇の首領の許可が必要だ。玲奈には決定権がない。







(あれから、どんどん彼に私は魅せられた)

気がつくと朝方から昼になっていた。ベッドサイドに座るフラットが不安げな顔つきでこちらを見ていた。

「…ずっと、いたの?」
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