★MAIN★
□追憶
2ページ/2ページ
フラットは、物憂げな顔をしながら頷く。隣で私の腕に繋がれた点滴の交換をする中川城務医長。
「随分とうなされていたよ」
「…すみません」
「理由は聞かないけど…」
言える理由なら言える。しかし…昨日の今日だ。沈黙を貫くしか自分を守る術を知らない。
「私は少し他の患者を見てくる。女王、今日一日は絶対安静でお願いします。フラット、頼むぞ」
「はい」
中川城務医長が退室すると、フラットが不安げな顔をしている。
「昨日は本当に申し訳ありませんでした。貴女を守れなかった」
やはり昨日のことに罪悪感を持っているのだろう。
「フラットのせいじゃないわ。確かに、見られたくないものまで見られたけど」
いくら弟のように接しても、フラットも立派な青年だ。雅也さえ裸体を見たことがなかったので、私自身も彼に見られたことがショックでたまらなかった。
「…すみません」
「タオルありがとう」
顔を向けるとそっと、自分の手に両手を添えられた。
「本当にごめんなさい」
今にも泣きそうな顔を見て握られていない方の手で彼の頬を触れる。
「泣かないで。貴方のせいじゃないから」
「違うんです。雅也さんに申し訳ないことをしたなって」
雅也があの状況下にいたとすれば、すぐにテレポートして駆け付ける。でもフラットは元々黒魔導士故に、テレポートはできないので自力で追い掛けるしかできない。その分、時間が掛かったのだ。
「僕が黒魔導士だったばかりに…」
「ずぶ濡れになりながら貴方は助けてくれた。あんな恐ろしい相手に果敢にも」
「だって、貴女があんな目に遭ってたから、許せなかった。闇一族というだけで辱めの対象にされるのは、介せなかった」
「フラット…」
初めて出会った時、リークは闇一族だった私を憎んでいたし、切りつけた。でもフラットは最初から懐いてくれた。
「雅也さんがおっしゃった。貴女は太陽みたいな存在だと。僕だってそう思いました。結果的にはルフィアさんは亡くなってしまったけれど、貴女がいたから最期まで頑張れた。でも、僕は貴女に対して何の恩返しも出来ていません。恩返しどころか恩を仇で返しました。だから、執事を降りようと思ってました」
真面目なフラットのことだ。昨日の件で責任を感じてやめるだなんて言った。
「恩を仇で返された覚えはないわ。貴方は何にでも真剣すぎるのよ」
「だって…大切なお体なのに」
「あんな目に遭ったのは今日が初めて。でもね、所詮私は闇一族という扱いなのよ。いくら貴方が慕ってくれてもね」
悲しくもないのに涙が溢れる。